池松壮亮がラブシーンに起用されまくる理由 そのドライで甘美な魅力を読む
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【リアルサウンドより】
4月から日本テレビの「水曜ドラマ」枠で放送される『世界一難しい恋』が早くも注目を集めている。老舗旅館の後継ぎで、ホテル経営者の34歳独身男が、一目惚れした女性に好かれるために奔走する姿を描くラブコメディで、主人公の「性格難あり」男を嵐の大野智が演じるのだ。大野は約2年ぶりのドラマ主演であり、初めて挑むラブコメディとなる。
日本テレビ系のドラマでは、一昨年4月期に放送された『弱くても勝てます』に二宮和也が主演して以来となる嵐のメンバーの主演作ということに加え、大きな話題となった『きょうは会社休みます。』の脚本家・金子茂樹のオリジナル脚本ということもあり、かなり大きな期待が込められていると伺える。その証拠に、現在日本テレビのプライムタイム枠で放送されている3本の連続ドラマがテレビ朝日の『相棒』と『スペシャリスト』に次ぐ高視聴率をマークしている中で、次クールの放送となる本作の番宣をかなり早い段階からスタートさせているのだ。
通常ならば次クールに放送されるドラマの番宣は、現在放送中のドラマが佳境を迎える辺りから始まるものだが、今回は1月末に放送された『嵐にしやがれ』の段階ですでに始まっていた。大野智がこれから3ヶ月間共演することになるヒロインと初めて顔を合わせ、一緒に料理を作りながらコミュニケーションを図ろうとする企画が組まれたのだ。そこで今回のドラマのヒロイン役として登場したのが、現在NHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』で主演を務めている波瑠である。
今週で第20週目を迎える『あさが来た』は、残りの放送期間が1月半を切り、日本初の女子大設置への動きが出てくるなど、着々とクライマックスに向けて進んでいる。以前彼女を紹介した記事(リンク:女優・波瑠は『あさが来た』でブレイクなるか? “没個性という個性”の可能性を読む)では、彼女がこの朝ドラをきっかけに女優としてブレイクを果たすのか、と期待を込めたが、朝ドラ後の最初の仕事がこのドラマのヒロインであれば、順調にブレイクの階段を登っていると考えて良さそうだ。
朝の連続テレビ小説をきっかけにブレイクした女優といえば、二年前に放送された『ごちそうさん』で主演を務めた杏が真っ先に思い浮かぶ。彼女は直後に主演した日本テレビ系のドラマ『花咲舞が黙ってない』ではタイトルロールを演じるだけでなく、続編が制作されるほどの人気を博し、ブレイクには欠かせない「ハマり役」を獲得したのだ。その後も月9ドラマ『デート〜恋とはどんなものかしら〜』で個性的なヒロインを演じるなど、公私ともに順調な女優道を歩んでいる。他にも『瞳』のヒロインを演じたのち、ドラマ『メイちゃんの執事』と大ヒット映画『余命一ヶ月の花嫁』で主演を果たした榮倉奈々の例も考えると、朝ドラヒロインは放送終了後の最初の仕事が、その後の女優としての活躍のための大きな鍵と言えるのだ。
その鍵となる『世界一難しい恋』は、波瑠にとって初めてのラブコメディのヒロインとなる。彼女のここ最近の出演作を見ると、一昨年のドラマ『ごめんね青春!』では関ジャニ∞の錦戸亮がかつて思いを寄せていた女性の役を演じ、昨年公開された映画『グラスホッパー』では生田斗真演じる主人公の婚約者で、物語の根幹となる事件の被害者役を演じており、ジャニーズ俳優の相手役が続いている印象を受ける。確実に注目を集めるジャニーズ俳優主演作のヒロインというのは、かなり大きなポジションであり、それだけ彼女の女優としての期待値が高いことの証明でもある。
もっとも、『ごめんね青春!』でコメディ作品を経験しているとはいえ、サブヒロイン的なポジションで出演時間も多くなく、まだまだ喜劇演技に関しては未知数な部分もある。具体的なストーリーは公表されていないが、ホームページを見る限り、彼女が演じる役どころは「何を考えているか分からない謎のKY女」とのことだ。初めて挑むラブコメディで、そんな風変わりなキャラクターを彼女がどう演じ切るのか気になるところだが、少なくとも『あさが来た』でこれまでのイメージを覆すような活発な演技を見せてくれただけに、今回のドラマでさらなる新境地を開拓する可能性は充分にある。
また今回のドラマが彼女のキャリアに大きな一歩となるかどうかは、主演を務める大野智にも懸かっている。同じ嵐の松本潤が主演したドラマのヒロインでは、『花より男子』の井上真央と『失恋ショコラティエ』の石原さとみの二人が究極の「ハマり役」を獲得して大きなブレイクを果たしただけに、大野がどのようなエスコートで、ヒロインを輝かせることができるのかにも注目したいところだ。いずれにしても、4月クール一番の目玉となるドラマであることは間違いない。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■番組情報
『世界一難しい恋』
4月より毎週水曜日22時~日本テレビ系にて放送
出演:大野智、波瑠、小池栄子、北村一輝
脚本:金子茂樹
制作著作:日本テレビ
公式サイト:http://www.ntv.co.jp/sekamuzu/
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【リアルサウンドより】
日本ではあまり一般的には知られていないかもしれないが、ニール・ヤングほどテクノロジーの進化に対して強い関心を持っているミュージシャンはいないだろう。いや、強い関心というレベルを超えて、それはもはやオブセッション(強迫観念)とでも言うべきかもしれない。
近年のニール・ヤングがその知性と行動力と貴重な時間と莫大な財力を注ぎ込んできたのは、独自の規格の音源ファイルPono Musicの開発と、電気とアルコール燃料で駆動する自動車LincVoltの製作だ。それぞれの技術的なことを説明するとキリがないというか、はっきりと自分の手には余るので、興味のある方は以下の動画で確認していただきたい。現在70歳のニール・ヤングがどれだけイっちゃってるか、わかってもらえるだろう。
Neil Young Explains Pono Music And How It Raised Millions On Kickstarter
Neil Young Shows Haskell Wexler His LincVolt
ニール・ヤングのすごいところは、新しい音源ファイルの開発も、アルコール燃料自動車の製作も、特許こそとっているもののお金儲けのためではなく、単純なロマンの追求でもなく、最先端なテクノロジーを使って「とにかく最もいい音質で音楽を聴かせたい/聴きたい」「往年のクラシックなアメ車を電気やアルコールで走らせて日常の移動ツールにしたい」と、すべてが「自分のため」であるところだ。彼はあくまでも「自分のため」に、自分の資産を投入し、自分で実験し、自分で開発し、自分で使用する。で、それが晴れて実現可能になったところで、世間に向かってそれをプレゼンする。それも、商品として買ってもらいたいというスタンスというより、「どうだ、これすごいだろ?」とまるで科学マニアの少年のようなスタンスで自慢するのだ。
そんなニール・ヤングが映画監督として1978年に撮影した作品『ヒューマン・ハイウェイ』が、初公開の1982年、そして日本で最後にビデオソフトとしてリリースされた1995年から、長い年月を経て遂に日本でBlu-ray/DVDとしてリリースされる。「え? ニール・ヤングが映画監督?」と思う人も多いかもしれないが、彼はバーナード・シェイキーという映画監督としての別名を持っていて、これまで長編作品だけでも5本(うち3本はドキュメンタリー)の作品を残している。
で、今回リリースされる『ヒューマン・ハイウェイ』は1982年の初上映版から8分、ビデオ・バージョンから5分カットして約80分となった、2014年トロント映画祭で初公開されたディレクターズ・カット版。300万ドルもの私財を投げ打って自主制作した作品にディレクターズ・カットもクソもないと思うのだが(通常、ディレクターズ・カットというのは映画会社やプロデューサーからカットされた部分を監督自身が後になって復活させたバージョンを指す)、長年「なんとなく未完成な気がする」(「なんとなく」って!)という思いを抱いていたニール・ヤングが、撮影から35年以上を経て新たに手を入れたのが今回のバージョンなのだ。大きな子供のように好奇心旺盛なニール・ヤングのこと、70年代当時から映画制作にも手を広げていたこと自体は驚くにあたらないが(当時はゴダールの作品に心酔していたという)、彼にとって過去の自分の映画に手を入れることは、ガレージで工具片手にアルコール燃料自動車に改良を加えていくのと同じような感覚なのだろう。
ニール・ヤングのテクノロジーの進化に対するオブセッションは、彼が33歳の時に撮った『ヒューマン・ハイウェイ』においても顕著に表れている。というか、テクノロジーの進化に対するオブセッションそのものが、本作のテーマであると言っていいかもしれない。
物語は、放射性物質がダダ漏れの原子力発電所/核廃棄物処理場(!)から始まる。全身から不思議な光を放つほど放射性物質に汚染されてしまっている原発作業員たちを演じているのはDEVO(!)の面々。そして、メインとなる舞台はその原子力発電所/核廃棄物処理場の街の片隅にあるガソリンスタンド兼ダイナー。そこで働くメカニックを演じているのがニール・ヤング(この頃からクルマをいじってる!)、ダイナーのコックが当時アル中&ドラッグ中毒でハリウッドに干されていた頃のデニス・ホッパー(!)、そして店のオーナーが名優ディーン・ストックウェル(当時からニール・ヤングの親友だった)。まさに「奇跡!」のキャスト陣である。
その歴史的価値、先見性、そしてバカバカしさから、呆気にとられるしかないシーンが次から次へと飛び出してくる本作。セックス・ピストルズのTシャツを着たニール・ヤングがDEVOをバックに「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ (イントゥ・ザ・ブラック)」を演奏するライブシーンは、中でも垂涎だろう。ちなみに1978年1月セックス・ピストルズ空中分解時におけるジョニー・ロットンの「ロックは死んだ」という言葉へのアンサーソングでもあり、カート・コバーンが遺書でその歌詞を引用したことでも知られるこの曲が初めてレコードとしてリリースされたのは1979年。本作撮影の1年後である。「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ (イントゥ・ザ・ブラック)」が収録されたアルバム『ラスト・ネヴァー・スリープス』は、ニール・ヤングがパンクに触発された作品として知られているが、その3年後、つまり本作の公開年と同じ1982年には、ニール・ヤングの長いキャリアの中でも屈指の迷作とされているテクノアルバム『トランス』もリリースされている。当然、本作で共演したDEVOからの直接的な影響も大きかったはずだ。
「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ (イントゥ・ザ・ブラック)」ネタを広げるなら、本作の撮影に参加した直後、1980年にデニス・ホッパーは同曲に触発されて、その変奏曲「マイ・マイ、ヘイ・ヘイ (アウト・オブ・ザ・ブルー)」のサブタイトルからそのままとった『アウト・オブ・ブルー』というパンク少女が主人公の青春映画を監督。もちろん、作中でも「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ (イントゥ・ザ・ブラック)」を使用していた。また、本作で共演したディーン・ストックウェルとは、1986年のデヴィッド・リンチ『ブルーベルベット』でも再び共演。まるでお互い秘密を共有した者同士のような、息の合った怪演を見せてくれた。
「先見性」という意味では、本作が撮影された翌年の1979年、アメリカであのスリーマイル島原子力発電所事故が起こったことにも触れないわけにはいかないだろう。その時点で本作の撮影はほとんど終わっていたはずだが、公開が1982年まで延びた理由の一つは、「原子力発電所のそばに住む人々」という本作の設定を編集段階でより強調したかったためだとも言われている。
音楽シーンの最前線ではパンクとテクノの衝撃が無軌道に交差し、西海岸ではヒッピーカルチャーが死に絶え、アメリカ史上初の核施設大規模事故の重大性に多くの人が怯えていた70年代末〜80年代初頭のアメリカ。物語だけを追っていると迷子になってしまいそうになる(ニール・ヤング版『ギャラクシー街道』なんて言わないように! ちょっと似てるけど!)『ヒューマン・ハイウェイ』だが、本作は当時のカルチャーのあまりにも貴重な一断面であり、ポピュラー音楽や映画の歴史における重要なミッシング・リンクの宝庫なのだ。
■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)。Twitter
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