アイドルとアーティストの境界はどこに? 地下アイドル・姫乃たまが考える

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地下アイドルでありながらライターとしても活躍する姫乃たま

【リアルサウンドより】

 数年前に、地下アイドルのポートレイトを集めた『インディーズ・アイドル名鑑』という写真集の出版に携わりました。知名度や活動内容に関わらず、ひとりにつき1頁、同じ背景で平等に200名以上の地下アイドルを写しました。

 タイトルで、地下アイドルが「インディーズ・アイドル」と表記されているのは、発売する段階になって、「タイトルに地下アイドルという単語を入れるなら写真は掲載させない」という意見が相次いだためです。その後、写真集に被写体として参加していただいた方々を招き、出版を記念したトークショーを開催したのですが、そこでも自らを「地下アイドル」と称する人はいませんでした。それどころか自身をアイドルであると言った出演者のほうが、少なかったのです。

 彼女たち(あるいはその事務所)は、地下アイドルを撮影する趣旨の写真集であると理解して依頼を受けたはずなのに、どうしてこのようなことが起きたのでしょうか。

 みんな同じアイドルじゃん、というお茶の間からの声が、鼓膜のそばまで迫ってきている気配を感じていますが、聞き入れません。なぜなら、そんなことを言えば爆発しそうなほど、この問題は根が深くややこしいからです。

 たとえば、地下アイドルとしてオファーを受けた出演者が集まるライブで、主催者が帰り際に「今度は女性アーティストだけを集めたイベントをやるから、よかったら出てよ」と言います。出演者の女の子はその誘いに笑いかけ、会場を出てから「何言ってんのよ、私たちだってアーティストじゃんね」と、顔をしかめてみせる。そういうことです。

 アイドルと同じくらい、世間的な定義が曖昧な「アーティスト」ですが、ある時には、「あの子、アーティストぶって調子に乗ってるよね」という、ニュアンスばかりで細かい原因がはっきりしない悪口にまで使用されます。私は、アイドルソングをカバーしている共演者を、「私、アイドルとかじゃなくて、アーティストだから!」と、激昂させてしまったことがあり、唖然としながら、もうこの「アイドル、アーティストどっちなの問題」に封をしたのです。

 この問題は、お茶の間でアイドルグループ視されているグループ間でも、繰り広げられています。

 EXILEの妹分であるE-girlsは、自らを「ガールズパフォーマンスグループ」と称しており、9nineは「パフォーマンスガールズユニット」、そして脱アイドルを宣言が記憶に新しい東京女子流は、「ガールズダンスアンドボーカルグループ」になりました。

 肩書きが異なっても「歌って踊る女の子たち」であることに変わりはないのですが、東京女子流は脱アイドルのために、アイドル専門誌やアイドルフェスへの露出、そして握手会の開催をやめました。一見、活動の場が減少しているようですが、ファンと直接接触する機会などを減少させることで、手の届かない存在という印象が強まり、近年のアイドルブームの特徴から抜け出すことに成功しています。また「TV Bros.」で「あたしアイドルじゃねぇし!」を連載しているきゃりーぱみゅぱみゅも、肩書きは「アーティスト/モデル」です。

 自分の知識にないものや、異なっているものと遭遇した時に、否定したり怒ってみせたりする人がいますが、そういった層の方々が「どこがアイドルと違うんだ」と意見します。論点はだいたい、自分で楽曲を作っていないというところです。

 アイドルを褒め称える時、不思議と「アイドルとは思えない実力」という、アイドルを否定するかのような文章が出てきます。アイドルは高度な技術を持っていないという風潮があるのでしょう。

 周囲に自分をどう見られたいかというのは、多くの人が意識するのを止めてしまっているほど、誰にとっても重要な問題です。ここまでに登場した人物はすべて「歌う女の子」ですが、その肩書きは、本人や事務所の自意識に基づいて決定されています。どう見られたいかの理想像は個々の価値観によるので、どのような肩書きが正しいとか、偉いとか、そういうことはないと思われます。

 しかし、非アイドルを掲げる人たちの一方で、作詞作曲や演奏、振り付けを自分でこなしていても、アイドルを自称する人もいます。この自意識は、個人の感情だけでなく、ビジネスとも繋がっているのです。たとえば、「アーティストとして活動したいけど、稼げなくなるからアイドル関連の仕事がやめられない」という悩みは、時々耳にします。

 複数買いという慣習や、アイドル専門の雑誌、ライブ、番組など、アイドルでいれば稼げる場があるにも関わらず、そこから飛び出す恐怖が伴うのです。こうして冒頭のような、地下アイドルが集まる場で活動しながら、自らをアーティストであるとする人たちが存在しています。

 私は高跳びよりリンボーダンスの方が得意なので、地下アイドルを自称して、細々と仕事をもらう方向を選択しました。これもまた間違いではないということでひとつ……。

■姫乃たま(ひめの たま)
地下アイドル/ライター。1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで開始した地下アイドルを経て、ライター業を開始。アイドルとアダルトを中心に、幅広い分野を手掛ける。以降、地下アイドルとしてのライブ活動を中心に、文章を書きながら、モデル、DJ、司会などを30点くらいでこなす。ゆるく、ながく、推されることを望んでいる。

[HP] http://himeeeno.wix.com/tama
[ブログ]姫乃たまのあしたまにゃーな http://ameblo.jp/love-himeno/
Twitter https://twitter.com/Himeeeno

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