「牛乳を飲ませない」育児論の松嶋尚美、母乳育児にこだわり…『子育てトンデモ言説』が母親たちを振り回す
2011年12月に第一子となる男児を、2013年6月に第二子となる女児を出産し、ママタレ街道を驀進中の松嶋尚美(43)が、テレビ番組で医師に育児方針を注意される一幕があった。
7日に放送された『中居正広のミになる図書館』(テレビ朝日系)に出演した松嶋は、子育てのこだわりとして2人の子供たちに「牛乳を飲ませない」ようにしていることを挙げた。長男の通う幼稚園にも、なるべく牛乳を飲ませないよう伝えており、園では牛乳の代わりに麦茶を出してもらっているそうだ。なぜ子供たちに牛乳を飲ませたくないのかというと、「『牛乳を飲むことによって、体内のカルシウムが尿と一緒に排出されてしまう』『乳製品を多く取っている国は、骨粗しょう症にかかりやすい人が多い』と人づてに聞いたから」だという。
これに内科医の大竹真一郎氏が反論。“牛乳の摂取により体内のカルシウムが輩出される”という松嶋の説を「体が『取り過ぎたな』と判断しても、余った分はともかく全てのカルシウムを体外に排出するようなことはない」と一蹴した。また、“乳製品を多く取っている国は、骨粗しょう症にかかりやすい人が多い”という説についても「北欧のノルウェー、フィンランド、スウェーデンの国民は骨粗しょう症になりやすいとされるが、その原因は牛乳を飲むからではない」とバッサリ。北欧の人々は太陽光に含まれるビタミンDを身体に十分取り入れることができないため、骨粗しょう症を引き起こすのではないか、と説明した。
それにしても、松嶋が“人づてに聞いた話”をなぜ真に受け実践してしまうのか不思議に感じた視聴者もいたのではないだろうか。しかし子育て中の女性が子供に与える食品に対して必要以上に注意を払ったり、また乳児期であれば母乳育児に強いこだわりを見せることは実によくある話なのだ。
先日は母乳育児を望む女性をターゲットにした『母乳販売サイト』の存在が取りざたされたが、そこで販売される“母乳”がごく少量の母乳に粉ミルクや水を混ぜた『偽母乳』だったことや、細菌も一般的な母乳の約100倍だったことが毎日新聞で報じられ大きな話題となった。
この問題は現在まで5回にわたって特集が組まれ、そのひとつに母乳育児にまつわる言説に振り回される女性への取材記事がある。
そこでは、我が子が上手に母乳を飲む事が出来ず、粉ミルクへの移行を考えるも、ネット上によくある「粉ミルクを足すと、母乳を飲まなくなる」「母乳でないと免疫機能に影響が出る」「母乳で育つと情緒が安定する」などの母乳礼讃説を目にした母親が、“何が何でも”と、より母乳育児に固執していく様がわかりやすく伝えられていた。記事には、この女性の子供が1歳になるまで記していた『育児日記』も公開されているのだが、毎日びっしりと母乳育児への悩みが書き込まれており、切羽詰まった様子が伺える。
乳児期は特に子育てが大変な時期であり、女性のホルモンバランスも妊娠と出産により崩れているため、なにかとネガティブに物事を考える傾向が出てくる。しかも子供はまだ数時間おきに目を覚ますので、主に世話を担う母親はろくに睡眠もとれず心身ともに疲れ切っている。夜中に片方の腕で子供を抱きつつおっぱいをくわえさせながらもう片方の手でスマホを持ち「母乳 食べ物」など検索して、母乳をよく出すためには何を食べたら良いのか、おっぱいが詰まってしまわないためには(母乳育児中は“オッパイつまり現象”がよく起こり、乳首の先が詰まってオッパイが出なくなることがある。むちゃくちゃ痛い)どうしたらよいのか、と調べまくるのは筆者もよくやった。
そうした中で先のような、“子供の食”について不安を与えるような言説に出会ってしまう機会は、非常に多い。睡眠時間もまともにとれない中、慣れない育児に疲れ切った真夜中、こんな言説を目にしたら、たとえ普段は論理的で合理的に物事を考えるタイプの女性だとしても、「ああ、そうなのか……」と素直に信じてしまうのかもしれない。食についてこだわりを持って育児をしたいと考えている女性であればなおさら、不安にもなるだろう。偽母乳ビジネスはそうした「疲労困憊の母親たち」をターゲットにしており、母乳育児に悩む女性に寄り添うビジネスではなく、完全に食い物にしているのだ。
冒頭の松嶋のように、乳児期を過ぎてもこうした言説には数多く接する機会がある。特に、知り合ったママ友が食に対して意識の高い女性であったりすれば結構キツい。もちろん、筆者のまわりにも何人かいる。しかし、いわずもがなであるが、ネットでよく見かけるような、子供の食に対して不安を煽る言説にはエビデンスを示していないものが多く、無条件に真に受けるべきではないし、信じる必要もない。特定の商品名を挙げて“この食品には発がん性物質が含まれるから”などとさも真実かのように言うママさんもいるが、その食品だけを避ければガンにならないと言い切れるものではない。
また、少し調べれば、その説が「正しいものか否か」はわかりそうなものだ。松嶋が信じ、実践していた「子供に牛乳を飲ませない」件についても、調べればすぐに医学的見地から否定するサイトが出て来る。ここでも「カルシウムが尿と一緒に輩出されることはない」と明言している。胡散臭い“子供の食”について危機感を煽るような噂話については、疑問があればネットで調べたり、販売元や厚生労働省に問い合わせるなどすれば、こうした言説が正しいかそうでないかはすぐに分かる。むしろ神経質になりすぎることで、母親である女性の神経がすり減ってしまうほうが、子供にとっては不幸なのではないだろうか。
テレビ視聴率は低下の一途をたどり(そもそも視聴率という数字の意義が疑わしいが)、「テレビの時代は終わった」と言われて久しいが、まだまだテレビのメディアとしての影響力は大きい。だからこそ、母親である女性を苦しめるこうした言説を、テレビでこそ次々に斬り捨てていってほしい。
■ブログウォッチャー京子/ 1970年代生まれのライター。2年前に男児を出産。日課はインスタウォッチ。子供を寝かしつけながらうっかり自分も寝落ちしてしまうため、いつも明け方に目覚めて原稿を書いています。