ディズニーによって作られた祭りと群がるメディア…広告大量投下でゴリ押し『スター・ウォーズ』の虚像

――このほど公開された映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』。第1作の公開が約40年前とあり、年季の入ったファンが多い同作。本作からディズニーが配給となり興行成績の記録を更新すると意気込み、世間でもお祭り状態だ。一方で、そうした記録を目論むあまりに、強引な営業や不自然すぎるヨイショPRも目立った。果たして、スター・ウォーズは、それほどまでに大騒ぎするほどの作品だったのか? その価値を見なおしつつ、強引とまで言われるビジネスの実態を暴いてみよう。

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最近では広告募集さえ目立つ、繁華街の立て看板でも大々的に宣伝されていた。

 2015年12月18日、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が全世界で公開された。前日譚である『エピソード1~3』(99年~05年)とは異なり、「完全なる新作」だっただけにファンの期待はひとしお。公開初日の先行予約チケットは、発売と同時に東京都内の主要劇場分は即完売した。

 しかし、蓋を開けてみると、日本での初週の週末観客動員数はトップの『妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』が約97万人の動員数だったのに対して約80万人と惜敗。『スター・ウォーズ(以下、SW)』が全国370館958スクリーン、『妖怪ウォッチ』が全国359館434スクリーンという大きく差のついた公開規模だったのにもかかわらず、だ。本当に『SW』は全世界が待ち望んだ新作だったのだろうか?

 確かに本作は前評判の通り、米国では興行収入が7億4220万ドルを超え、歴代1位の『アバター』の記録=7億6050万ドルに並ぶと目されている。日本でも、公開17日間で累計動員数は414万人に達し、興行収入は63億9980万円を記録。大ヒット作であることは間違いない。しかしながら、その成果が作品の価値そのものへの評価だったのかどうかは、疑問が出てくる。一種の「祭り」とも言える『エピソード7』の公開。その本性を解き明かすため、まずはシリーズの歴史を振り返ってみよう。

 1977年5月25日、ジョージ・ルーカスの手によって、シリーズ第1作目『新たなる希望(4)』が世に送り出された。ルーカスが文字通り身銭を切って作り上げた渾身の作品だったが、試写会ではルーカスの盟友=スティーブン・スピルバーグしか作品を褒めた人がいなかったという映画の出来に、配給元の20世紀フォックスは尻込み。公開当時のアメリカ国内での上映館数はわずか32館だったという。しかし「これまでにない映像作品だ」という口コミが広まり、大ヒットを記録。その後、80年に『帝国の逆襲(5)』、83年には『ジェダイの帰還(6)』が公開され、ルーカスの作り上げたSWシリーズは映画史に残る「クラシック」となった。

 しかしながら、その栄誉を葬ったのもまたルーカスその人が作った『エピソード4~6 特別編』と『エピソード1~3』だった。97年に発表された『特別編』は、撮影当時は実現できなかったイメージをCG技術を使って具現化。99年~05年にかけて公開された『1~3』は前3部作の前日譚を意欲的に描いた。ところが、最新技術を駆使した新たな物語に、熱狂的なファンは大激怒。批判の最大の理由は「オリジナルのエピソード4~6が持っていたクラシックな映像表現が失われた」ことだった。

 そして『エピソード3』公開から7年後の12年、ルーカスフィルムはウォルト・ディズニーに買収される。同時に『エピソード7~9』とスピンオフ作品、計5本の制作が発表されたが、ルーカス本人は同シリーズからの引退を表明した。

『新たなる希望』の公開をリアルタイムで経験した評論家の円堂都司昭氏は、公開当時の印象をこう語る。

「SF映画の王道ともいうべき『2001年宇宙の旅』や『猿の惑星』がそれ以前に話題になっていたこともあり、本格的なSFファンからはチャンバラ活劇的な『SW』はお子様向けと思われていたのは事実です。映像は革新的ですが古臭いストーリー展開なので、どこか『懐かしいなぁ』という印象がありました。また、日本での公開は78年ですが、77年にアメリカでヒットを記録した時点で情報は日本にも入ってきていた。公開に先駆けてサントラ盤やノベライズ本など関連商品を発売して、映画への期待を煽っていました。当時は角川映画がメディア・ミックス的な手法を手がけ始めた時代でしたので、同時代性がありましたね」

 こうしたメディア・ミックスを通じて「お祭り」を盛り上げていく方法は、今回のプロモーションでも用いられている。食品から衣料品に至るまで、あらゆる分野での関連商品の展開はもちろんのこと、カルチャー誌だけでなく女性誌にまで手を広げ、テレビ・スポットを打ちまくるメディア戦略が実施された。一説によると、これには史上最大規模の宣伝費が投入されているという。

 あまりの縦横無尽ぶりに謎コラボも多数出現している。その中でもファンからのヤジが飛んだのは、本編上映前に流れた『ONE PIECE』とのコラボ映像だ。ルフィが『SW』に「エール」を贈るという内容だったが、一部の映画館では不評を考慮して、上映されなかったという噂もある。いくら『SW』が使えるからといって、世界観を無視し、知名度を高めるためだけの無為なコラボレーションには閉口せざるを得ない。

 さらに公開前に話題となったのは、都内約9カ所の映画館が1800円から2000円にチケットの料金を特別料金に設定したこと。ネットを中心に「足元を見てる」「守銭奴」などとファンは猛反発。本社から『アナと雪の女王』超えの興行収入を厳命されているという日本のディズニーの策略が絡んでいるという話もあったが、映画ライターのよしひろまさみち氏は値上げの理由をこう分析する。

「TOHOシネマズは『SW』の新作公開に当たって、音響システムを最新のものに切り替えるなど、設備投資をしてきたんです。客が入らなければスクリーン数が減らされる今のシネコンの現状では、ロングランで大ヒットという昔ながらの映画のヒット作は出し難い。だからこそ短期間で設備投資の費用を回収するために特別料金を設定するというのは、特段おかしいこととは思えません」

 納得できる理由があっても、これだけの反発が出るのは、そのやり口が強引すぎるがゆえだ。それは『フォースの覚醒』の作品性にも表れている。

 ルーカスに代わり、J.J.エイブラムスが監督した同作は、『1~3』でルーカスが『SW』の世界を拡張しようとしたチャレンジは見られず、旧三部作のテイストを踏襲した、徹底的なオマージュ作品となっている。しかしそれが功を奏した。ただ、ルーカスは試写視聴前のインタビューで「『エピソード7』は、レトロで嫌いだ。自分は愛した子を奴隷商人に売り渡した」とまで述べ、作品が自分の手を完全に離れたことを強調していた。

 確かに『フォースの覚醒』からはルーカスの作家性は失われ、精巧に作り上げられた出来のいい“商品”として成立しているように思える。

 巧妙な宣伝戦略と商品作りによって成立した今回の『SW』祭り。本特集では、識者の作品論やビジネス分析などから、全世界を巻き込んだ、この狂騒的な「祭り」のダークサイドを紐解いてみよう。

(文/小田部 仁)

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