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井上陽水のカバーアルバムが放つ強烈なセンス 傑出したシンガーソングライターとしての足跡を追う

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【リアルサウンドより】

 2001年に発表され、80万枚を超える大ヒットを記録した井上陽水のカバー・アルバム『UNITED COVER』。昨今のカバー・ブームの火付け役であり金字塔といわれているが、その第二弾である『UNITED COVER 2』が発表された。陽水の偉業は多々数えられるが、記録ということでいうと、1973年に発表したアルバム『氷の世界』が日本の音楽史上初のミリオンセラーのアルバムになったことだろう。そしてなんと、最新作は40年ぶりに当時のレーベルであるポリドールに復帰。往年の昭和歌謡から宇多田ヒカルにいたるまで世代を超えた選曲が11曲、そして自身の新曲が2曲という構成になっている。楽曲のセレクトもなかなかユニークで、いろんな切り口で語りたくなる内容だ。

 まず最初の印象は、稀代のシンガーとしての味わいの深さ。それは、前作での「コーヒー・ルンバ」に代表されるように、昭和歌謡の名曲から顕著に感じ取れる。例えば、ギターのシンプルな演奏をバックにさらっと歌いこなす「黄昏のビギン」や、オルガンジャズのようなブルージーなバッキングでスウィングする「有楽町で逢いましょう」などからは、表現力の素晴らしさはもちろんのこと、憂いや色気が濃厚に匂い立つ。フォークシンガーとして出発した陽水が、実は優れた歌謡曲の歌い手であることに気付かされるのだ。

 また、サウンド面で特筆すべき面は、日本を代表するサルサ・バンド、オルケスタ・デ・ラ・ルスとのコラボレーションだ。自身の新曲2曲に加え、「SAKURAドロップス」やビートルズの「I WILL」において軽快なラテン・ビートでサポートしている。この躍動感はそのままアルバム全体のトーンに反映され、新たな陽水の魅力を引き出している。両者を引き合わせたのはタモリだそうだが、その功績は非常に大きいといえるだろう。

 加えて、本作には同時代を一緒に作ってきた盟友ともいうべきアーティストの作品をいくつも取り上げている。冒頭は大橋純子の歌唱で知られる「シルエット・ロマンス」だし、ユーミンの「リフレインが叫んでる」や加藤和彦と北山修による「あの素晴らしい愛をもう一度」もそうだ。なかでも秀逸なのが、よしだたくろう(吉田拓郎)の隠れた名曲「リンゴ」。拓郎は、ご存じのとおり、70年代の一大フォーク・ブームで、陽水と人気を二分した永遠の好敵手でもある。だからこそ、この曲のセレクトには深い意味があるに違いない。ボサノヴァ・ビートに導かれた当時のライバルの作品は、原曲が純愛物語のような印象だったのに対し、陽水の声で歌われるとどこかニュアンスが違ってくるのが面白い。そういえば、同じ“リンゴ”が登場する楽曲「氷の世界」もセルフ・カバーしているが、対になっている様に感じさせるのは、彼なりの計算であり遊び心であり、そしてあの時代の盟友へのリスペクトなのではないだろうか。

 さらに付け加えるなら、井上陽水のソングライターとしての最大の魅力といいたいのが、「氷の世界」に代表される独特の言葉遊びのようなシュールな歌詞の世界観である。本作には含まれていないが、「リバーサイドホテル」や「とまどうペリカン」、はたまた「アジアの純真」といった過去の代表作を思い起こしてみればわかるだろう。しっかりとメジャー・シーンで活躍しているのに、ここまで奇妙な言葉を並べて聴く者を煙に撒くような存在は他にいないかもしれない。そういった強烈なセンスを持っているからこそ、「リンゴ」のような他人の楽曲を歌っても、あたかもオリジナル曲のように魔力を乗り移らせ、不思議な世界へと導いてくれるのだ。それは、石原裕次郎の「夜霧よ今夜もありがとう」や坂本スミ子の「夢であいましょう」のような昭和歌謡のスタンダードでも同様。陽水特有のフィルターを通して、聴き慣れた楽曲を続々と違うニュアンスへと組み替えていく。そんな面白さがこの『UNITED COVER 2』には詰め込まれている。

(文=栗本 斉)

■リリース情報
『UNITED COVER 2』
発売:7月29日
価格:¥3,000(税抜)
【収録曲】:( )内は 原曲歌唱者 原曲発売年

01. シルエット・ロマンス(大橋純子 1981年)
02. 黄昏のビギン(水原弘 1959年)
03. リフレインが叫んでる(松任谷由実 1988年)
04. リンゴ (吉田拓郎 1972年)
05. 有楽町で逢いましょう(フランク永井 1957年)
06. 夜霧よ今夜も有難う(石原裕次郎 1967年)
07. 女神(新曲)
08. 瞬き(新曲)
09. あの素晴しい愛をもう一度(加藤和彦と北山修 1971年)
10. I WILL(The Beatles 1968年)
11. 夢で逢いましょう(坂本スミ子 1961年)
12. SAKURAドロップス(宇多田ヒカル 2002年)
13. 氷の世界(セルフ・カバー 1973年)

【アナログ盤】
発売:9月16日
価格:¥4,860(税込)
<収録曲>
01:シルエット・ロマンス
02:黄昏のビギン
03:リンゴ
04:リフレインが叫んでる
05:有楽町で逢いましょう
06:夜霧よ今夜も有難う
07:女神 / bonus track
08:瞬き / bonus track
09:あの素晴しい愛をもう一度
10: I WILL
11:夢であいましょう
12: SAKURAドロップス
13:氷の世界
14:瞬き Solo ver. (Extra track)

【ハイレゾ配信】
発売:9月16日
価格:¥4,600(税込)
※9月16日より下記配信サイトにて購入可能。

mora
http://mora.jp/index_hires

e-onkyo music
http://www.e-onkyo.com/music/

HQM
http://www01.hqm-store.com/index.php

VICTOR STUDIO HD-Sound.
http://hd-music.info/

<収録曲>
01:シルエット・ロマンス
02:黄昏のビギン
03:リンゴ
04:リフレインが叫んでる
05:有楽町で逢いましょう
06:夜霧よ今夜も有難う
07:女神 / bonus track
08:瞬き / bonus track
09:あの素晴しい愛をもう一度
10: I WILL
11:夢であいましょう
12: SAKURAドロップス
13:氷の世界

■ライブ情報
『井上陽水 コンサート2015「UNITED COVER 2」』
9月17日(木) 埼玉 大宮ソニックシティ
9月21日(月) 佐賀 唐津市民会館
9月23日(水) 熊本 牛深総合センター
9月26日(土) 岩手 久慈市文化会館 アンバーホール
9月27日(日) 岩手 宮古市民文化会館
10月4日(日) 愛媛 松山市民会館 大ホール
10月6日(火) 滋賀 守山市民ホール
10月7日(水) 奈良 奈良県文化会館 国際ホール
10月10日(土) 千葉 市川市文化会館
10月16日(金) 福岡 福岡サンパレス ホテル&ホール
10月18日(日) 大阪 フェスティバルホール
10月19日(月) 大阪 フェスティバルホール
10月22日(木) 宮城 仙台サンプラザホール
10月29日(木) 静岡 伊東市観光会館
10月31日(土) 山梨 コラニー文化ホール (山梨県立県民文化ホール)
11月9日(月) 北海道 小樽市民会館
11月11日(水) 北海道 だて歴史の杜カルチャーセンター(洞爺湖 近隣)
11月13日(金) 東京 オリンパスホール八王子
11月24日(火) 神奈川 鎌倉芸術館
12月4日(金) 東京 東京国際フォーラム ホールA
12月5日(土) 東京 東京国際フォーラム ホールA

http://yosui.jp/

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JUJU、『PLAYBACK』ヒットの理由とは? 積極的なメディア展開から分析

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【リアルサウンドより】

 昨年、デビュー10周年を迎え、さらなる飛躍のときを迎えたJUJU。先日リリースされた29枚目のシングル『PLAYBACK』が7月20日付けのBillboard JAPAN Hot 100のCHART Insightで4位となり、好調なセールスを記録している。

 JUJUといえば、これまで王道の切ない系バラードを得意としてきた女性シンガー。しかし昨今ではロックモード全開の『Hot Stuff』や大人の歌謡曲とも言うべき『ラストシーン』など、リリースごとに新境地を見せるかのような攻めの姿勢が印象的だ。今作『PLAYBACK』は、夏の開放的な気分にふさわしいアッパーなダンスチューン。テイラー・スイフトやアリアナ・グランデらの楽曲を思わせるEDM的アプローチも新鮮で、リリース前には「この曲、誰が歌ってるの?」と問い合わせが殺到し、有線6月度お問合せランキング1位を記録したほど。現在も音楽検索サイト「SHAZAM」日本トップ100ランキングで堂々の3位につけており、引き続き感度の高い層からの注目の高さをうかがわせる。

 とはいえ本作は、近頃の彼女には珍しくノンタイアップでリリースとなった楽曲。強力な後押しのない中、ここまでのヒットが実現した背景には、どんな理由があるのだろうか。

 まずひとつ挙げられるのが積極的なTV出演。リリース前後は朝の情報番組から音楽特番までさまざまなシーンでこの『PLAYBACK』を披露した。するとその度、曲名がTwitterでトレンドワード入り。7月15日に日本テレビ系「スッキリ!!」に出演した際には、有名人ランキングで見事1位に輝いた。コーラス隊のセクシーなダンスもツイートが拡散する要因となったようで、ネット上で彼女の真似をした振りをアップしている動画が数多く見受けられる。

 また、若者を中心に人気のアプリ「Instagram」に目配せしたMVも評判だ。こちらでは、「ハッシュタグ にときめく。完璧な”思い出”の撮り方」と題し、インスタで映える写真の撮影方法を楽曲に合わせて紹介。JUJU本人は登場しない代わりに、“Instagram界の王様”としてバラエティ番組に引っ張りだこのGENKINGをフィーチャーした。これにより、JUJUのメインターゲットである20代〜30代のみならず、10代へも訴求。新たなファン層拡大にも繋がったほか、YouTubeでは再生回数が130万回を超える人気動画となっている。

 動画による施策はこれにとどまらず、東京ガールズコレクション(TGC)とコラボした「#TGC_PLAYBACK」を利用した動画募集に始まり(9月27日のTGC当日のJUJUライブの背景映像に使用するほか、素材を使ってオリジナルMVも制作)、新感覚ファッションマガジンとして話題の「C Channel」に専用チャンネルを開設し、振り付け動画の投稿を募ったりと幅広く展開。カラオケの「DAM」とコラボして、「カラオケにときめく。完璧な思い出の“撮り方”」と題してカラオケユーザーの盛り上がり映像を募集するなど、アーティストからの一方通行ではなく、ファンやリスナーひとりひとりが広告塔となる効果を狙った。     

 昨今、ネットやSNSの発達で、音楽プロモーション自体も大きな転換期に来ている。熱心なファンをもれなくすくい取り、かつ新たな層に波及させようとしたら、これまでのようなTVや雑誌の露出だけでは追いつかない。新たなメディアや方法をいかに使うかがカギだ。今回、JUJUが『PLAYBACK』のプロモーションで行った施策には、観て終わり/聴いて終わりにならないための仕掛けが二重三重に用意されている。これが、SNSを使いこなし、流行に敏感かつ口コミ好きな女性層をうまく捕らえたのだ。

 しかし、企画の目新しさだけでヒットが生み出せるはずもない。つまりは、JUJU自身の類まれなアーティストパワーと楽曲そのものの完成度の高さがあってこそ。さらなる支持獲得となるか、その答えは歌詞のとおり、“太陽に味方され”るかどうかにかかっている。

(文=板橋不死子)

■リリース情報
『PLAYBACK』
発売:7月8日
初回生産限定盤:¥1,852(税抜)
CD+DVD「10th Anniversary Act#01 JUJU HALL TOUR 2014 ~DOOR~」ダイジェスト
DISC 1
1. PLAYBACK
2. Eternally
3. Can’t Take My Eyes Off Of You
4. PLAYBACK -Instrumental-
DISC 2
「10th Anniversary Act#01 JUJU HALL TOUR 2014 〜DOOR〜」ダイジェスト映像
ただいま
守ってあげたい
sign
Heart Beat
やさしさで溢れるように

通常盤:¥1,165(税抜)
DISC 1
1. PLAYBACK
2. Eternally
3. Can’t Take My Eyes Off Of You
4. PLAYBACK -Instrumental-

http://www.jujunyc.net/

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