990万損害賠償裁判に判決「アイドルの恋も性的関係も、幸福を追求する自由のひとつ」AKB48恋愛禁止ルールも廃止されるべきだ
女性アイドルがファンとの交際禁止ルールを破り性的関係を結んだことで被害を被ったとして、所属事務所が約990万円の損害賠償を求めていた訴訟に対し、18日、東京地裁で「異性との交際は幸福を追求する自由の一つで、アイドルの特殊性を考慮しても禁止は行き過ぎだ」という判決が下り、事務所の請求が棄却された。
女性は19歳だった2012年4月に、所属事務所と「ファンと交際した場合は損害賠償を求める」などと定めた契約を結び、アイドルグループの一員として活動を始めた。だが翌年12月からファンの男性と交際を始め、14年7月に事務所に「辞めたい」と意思を伝え、予定されていたライブへの出演も断った。事務所は「契約違反で信用を傷つけられ、損害も受けた」として女性と交際相手の男性を提訴した。
裁判ではこの女性が事務所と交わしていた契約内容が妥当なものだったのか、まず確認されることとなった。その契約条項には、事務所が所属タレントに対して「直ちに損害賠償請求できる」場合について明記されており、それは『ファンと性的な関係をもった場合、またそれにより事務所が損害を受けた場合』だけでなく、『いかなる理由があろうとも仕事や打ち合わせに遅刻、欠席、キャンセルし、事務所に損害が出た場合』『あらゆる状況下においても事務所の指示に従わず進行上影響を出した場合』などなど、有無を言わさずタレントが指揮命令に従わざるを得ない不利な契約となっている。これを見て「損害を与えたら賠償するのが当たり前だろう」と安易に納得してはいけない。アイドルをはじめ芸能人は一般的に、所属事務所との間でマネジメント契約を締結する個人事業者として活動している。しかし今回の判決では、これはアイドルが主体となって結んだマネジメント契約ではなく、事務所がタレントを指揮命令下において業務に従事させる「雇用類似の契約」であるとした。そのため、民法の規定により女性は「辞める」権利を保障されるのだ。
しかし、今回と類似のケースで、去年9月には、別の女性アイドル側に約65万円の損害賠償支払いを命じる判決が出てもいる。こちらの場合も事務所が「交際禁止」を定めた規約を設け同意していたが、女性は男性ファンと交際に発展。6人グループで活動していたのだが、グループは彼女の交際発覚が原因で解散した。このため、裁判官は「解散の責任は女性にもある。事務所から他のグループメンバーに支払われた衣装代やレッスン費用の一部を、女性も負担すること」として、65万円の支払いを命じたのだった。
アイドルには昔から“恋愛禁止”というルールが暗黙の了解として存在していたが、どこも厳密に運用していたわけではない。あくまでも表面上は、「積極的に恋愛をしていない」ふりをすることが、アイドルをアイドルたらしめるひとつの要素となっていた。しかしここ数年は状況が変わってきた。AKB48メンバーがバラエティ番組などで「恋愛禁止」を口にしたことから、ファンからの監視も厳しくなり、自らの首を締めている。13年に峯岸みなみが現EXILEのメンバー・白濱亜嵐とのお泊りデートを報じられ、坊主頭にして泣きながら謝罪するという異様な事態にも発展した。あの坊主謝罪を、「それぐらいAKBを大事に思っているんだね」と受け止めて彼女を「赦す」ことも、「坊主にしたぐらいで許されると思うな」と引退を急かす怒りの声も、どちらも異常である。
AKB構成員の中でも、もっともテレビでの活躍が目覚ましい指原莉乃は、レギュラー出演する『ワイドナショー』(フジテレビ系)で、「恋愛禁止ってやめません?」と発言。彼女の場合は、加入間もない時期の恋愛について元交際相手の男性から週刊誌に暴露されてしまったことがあり、大いにバッシングを受けた。その後も不屈の精神でアイドル稼業を継続しているが、もし仮に彼女が、あの時点で「辞めたい」と漏らしていたらどうなっていたのだろう。
規模をどんどん拡大し、数百人の若い女性たちをマネジメントするAKBグループ。そろそろ「恋愛禁止」を標榜することは止めてはどうか。恋愛の自由を制限され、自ら仕事を選ぶことはできず、与えられた予定をひたすらこなしていくアイドルたちを「無邪気で可愛い」と見ることはできるか? 「下積み時代の苦労は当然」と受け止めるのか? もちろんタレント側が相応の対価を得ていれば良いだろうが、芸能プロダクションが判断力や知識の乏しい若年層に対して、理不尽な命令に従い賠償金請求に怯えるような不利な契約を結ぶこと自体、厳しく制限する必要があるのではないだろうか。