「パンドラ映画館」の記事一覧(10 / 12ページ)

究極のフェチズムと暴力がもたらす危険な陶酔感! “キック・アス”の興奮が蘇る『キングスマン』

<p> 家庭環境に恵まれなかった人間が、世間から後ろ指をさされたり同情されたりせずに済む方法は2つある。ひとつは昔からの悪友たちとつるんで、一生狭い場所で暮らしていくか。もうひとつは広い世界に出ていって、他人から笑われないよう自分を磨き続けるか。そのどちらかしかない。映画『キングスマン』に登場する若者エグジー(タロン・エガートン)は、失業者や犯罪者たちが溢れ返る肥だめみたいな街でずっと暮らしてきた。父親は早くに亡くなり、母親はDV男と同居し、国からの生活保護費だけを頼りに生きている。のちに国際的諜報機関キングスマンの一員として巨大悪と戦うことになるエグジーは、まずは自分自身のクソったれな生い立ちと戦わなくてはいけなかった。</p>

<p> 原作は人気コミック作家のマーク・ミラー、脚本&監督はマシュー・ヴォーンという大ヒット作『キック・アス』(10)のコンビによるスパイアクションが『キングスマン』だ。着る物といったらジャージしか持っていなかったストリートキッズのエグジーが、格闘術・観察眼・交渉能力に秀でた超一流スパイであるハリー(コリン・ファース)と出会うことで、スーツ姿が似合う一人前の紳士へと生まれ変わる過程が描かれる。男の子版『マイ・フェア・レディ』(64)か『プリティ・ウーマン』(90)といった趣きがある。女性だけでなく、男もいつだって変身願望を抱いているのだ。</p>

名台詞「お前はすでにヤッている」が脳に刺さる! 多部未華子がエロきゅんな『ピース オブ ケイク』

<p> 恋におちた瞬間のフワフワとしたゼログラビティ感、そして惚れた相手への胸の中へとぐい~んと引き寄せられていく甘美なひと時。体が触れ合うと激しい電流が全身を貫く。あの陶酔感が忘れられず、人は何度でも恋をしてしまう。田口トモロヲ監督、多部未華子主演による『ピース オブ ケイク』は人が恋におちる瞬間をディテールたっぷりに描き、狂おしいまでに成長したその感情がどのような終焉を迎えるかまでを克明に描いている。いわば、人間にはコントロールしがたい“恋愛”という感情の一生をドラマ化したものとなっている。<br />
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女優・大島優子はビンボーキャラがよく似合う! 20代後半を迎えた女の半端な生き辛さ『ロマンス』

<p> 大島優子はビンボーな役がよく似合う。ただビンボーくさいだけの女なら誰も振り向かないが、シビアな環境に身を置きながらも懸命に抗う姿に魅力を感じさせる。劇場版『闇金ウシジマくん』(12)ではパチンコ三昧の母親の借金を肩代わりするために出会いカフェに通う健気に歪んだ女の子、『紙の月』(14)ではいかにも明るい現代っ子のふりをしたお金と男にこすからい銀行の窓口係を好演した。AKB48時代にエースの座を競った前田敦子が今年公開された『さよなら歌舞伎町』と『イニシエーション・ラブ』でふわふわと浮ついた、お股のゆるいビッチキャラを演じていたのとは対称的に、生活感のあるキャラクターを得意としている。</p>

<p> AKB時代に白石晃士監督の都市伝説をモチーフにしたホラー映画『テケテケ』(09)に主演していた大島優子だが、AKB卒業後初となる映画主演作がタナダユキ監督の『ロマンス』だ。小田急線を走るちょっとリッチな特急列車ロマンスカーのアテンダントとして、制服姿でテキパキと働く。生活感のある大島優子はタナダユキ作品にぴたりとハマる。タナダユキ監督はお金にうるさい女子を生き生きと描く。蒼井優がブレイクした『百万円と苦虫女』(08)はバイト先を転々としながら100万円貯めることに異様な情熱を燃やす女の子のロードムービーだった。『赤い文化住宅の初子』(07)は集合住宅で兄と2人きりで暮らす女子中学生のビンボーサバイバル物語だった。タナダユキ作品のヒロインたちは、お金が喉から手が出るほど欲しいのにお金のことを憎んでいる、そんな相反する感情を抱えて生きてきた。タナダユキ監督にとって『百万円──』以来となるオリジナル作『ロマンス』では、お金の代わりに家族がキーワードとなっている。</p>

熱闘! 殿堂入りを目指す男たちの情熱がほとばしる『最後の1本 ペニス博物館の珍コレクション』

<p> オスのヘラジカにとって巨大な角は“男性のシンボル”そのものだ。発情期を迎えたオスのヘラジカたちはお互いの角を激しくぶつけ合って、自分の存在をアピールする。ドキュメンタリー映画『最後の1本 ペニス博物館の珍コレクション』を観て、ヘラジカのことを思い浮かべたのと同時に、人間もまた自然界で生きる動物であることを思い知らされた。それほどまでに本作に登場する男たちは自慢のペニスとペニスで激しいツバ競り合いを演じるのだ。</p>

<p> 本作の主舞台となるのはアイスランドにある「ペニス博物館」。そして中心人物となるのはこの珍博物館の館長シグルズル・“シッギ”・ヒャールタルソン。中学校の校長を務める傍ら、友人から冗談で牛のペニスの骨をプレゼントされたのがきっかけで、哺乳類のペニスをコレクションしてきた。家の中がペニスの標本だらけになるのを嫌がった妻からの要望もあり、1997年に世界唯一の「ペニス博物館」がオープンする。来場者を圧倒するマッコウクジラの巨大ペニスのホルマリン漬けから、確認するのにルーペが必要なハムスターの極小ペニスの骨など、シッギ館長が個人的に集めた大小さまざまなペニスの標本とペニスに関する美術品が陳列されている。極北の島国で生きる男の尋常ならざる情熱を感じさせるではないか。<br />
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空襲で焼け死ぬ前に一度セックスしてみたい……二階堂ふみが演じる戦時下の青春『この国の空』

<p>「私はこのまま結婚もせず、死んでいくのかしら」。19歳になった里子は空襲警報を聞きながら、ふとそんな考えがよぎる。男と愛し合うことも知らず、私は処女のまま死んでしまうのね。そんなことを考えているうちに、里子の頭の中は真っ白になってしまう。二階堂ふみ主演映画『この国の空』は太平洋戦争末期の東京を舞台にした官能系青春ドラマだ。連日のように空襲が続き、本土決戦が叫ばれている。広島には新型爆弾が投下されたらしい。もうすぐ、みんな死んでしまうかもしれない。それなら、死ぬ前に想いを寄せる男性に一度でいいから抱かれたい。戦争に対する恐怖と性への好奇心が心の中で激しく葛藤する主人公・里子に、沖縄出身の人気女優・二階堂ふみがヌードシーンも厭わず成り切ってみせる。</p>

日本はドイツのような分断国家になる寸前だった!? 敗戦処理内閣の苦悩『日本のいちばん長い日』

<p> もしポツダム宣言の受諾があと数日遅れていたら、広島・長崎に続く第三の原爆が京都、もしくは小倉、新潟に投下されていたかもしれない。沖縄戦のような壮絶な地上戦が、米軍を相手に九州でも繰り広げられていたかもしれない。南下してきたソ連軍によって北海道は占領されていたかもしれない。8月15日は日本人にとって特別な意味を持つ1日だ。終戦関連のテレビ番組の多くで玉音放送(昭和天皇による終戦の詔書)を耳にするだろう。では、現人神だった天皇が国民に肉声で敗戦を告げ</p>

肉親と精神科医から食い物にされた天才の悲劇!! ビーチ・ボーイズ暗黒神話『ラブ&マーシー』

<p> ロック史上もっとも美しいアルバムと呼んでも過言ではない、ビーチ・ボーイズの歴史的名盤『ペット・サウンズ』。ビーチ・ボーイズのリーダーだったブライアン・ウィルソンの天才児ぶりが遺憾なく発揮された一枚だ。オルゴールを思わせる美しい旋律とハーモニーの絶妙さは、アルバムのリリースから半世紀が経過した今も色褪せることなく、多くのリスナーの心の琴線をつま弾き続けている。だが、1</p>

食料が尽きたはずの戦場で食べた奇妙な肉とは? 嘔吐感に見舞われる戦慄のグルメ映画『野火』

戦場で味わった不思議な食材を題材にした『野火』。本作を観た後で『マタンゴ』(63)を見直すと、これまでと違った後味を感じるだろう。  戦場で飢餓状態に陥った田村は、朦朧とする意識の…

基地問題が抱える“いちばん恐ろしいもの”とは? 辺野古の実情を追うドキュメント『戦場ぬ止み』

<p> すでに沖縄では戦争が始まっていた。いや、そうではない。沖縄ではずっと戦争が続いたままだったのだ。沖縄の基地問題を沖縄県外の人にも分かりやすく解いたドキュメンタリー映画『標的の村』(13)が異例のロングランヒットとなった三上智恵監督の最新作『戦場ぬ止み(いくさばぬ とぅどぅみ)』は、辺野古の基地建設が進む沖縄は剣が峰に立たされたギリギリの状況であることを伝えている。そして、それは沖縄だけの問題ではなく、民主主義国であるはずの日本の根幹を揺さぶるものであることに気づか</p>

米国はこうして失業率、犯罪発生率を激減させた! 法律が認めた人間が持つ凶暴性の解放『パージ』

<p> 失業率と犯罪発生率をいっきに減少させ、国民の労働意欲を飛躍的に向上させる画期的な法案が米国で可決された。その法律は「パージ法」と呼ばれるもので、国民一人ひとりの精神を安定させ、そして社会全体を浄化(purge)させる効果があると賞讃されている。では、そのパージ法とはいかなるものか? 1年に1日だけ「パージ・デイ」が決められ、その日は夜7時から翌朝7時まで全ての犯罪は合法となる。器物</p>

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