「パンドラ映画館」の記事一覧(9 / 12ページ)

食人族にカルト狂団!! 阿鼻共感のイーライ・ロス祭り『グリーン・インフェルノ』『サクラメント』

<p> あまりにもおぞましい地獄絵図は、観る者の身の毛を逆立たせるだけでなく、同時にトラウマ級の感動も与えてくれる。超絶ゴーモン映画『ホステル』(05)で知られるイーライ・ロス監督の『ホステル2』(07)以来となる監督作『グリーン・インフェルノ』は、まさに極彩色の地獄エンターテイメント。自然保護を訴える意識高い系の大学生たちがジャングルに足を踏み入れ、言葉の通じない人喰い族に生きたまま手足を千切られて食べられてしまうという超ブラックな内容だ。悪趣味もここまで極まれば、お見事というしかない。さらに同日公開されるのが、イーライ監督が製作&共同脚本を手掛けた『サクラメント 死の楽園』。1978年に南米ガイアナで起きたカルト教団集団自死事件を再現したドキュメンタリー仕立ての作品で、教祖の指示によって信者914人が服毒死を遂げたというリアルな狂気にさぶいぼが立つ。イーライ監督がスカイプで寄せてくれたメッセージを交えながら、とんでも映画2本を紹介しよう。</p>

人生を変えてしまう快心のエッチがここにある!? 黒川芽以主演コメディ『愛を語れば変態ですか』

<p> 人は誰かを愛するとき、その人は変態になる。愛を知った人は、常識や世間体という拘束着を脱ぎ捨て、すっぽんぽんの変態となる。社会生活を営む頭でっかちな人間から、本能まるだしな野生動物へと変態を遂げる。野生の力を取り戻した変態は、拘束着を脱ぐことができない人間よりも圧倒的に魅力的だ。黒川芽以主演のコメディ映画『愛を語れば変態ですか』は、平凡な人妻あさこが自分は変態であることを受け入れ、無敵の存在へと覚醒していく姿を描く。CGなどを使うことなく黒川芽以は、怪作『LUCY/ルーシー』(14)のスカーレット・ヨハンソンばりに変身することになる。<br />
</p>

皇室、五輪、放尿、滞納つづきの健康保険……曲がり角を過ぎたこの国の物語『恋人たち』

<p> 映画の冒頭、ヒゲづらの男が博多弁でとつとつと愛について語る。男はかねてより交際していた恋人にプロポーズした。どんな答えが返ってくるか、ドキドキする瞬間だ。答えはイエス。男はタバコはもうやめるけんと約束するも、恋人がシャワーを浴びている最中に、うれしさのあまりついタバコを一本吸ってしまう。当然、シャワーから出てきた彼女はタバコの匂いに気づく。男は怒られるかと一瞬ビクつくが、彼女はこう言った。「これから一緒に暮らしていく中で、少しずつ減らしていければいいね」と。ヒゲづらの男はたどたどしくも、かつて恋人と過ごした愛おしい時間を振り返る。そして観客は、その愛はすでに失われたものであること知る。『ぐるりのこと。』(08)以来となる橋口亮輔監督の7年ぶりの新作長編『恋人たち』は、愛を失い、現代社会で迷子になってしまった3人の“恋人たち”に寄り添い、彼らが不幸のどん底から懸命に這い上がろうとする姿を追っていく。</p>

死のリスクを冒してまで人はなぜ登頂に挑むのか? 冒険と人命のカジュアル化『エベレスト3D』

<p> 死のリスクを伴い、家族や周囲の人間に迷惑を及ぼす可能性もある。多額の費用も捻出しなくてはならない。低酸素から呼吸困難に陥り、一歩間違えれば転落死が待ち受けている。凍傷で手や足の指が壊死を起こすことも珍しくない。それでも人は360度の大パノラマが見渡せる神の視点に立ちたいと願う。標高8,848mを誇る世界最高峰エベレストへの登頂は多くの人を魅了する。人はなぜ命の危険を冒してまで、魔境に足を踏み入れようとするのか。1953年の登山家ヒラリーとシェルパのノルゲイによる初登頂から半世紀が過ぎ、今なおミステリアスさに包まれているエベレスト登頂を、映画館で疑似体験させてくれるのが『エベレスト3D』だ。<br />
</p>

「あれまッ」と驚くシャマラン節がたまらない!“無縁社会”が生み出した都市伝説『ヴィジット』

<p> 大ヒットした『シックス・センス』(99)のインパクトがあまりに強すぎ、どんなオチが待っているかのみで期待されるようになってしまったM・ナイト・シャマラン監督。せっかくコース料理を用意しても、デザートしか食べてもらえない料理人みたいな気分だろう。『サイン』(02)のような恐怖と笑いが混在する作風や起承転結のレールに縛られないストーリー運びはもっと評価されていいはずだ。近年は『アフター・アース』(13)といったCGを多用したメジャー大作を手掛けたものの、もはやシャマラン監督作であることすら忘れられてしまった。そこで、久々に心理サスペンスのジャンルに里帰りを果たしたのが『ヴィジット』。ホームグランドに戻って、シャマラン監督自身が楽しみながら撮っていることが伝わってくる手づくり感のある恐怖映画となっている。<br />
</p>

ヒトラーは予知能力者か、それとも共同幻想か? 『ヒトラー暗殺』ほかナチスものが集中公開!!

<p> 世界中を戦渦に巻き込んだ狂気の独裁者として歴史に名を残すアドルフ・ヒトラー。若い頃のヒトラーは画家を目指していたことは有名なエピソードだ。ウィーンの美学校を2度受験し、不合格となっている。画家の道に進むことが叶わなかったヒトラーは、絵を描く代わりに自分の脳内で思い描いた理想世界を政治によって実態化することに取り憑かれていく。祖国の復興と民族意識に訴えかけたヒトラーの熱い演説に民衆は感銘を受け、ヒトラー率いるナチス党は合法的にドイツの第1党へと躍進していく。ヒトラーはキャンバスに絵を描くように、ドイツを、そしてヨーロッパの国々を自分の色に染めていった。ヒトラー没後70年となる2015年、日本ではヒトラーとナチスドイツを題材にした映画が次々と公開されている。</p>

映画史上もっともクリーンでスマートな戦争映画! 軍事用無人機の実態『ドローン・オブ・ウォー』

<p> そこは理想の戦場だった。まず第一に死ぬ心配がまったくない。エアコンの効いた仕事場でスイッチボタンを押せば、1万km以上離れた異国の上空を旋回中の無人飛行機ドローンに搭載しているミサイルが発射され、ターゲットが暮らす家ごと吹き飛ばすことができる。後はモニターで戦果を確認するだけ。自分たちは血まみれ、汗まみれになることなく、テロリストたちのアジトを叩くことが可能だ。TVゲーム感覚で、ミッションをクリアできる。しかも、任務が終われば、駐車場に止めたマイカーに乗って自宅に戻り、家族と一緒に夕食を楽しむこともできる。だが、ドローンを使った超ハイテク兵器戦は、本当に理想のものなのだろうか。アンドリュー・ニコル監督の『ドローン・オブ・ウォー』(原題『GOOD KILL』)は、9.11以降に米軍が対テロ戦の切り札として積極的に活用するようになった軍事用ドローンによる戦争の実態を伝えている。</p>

<p> 無人飛行機を戦争に利用するというアイデアは古くからあった。1903年に世界初の有人飛行に成功したライト兄弟だが、弟オーヴィルは第一次世界大戦時に“空中魚雷”を開発している。爆弾を積んだ無人飛行機はあらかじめ決めておいたエンジン累積回数に達するとエンジンが停止するようにセットされ、敵地上空で自動的に墜落するというものだった。軍事用ドローンの概念は、人間が空を自由に飛びたいという夢を叶えたのとほぼ同時期に誕生していた。日本でドローンの利用価値に早くから気づいたのが、オウム真理教だった。1995年の地下鉄サリン事件を引き起こす前、オウム真理教は農薬散布用のラジコンヘリを使って毒ガスを巻き散らす計画を考えていた。だが、現在の市販用ドローンと違い、ラジコンヘリの操縦は初心者には難しく、機体の値段も非常に高価だった。練習段階でラジコンヘリを数回墜落させてしまい、計画の変更を余儀なくされた。もしも現在のような誰にでも簡単に操縦できるドローンが当時あれば、死亡者6人、負傷者6300人を出した地下鉄サリン事件はもっと悲惨な事態になっていたかもしれない。</p>

物づくりに取り憑かれた若者が流す狂気の血涙! 原作とは異なる展開が待つ実写版『バクマン。』

<p> 若手人気キャストを一堂にそろえ、軽快な主題歌が流れる。大ベストセラーコミックの実写映画化『バクマン。』は、一見すると明るく爽やかな青春サクセスストーリーに感じられるが、それはあくまでも表向きのパッケージにすぎない。カラフルなパッケージを破いてみると、中からは汗臭くてドロドロとした、少年が大人へと成長を遂げていく過程の通過儀礼に挑む物語が待ち構えている。ポップカルチャー花盛りな現代社会に、もはや創世記の神話ともいえる『まんが道』の世界を、大根仁監督は最新の意匠で現代に甦らせた。</p>

<p> 日本一の発行部数を誇る「週刊少年ジャンプ」の舞台裏を細やかに描いた同名原作コミックは、絵がうまいサイコーと文才のあるシュージンとの中学時代のコンビ結成から、高校生で漫画家デビューを果たし、後からデビューした新人漫画家たちに追われる立場になるまでを全20巻で綴った大河ドラマとなっていた。初監督作となった劇場版『モテキ』(11)をスマッシュヒットさせた大根監督は、情報量の非常に多い『バクマン。』の実写化にあたり、何よりもスピード感を重要視している。面白い漫画と出会うとページをめくる手が止まらなくなる、漫画世界に没頭してしまう、あの悦楽感を実写映画で試みている。2時間という枠に収めるため、舞台をサイコーとシュージンの高校時代に変更し、漫画家デビュー&初めての連載に挑んだ高校2年から高校卒業までの2年足らずの日々を凝縮して描いている。</p>

“時かけ”に匹敵する新ヒロインが銀幕デビュー! シュールな日常生活『徘徊 ママリン87歳の夏』

<p> 時空をさまようタイムトラベラーを主人公にした『時をかける少女』は、原田知世が主演した実写映画版、仲里依紗が主演した劇場アニメ版&実写リメイク版、それぞれが高い人気を誇っている。繰り返し繰り返し、何度も視聴されている。そんな多くの人たちに愛されるタイムトラベルものに、新たなるヒロインが加わった。大阪府在住、87歳になる酒井アサヨさん、通称ママリンはドキュメンタリー映画『徘徊 ママリン87歳の夏』の中で、過去から未来へと一方通行で流れていく時間の川を遡行して、少女時代や青春時代へとタイムトラベルしていく。ただし、タイムトラベルはママリンの脳内だけの出来事なので、周囲の人間には彼女がどの時代を旅しているのかは定かではない。そのことから珍妙なやりとりが生じる。</p>

<p> ママリンこと酒井アサヨさんは奈良県でひとり暮らしをしていたが、2006年に認知症と診断され、08年から長女・酒井章子さん、通称アッコちゃんが暮らす大阪市北浜のマンションに身を寄せている。この親子の日常生活のやりとりが不謹慎ながら爆笑を呼ぶ。<br />
</p>

八重歯フェチを虜にする!! 民族衣装チャドルに隠された野性『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』

<p> 中東と西洋の文化が融合した新しい才能が誕生した。イラン系の女性監督アナ・リリ・アミリプールの長編デビュー作『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』はこれまでになかった新感覚の映画だ。イランを舞台にした吸血鬼ものと聞くだけで好奇心を掻き立てられるが、ホラー映画のジャンルに収まらないスタイリッシュな映像の美しさとイマジネーションの奔放さに目が釘付けとなる。初めてデヴィッド・リンチやジム・ジャームッシュの作品と出会ったときのような驚きと喜びを感じさせてくれる。そして、イランの民族衣装であるチャドルをまとった少女の、口元から長く伸びた八重歯のような妖しい牙に魅了される。</p>

<p>『ザ・ヴァンパイア』の舞台となるのはイランにある架空の街・バッドシティ。現実の中東と同じように、この街で暮らす人々もイスラムの神ではなく、貨幣経済によって支配されている。夜のストリートにはドラッグの売人や売春婦がたむろし、仕事がない男たちはドラッグをキメることで日々の憂さを晴らしている。そんな荒廃した街に、ひとりの名前のない少女が現われた。ボーダーシャツの上にチャドルをまとい、深夜でも平然と歩いている。彼女は街の人たちのすさんだ心の中にすっと忍び込んできた吸血鬼だった。性悪なドラッグの売人やホームレスを見つけては、次々と餌食にしていく。街の人たちはクズ人間が姿を消しても誰も気にしない。</p>

サブコンテンツ

このページの先頭へ