「20パンドラ映画館」の記事一覧(2 / 11ページ)

北朝鮮は“トゥルーマン・ショー”国家だった!? 演出だらけの日常生活『太陽の下で 真実の北朝鮮』

<p> ジム・キャリー主演のコメディ映画『トゥルーマン・ショー』(98)を覚えているだろうか。気のいい保険のセールスマン・トゥルーマンの暮らしている自宅や街は、実はすべてドラマセットであって、彼の日常生活は密かにテレビ中継されているというもの。この『トゥルーマン・ショー』にそっくりなドキュメンタリー映画が、『太陽の下で 真実の北朝鮮』(チェコ=ロシア=ドイツ=ラトビア=北朝鮮合作)。ロシアの著名なドキュメンタリー監督ヴィタリー・マンスキーは北朝鮮を訪ね、平壌でごく普通に暮らす家族の日常生活を1年間にわたって密着取材しようとしたのだが、北朝鮮側があらかじめ撮影ポイントを決め、カメラに映る人々が口にする会話もすべて脚本として用意された上で、“最高の国・北朝鮮のごく普通の家族”を撮るはめになってしまった。だが、マンスキー監督はただでは転ばない。北朝鮮側の監督がちょくちょくカメラフレームに入ってきて「そこはもっと笑って」「明るく元気に」と演出し、リテイクを繰り返している様子を盗み撮りすることに成功。ごく普通の家族の日常を撮るために、様々な演出が施されている様子が映り込んだ、おかしなドキュメンタリー映画<br />
『太陽の下で』はこうして誕生した。来日したマンスキー監督に撮影現場の状況について聞いた。</p>

<p> 本作の主人公となるのは、8歳になるジンミちゃん。丸顔でツインテールの三つ編みがかわいらしい女の子だ。冒頭、真新しいジャケットを着込んだジンミちゃんはバスに乗って、学校に向かう。クラスにいる同級生の女の子たちもかわいいい子ばかりで、鼻水を垂らしているような貧乏くさい子はおらず、みんな行儀よく授業に耳を傾けている。先生も若い女性で、なかなかの美人さんだが、この先生の歴史の授業が強烈だ。「金日成大元帥さまは子どもの頃から、日本人と地主を憎んでおられました」「遊び浮かれている日本人に万景峰から大きな石を投げつけ、追い返しました」と抗日運動と神話化された建国の歴史をごっちゃにして、イノセントな少女たちに叩き込む。女の子たちが元気よく暗誦できるようになるまで、何度も何度も繰り返す。幼い頃から反日思想を徹底的に教え込む、北朝鮮の学校教育の恐ろしさを序盤からまざまざと見せつけられる。</p>

スコセッシ監督がついに完成させた宗教時代劇! 神はこの世に存在するのか『沈黙 サイレンス』

『シン・ゴジラ』(16)でもおなじみ塚本晋也が大熱演する、マーティン・スコセッシ監督作『沈黙 サイレンス』。  宗教戦争や異教徒への弾圧によって、これまでにどれだけの命が奪われたの…

宮崎駿監督が夢想した“理想郷”は愛知に実在した!? 生きることを楽しむ夫婦の記録『人生フルーツ』

<p> 体罰問題でバッシングされた戸塚ヨットスクールのその後を追った『平成ジレンマ』(11)、暴排条例によって人権が奪われたヤクザ一家に密着取材した『ヤクザと憲法』(16)など、東海テレビが製作したドキュメンタリー作品は劇場公開される度に観る者に強烈なインパクトを残す。名古屋のローカル局というよりも、ハードコア系ドキュメンタリー製作会社としてのイメージが強い東海テレビだが、最新作『人生フルーツ』は風に揺られるナックルボールのようにゆらゆらと、それでいて観る者の心のストライクゾーンにすとんと落ちてくる作品だ。タイトルの通り、色とりどりで実に味わい深い。そしてドキュメンタリーながら、どこか宮崎駿監督作品のようなファ</p>

社畜は死ね、狼は生きろ! 本物の狼との交歓シーンもある衝撃作『ワイルド わたしの中の獣』

<p> 毎日当たり前のように残業が続き、休日も自宅のパソコンでの仕事が待っている。年末年始さえ、まともに休みが取れそうにない。そんな社畜ライフとの決別を考えている人にお勧めなのが、ドイツ映画『ワイルド わたしの中の獣』だ。上司の顔色をいつも気にしているマジメでおとなしいOLが森で見つけた野生の狼を捕獲し、マンションでの同居生活を始めるというワイルドすぎる衝撃作。誰にも言えない秘密を持ったことでOLは徐々に大胆で攻撃的な性格へと変貌を遂げていくことになる。社会生活の中で本音を押し殺して生きている人ほど、主人公の変身ぶりに共感を覚えるに違いない。そして本作の特記すべき点は、登場する狼は“本物”であるということだ。</p>

ロボトミー手術、地雷撤去の強制……世界残酷史『ニーゼと光のアトリエ』『ヒトラーの忘れもの』

<p> 人類に大きな貢献を果たした人々に贈られるノーベル賞だが、過去には化学兵器を開発したフリッツ・ハーバーにノーベル化学賞が与えられるなど、かなりおかしな選考もしている。神経科医のエガス・モニスは精神疾患を根本的に治す“ロボトミー手術”を考案し、ノーベル生理学・医学賞を1949年に受賞している。ロボトミー手術は患者の前頭葉部分を切除することで、激昂しやすい患者の性格を穏やかにするというもの。当時は画期的な発明として賞讃されたが、手術後に廃人化してしまう患者も少なくなく、1970年代になってロボトミー手術は行なわれなくなった。ブラジル映画『ニーゼと光のアトリエ』はロボトミー手術が最新の医療だと信じられていた1940年代の精神病院を舞台に、実在の精神科医ニーゼ・ダ・シルヴェイラを主人公にした実録映画だ。</p>

<p> 1943年のリオデジャネイロ。女医のニーゼ(グロリア・ピエス)はかつて勤めていた精神病院に復職するが、監獄のような鉄格子で覆われた病棟内の現状に驚きを隠せない。病院側や家族の介護の負担が減るという理由から、精神疾患を抱えた患者へのロボトミー手術が行なわれており、しかも患者の眼孔からアイスピックを突き刺し、前頭葉部分を手探りで切断するという簡易な方法が奨励されていた。当時の精神病院では電気ショック療法も行なわれていた。ベッドに患者を縛り付け、患者が泡を吹いて意識を失うまで電圧は上げられた。患者たちをモルモットのように扱うそれらの医療法は、ニーゼには受け入れがたいものだった。<br />
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“理想の夫婦”を演じたエリートカップルの惨劇!! 共依存による殺人事件『ひかりをあててしぼる』

<p> 事件は2006年12月12日に起きた。新宿、渋谷でバラバラに切断された男性の遺体が発見され、中国系マフィアの仕業ではないかと噂された。やがて、バラバラ死体は外資系投資会社に勤める30歳のエリートサラリーマンであることが判明し、翌年1月になって代々木公園近くのデザイナーズマンションで暮らしていた被害者の妻・三橋歌織(事件当時32歳)が逮捕される。凶器はワインボトルで、就寝中の夫の頭部を何度も殴りつけ、ノコギリによってバラバラにしている。逮捕直後は夫のDVに苦しめられていた美人妻の逆襲として騒がれたが、事件の真相はそう簡単なものではなかった。ブランド品を愛する虚言癖のある女とギャンブル好きで虚栄心の強い男というある意味よく似た、でも出会ってはいけない男女間に起きた惨劇だった。映画『ひかりをあててしぼる』はこのミステリアスな事件をモチーフに、夫婦間の闇にスポットライトを当てた密室ドラマとなっている。</p>

迷宮入りした怪事件をメソッド演技で解明する!? 芸能界の闇と舞台がリンクする『貌斬り KAOKIRI』

<p> 天才漫画家・楳図かずお先生を取材する機会があり、興味深い話を聞いた。子どもの頃に「宇宙の果てはどうなっているの?」「人間は死んだらどうなるの?」という素朴な疑問を周囲の大人に投げ掛けたものの、誰も答えてくれなかったそうだ。それならば、自分が描く漫画の世界で自分自身が科学者や神様となってその答えを導き出してやろう。そう考えた楳図少年が大人になって完成させた作品が『14歳』だった。『14歳』のラスト、楳図先生と我々読者は共に宇宙</p>

映画監督の願望と性癖が露呈する新作ロマンポルノ『ジムノペディに乱れる』&『風に濡れた女』

<p>昭和世代には懐かしく、平成生まれには新鮮に感じられる日活ロマンポルノ。1971年~88年に量産された成人向けプログラムピクチャーのブランド名であり、セックス抜きでは語ることができない大人の恋愛事情を赤裸々&しっぽりと描いた名作が少なくない。若手女優・橋本愛が高校卒業後にハマっていたことをカミングアウトするなど、ロマンポルノを彩ってきた女優たちの官能美に魅了される女性ファンも近年増えつつある。そんな時流に乗って、企画されたのが「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」。行定勲、塩田明彦、白石和彌、園子温、中田秀夫といった脂が乗り切った時期にある実力派監督たちが、それぞれオリジナル作品でエロスを題材に競作を果たしている。</p>

初めて逢うのに、どこか懐かしいアイヌの人たち。極上の音楽体験ドキュメント『カピウとアパッポ』

<p>初めて聴く音楽なのに、ずいぶん昔から知っていたような気がする。初めて逢った人たちなのに、なぜか懐かしさを覚える。脳で知覚するデジャヴ感とは異なる、もっと体の芯から温かく包み込まれるような郷愁に似たものを感じてしまう。ドキュメンタリー映画『kapiwとapappo アイヌの姉妹の物語』を観ていると、不思議な気分になってくる。タイトルに謳われているようにアイヌの里出身の姉妹デュオ“カピウ&アパッポ”を主人公にした音楽ドキュメンタリーなのだが、アイヌ文化のことをまったく知らないにもかかわらず、幼かった頃に故郷の野原や浜辺で夕暮れまで遊んでいた記憶、家族や親しい人たちと過ごした思い出がゆらゆらと立ち上がってくる。<br />
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誰よりも盤上で奔放に、極太に生きた男の伝説! 松ケン主演のノンフィクション映画『聖の青春』

<p> 怪童と呼ばれ、29歳の若さで亡くなった伝説の男がいた。村山聖(さとし)がその伝説の男だ。広島で生まれた村山は幼少期は野原を駆け回る活発な子どもだったが、5歳のときに難病ネフローゼを患い、以降は入退院を繰り返す人生を歩む。まともに学校に通うことができなかった村山だが、病院のベッドで将棋の本を貪り読み、将棋の心得のある相手を見つけては勝つまで指し続けた。81マスある棋盤の世界では、村山は病身を気にすることなく自由奔放に闘うことができた。病室で過ごす時間の長い村山にとっては、将棋を指すことが外の世界と繋がる唯一の方法だった。やがて厳しいプロ棋士の競争社会に身を投じることになるが、常に死を意識しながら指す村山の将棋は、対戦相手を圧倒し、周囲の人間の心を動かすものがあった。同世代の天才・羽生善生とほぼ互角の戦績(6勝7敗)を残していることからも、村山の凄さが分かる。将棋を指すことで生の輝きを放ち、そして将棋の世界で若くして散った伝説の男に、松山ケンイチは『聖の青春』で成り切ってみせた。<br />
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