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ビクター・デジタル部門の新レーベル「AndRec」は何を目指すのか? レーベル長・今井一成氏に聞く

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AndRecレーベル長・今井一成氏

【リアルサウンドより】

 ビクターエンタテインメントが設立した新レーベル「AndRec」から、注目の第1弾アーティストが本格デビューを飾る。すでに史上初の“ハイレゾ配信デビュー”を飾って話題になっていた、シンガーソングライター・丸本莉子。デビュー作の『ココロ予報』の通常配信が、7月8日にスタートする。

 AndRecは、ビクターエンタテインメントのデジタル配信部門が独自に新設したレーベル。同部門は自社音源や映像のスマートフォンやPC向け配信業務の中枢を担い、SNSを中心とするデジタルプロモーション等で、アーティストをサポートしてきた。ビクターエンタテインメントは自社でハイレゾ・高音質音源配信サイト『VICTOR STUDIO HD-Music』の運営にも力を入れており、高い歌唱力を持つ丸本莉子が、レーベル第1弾アーティストに選ばれている。

 レコード会社の一部門から新設されたAndRecは、どのようなレーベルを目指し、音楽業界に何をもたらすのか。また丸本莉子を第1弾アーティストに選んだ背景とはなにか。AndRecレーベル長である今井一成氏にインタビューを行った。サザンオールスターズの「TAISHITAレーベル」や、斉藤和義、くるり等が所属する「スピードスターレコーズ」を中心に、同社で長いキャリアを持つ氏は、レーベル設立の経緯をこう振り返る。

「音楽レーベルにおいては、事業の中心をパッケージからデジタルマーケットに移行する時期ではないかと考えています。レーベルにはやりたい気持ちを持つ人はたくさんいますが、その多くがどう進んでいいかわからない。それだったら、最初から“デジタル側”の人たちがトライしたらどうなるだろう、というところからスタートしています。私は制作の宣伝部門とパッケージの営業、デジタルの現場を経験して、パッケージとデジタルの両方の良さをわかっている中で、新しくレーベルをやったらどうなるんだろう、という興味が一番大きかったですね。もちろんパッケージを軽視しているつもりはなく、丸本莉子も9月にはCDでミニアルバムをリリースしますし、音楽を楽しむツールならなんでも対応しようと思っています」

 AWAやLINE MUSIC、Apple Musicなど次々に音楽の新しいデジタル配信サービスがスタートしているなか、音楽を生み出す側のレーベルにおいてもデジタルマーケットへの移行が加速する可能性もありそうだ。もっとも、同氏は日本におけるデジタル音楽市場を分析しつつ、「完全な形でスライドをするには、すごく時間と手間がかかる」と話す。

「デジタル系の評論家には『ヨーロッパだとこう、アメリカだとこう成功している。日本はなぜやらない?』という方もいますが、そもそも日本にはパッケージビジネスを大切にしてきた文化があります。例えばアメリカで見かけなくなったタワーレコードも、渋谷や新宿には大型のタワーレコードがあり、時々写真を撮る外国人を見かけます。ある国では消滅していっても、ある国の文化の中では重用されるべきものもあるんです。日本は独自のスタイルで音楽マーケットを作っているわけで、海外で成功したものが必ずしもウケるわけではない。ユーザーの進化に合わせてデジタルにスライドしていかなければならないと考えますが、パッケージに愛着を持つ人、パッケージビジネスを崩したくないと考えている人がいるのも事実。『こういうやり方ができるんですよ』ということを少しずつわかってもらうのが大事だと考えています」

 技術や視聴環境の変化よりも「ユーザーの変化」に着目する今井氏。特に10代の若い世代について、「これから2~3年で生活スタイルが激変する世代で、彼らがどんな風に音楽を聴くのか、ということを考え、音楽のセールスのあり方を進化させなければ」と語る。

「10代の子供達の2~3年は、われわれのような大人の2~3年とは大きく違います。これからスマホやPCを持つという子も多いだろうし、売り方はもちろん、そのマーケットに、一緒に考えながらアプローチできるアーティストを発掘することも重要なんです」

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 一聴しただけで強い印象を残す歌声と、共感を呼ぶ歌詞。最新のトレンドであるハイレゾ配信にも映える丸本莉子は、まさにそんなアーティストだったという。

「とにかく、彼女の歌詞の世界と歌声を聴いてもらいたい。そこにピントを合わせたくて、現在公開しているショートバージョンのミュージックビデオには、ライブ映像の横に歌詞を入れています。ハイレゾ配信に関しては、彼女の特徴的な声を引き立たせる狙いがありました。もっとも、本人はハイレゾについてほとんど知らなくて、急遽ハイレゾ勉強会を開きましたが(笑)。でも、アーティストは曲を作り続けてくれれば、それでいい。音楽の売り方が変わっても、創作の本質は変わらないですから」

丸本莉子 – ココロ予報(Music Video)

 ハイレゾ配信はあくまで、丸本莉子の魅力を最大限に活かすための取り組みであり、今後AndRecからデビューするアーティストにおいては、それぞれの特性にあったアプローチを考えているそうだ。今井氏は、「すべてのアーティストをデジタル側の視点から見て、こうあるべきだ、と結論づけるつもりはない」という。その上で「ただひとつだけ」と、最後に語ってくれた。

「必ずしもSNSに限った話ではありませんが、どのアーティストも情報発信を積極的にやってほしいという思いはあります。AndRecでも、当然アーティスト育成から力を入れていきますが、本人が話したり、書いたりというアプローチを積極的にしていくことで、いろいろなデジタルツールを使ってもっと面白いことができると思うんです。“レコード会社が売るのは音楽だけ”なんて定義は、どこにもない。さまざまなアイデアを実現して、これからのレーベルのあり方を示しながら、これぞAndRec、というイメージを構築していきたいですね」

 新時代のシンガーソングライターとして、高いポテンシャルを秘めた丸本莉子と、デジタル&アナログの両面から最適なプロデュースを考え抜き、今後も驚きを与えようとするAndRecというレーベル。両者が音楽シーンにどんな影響を与えていくか、今後の作品とその動きに注目したい。

(文=編集部/撮影= 石川真魚)

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■リリース情報
1st配信シングル「ココロ予報」(ハイレゾ配信)
発売日:2015年6月10日(水)
価格:デビュー記念・期間限定価格 ¥250(税抜)

1st配信シングル「ココロ予報」(通常配信)
発売日:2015年7月8日(水)
価格:¥250(税抜)

【iTunes URL】
https://itunes.apple.com/jp/album/-/id1011717765

【レコチョク URL】
http://recochoku.jp/song/S1001850961/

【mora URL】
http://mora.jp/package/43000005/VE3WA-17465/

■GYAO! MUSIC LIVEにて丸本莉子のスタジオライブが生配信決定
丸本莉子 LIVE at Victor Studio 『一本勝負!!』
日時:2015年7月16日(木)20:00~

視聴はこちら(GYAO! MUSIC LIVE TOPページ)
http://gyao.yahoo.co.jp/music-live/

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