利用客の大半は異性愛者女性。彼女らはなぜレズ風俗を利用するのか/『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』の人気キャストに会ってきた【01】

 姿見をのぞき込み、簡単にメイクを直す。ショートヘアに、シンプルなパンツスタイル。もともとメイクは薄く、それゆえかえって大きな瞳が際立っている。雑居ビルの一室は殺風景といえば、殺風景。小ぎれいに片づけられていて余分なものは何もなく、特徴的なものを強いて挙げるとすれば、カラーボックスに収められた、米国の人気ドラマ『Lの世界』のDVDセット。そして、ピンクの背表紙の本が1冊。手に取ると『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(永田カビ著、イースト・プレス)……今年の「Amazonのランキング大賞 Kindle本 コミック部門」で5位にランクインした、話題のコミックエッセイだった。

「準備、できました!」と明るくハリのある声とともにふり返る彼女こそ、同コミックに登場する“ゆう”さん(作中では“ゆか”さん)。大阪を拠点に女性同士の性サービスを提供する「レズっ娘クラブ」「ティアラ」の人気キャストで、この日もこれから予約が1件入っていた。同店のオーナーである御坊(おぼう)さんに「いってきます!」と明るく声をかけ、ゆうさんは事務所を後にした。

ゆうさん(以下、ゆう)「きょうは、初めて当店を利用するお客さま。女性同士のプレイも初めてだそうです。どんな方なんでしょうね、楽しみです」

 これからゆうさんは、事前に決めておいた待ち合わせ場所に向かう。途中まで同行させてもらった。

 事務所から数分も歩けば、そこは大阪一の繁華街。定番の待ち合わせは、百貨店の入口や、コンビニの前。女性同士がそこで落ち合っていても、友だち同士の約束にしか見えない。初めての利用の場合、前日までにその日の服装を店側に伝えることになっている。それをキャストが見つけて声をかけるので、ぎくしゃくすることなく自然に出会える。

女の子となら、怖くないかも

 同店にはいくつかのコースが用意されているが、最もライトなものは「デートコース」。文字どおり食事をしたりどこかに遊びにいったりデートを楽しむコースで、性サービスは含まれていない。一方で「ビアンコース」は基本的にホテルでふたりきりの時間を過ごす。この日の予約は、後者だった。

ゆう「実はお客さまのなかでレズビアンの方は少数派なんです。7〜8割はノンケ、つまり異性愛者です。既婚者の女性もめずらしくないですよ」

 狭い道を並んで歩いていると、前方から車が近づいてきた。さりげなく筆者を歩道側に誘導し、自分は車道側を歩くゆうさん。男性がことさらに同じことをすると鼻につきがちだが、ゆうさんのそれはとてもとても自然で、筆者は思わずドキッとしてしまう。同性にこうした気遣いを受けた経験は、これまで一度もない。

 異性愛者の女性がレズ風俗店を訪れる理由とは、いったい何なのだろう?

ゆう「初めてのお客さまにはなぜこのお店にいらしたのかを訊くのですが、ノンケ女性は『男性との行為で満足を得られないから』と答えられる方が多いですね。既婚者でもセックスレスだったり、パートナーの技術に問題があるのか相性が悪いのかはわかりませんがセックス自体を愉しめない。かといって浮気や不倫はできず、出張ホストや性感マッサージを利用するのも、なんだかコワイ。お話を聞いていると、みなさん、知らない男性と関係をもつことに強い抵抗があるのだと感じます。でも、知らない女の子とだったらできるかも……と思われるみたいですね。なかには夫公認で、お店を利用される既婚女性もいらっしゃいます」

 もともとのセクシャリティが何であれ、何かしら求めるものがあるから女性たちはレズ風俗を利用する。

ゆう「ちょっとした好奇心で利用される方もいれば、日ごろから生きづらさを感じていて、救いや居場所を求めて利用される方もいます。デートコースでもビアンコースでも、ふたりきりでいるとお客さまのほうからいろいろお話してくれるんですよ、家庭のことやお仕事のことを。それはしんどい状況やな〜と思うこともありますが、ここに来ることで気持ちが紛れたり何かを見つけられたりするのであれば、どんどん利用してほしいですね」

『さびしすぎて〜レポ』の著者・永田カビさんも生きづらさを感じていたが、同店を利用したのを機に自分のことを漫画にし、親から自立しようと思えるようになり、実際に行動した。

ゆう「このお仕事は一期一会のことも多いですが、お会いしたときに聞いたお話やそのときの様子から、その後どうしているんやろ、と気になるお客さまもいます。永田カビさんのこともずっと頭の片隅に残っていましたから、漫画を読んで、ああ、あの後そんな変化があったんや、とうれしくなりました」

 待ち合わせの場所に近づいてきた。外国人旅行客も多く、平日だというのにたいへんな人出だ。落ち合った後は、そのままラブホテルに向かうという。界隈にはラブホテルが点在しているが、東京から来た筆者には大阪のラブホテルは外装が派手なものが多いように見えた。入り口が、人通りの多い通りに面しているのにも驚く。女性ふたりで入っていくと目立つのではないか。

ゆう「あんまり気にしませんね。私が気にしないから、お客さまも気にしないよう努力してくれるみたいです」

がんばって稼いで、風俗へ

 この日は、ビアンコース250分の予約。料金は56,000円だ。そこにホテル代が別途かかり、途中で食事などをすればそのぶんも利用客の負担となる。決して安くはないことは、ゆうさんも重々承知している。

ゆう「アルバイトやお仕事をしてお金を貯めて、それでお店を利用してくれる女性も少なくないんです。お客さまの地元まで出張する場合は、往復の交通費も加算されますし、ほんとうに強い想いを感じますね。ふたりきりで過ごしているときにお仕事の愚痴や悩みを聞くこともありますが、私、思わず『無理したらあかんよ』っていっちゃうんです。風俗店のキャストとして上は『もっとがんばって稼いでくれたら、もっと会えるよ!』というべきなんでしょうけど、私はそういうことがどうしてもいえない。性分ですね(笑)」

 一方で、豪快にお金を使う女性もいるという。

ゆう「常連になってくれたお客さまは距離が近くなり、いい意味で気を遣わなくなって、近場をデートするとかホテルでずっと過ごすとか以外の過ごし方を希望されるようになりますね。旅行に連れてもらったり、普段行けない素敵な場所に連れていってもらったり。どうやったらお礼できるかな、裸になったら喜んでくれるかな……って、いままでさんざん裸で一緒に過ごしてきたのに(笑)」

 ゆうさんの話には常に笑いがある。待ち合わせ場所が近づき、「じゃあ!」と片手をあげ、歩く速度を速めて人混みに消えていったゆうさん。彼女はこれから4時間超、どんな女性とどんな時間を過ごすのだろう。

▼中篇に続く

(三浦ゆえ)

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