隔たりセックスコラム連載「別れのピロートーク#2」 隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。 生ぬるい風が当たり、唇が渇いていたことを知る。舌で舐めて潤いを与えてみたが、すぐに渇いてしまう。 カラオケを出ると、外はもう薄暗くなっていた。昼間の暑さの残りとこれからくる夜の寒さが混じった、モワッとした空気に包まれる。冷房の効いた部屋から出たばかりだから、余計にその空気感が心地悪かった。もっとカラオケの中にいたかった、と切実に思う。 喉が渇いた。でもそれは、カラオケでたくさん曲を歌ったからではない。 「なんか喉渇いちゃった。カラオケのドリンクって高いよね。ペットボトルとか買っておけばよかったな~」 横にいる梨香が独り言のように呟く。カラオケに入る前に汗をかいていた梨香の体は、冷房に冷やされ、今はスッキリと滑らかに見える。 「あ、梨香も? 俺もちょうど喉が渇いたって思ったところなんだよね」 「本当? そしたらさ、飲みに行かない?」 「飲み? お酒?」 「うん。私お酒好きなんだけど、隔たりは好き?」 「好きだよ。そしたら行こうか」 「やった! 行こ行こ!」 笑顔になった梨香は、携帯を開いて良い居酒屋が近くにないかを検索し始めた。歩きながら検索をしていたので、僕は梨香が人に当たらないようにと意識を向けながら横を歩く。 喉が渇いた。口の中に水分がある気がしない。でも、そうなった理由を想像すると、喉の渇きとは反対に心は潤う。 もし、今の僕らの会話を誰かが聞いていたとしたら。カラオケから出てきて、喉が渇いていると話す僕らを見たら。カラオケでたくさん歌ったらそりゃ喉渇くよなと、誰もが当たり前のことのように思うだろう。 けれども、僕らが歌ったのは二人合わせてたった4曲だった。梨香が最初に歌った曲、男女の交わり合いを描いた梨香の好きなロックバンドの曲、僕が梨香を抱きしめる言い訳を作るために歌ったミスチルの『抱きしめたい』、そして終わり際に「これだけは歌いたかったから歌わせて!」と梨香が歌った最近流行りの曲の計四曲。それ以外の時間は、ずっとキスをしていた。 「ねぇ、ここにしよ! めっちゃ近いし、雰囲気も良さそう」 横にいる梨香が携帯の画面を見せてくる。画面を覗こうとしたとき、視界の端にTシャツ越しの乳房が目に入った。 「いいね。そこにしようか」 視界の端に意識を向けたまま、僕は返事をする。脳裏にカラオケでの記憶が蘇り、残る。僕は右手で左手のひらを撫でた。そこに微かに残る感触を思い出すと体がくすぐったくなって、ある欲望が再び芽生える。もう一度梨香を抱きしめたいと。 梨香が選んだ居酒屋は地下にあった。地上ではないせいか、居酒屋の中はカラオケの部屋よりも涼しく感じた。 「はぁ~涼しくて最高!」 梨香は席に座ると、さっそくメニュー表を開いた。どれにしようかなと、お酒を選び始める。 欲に対して素直な行動を取る人はわかりやすく、一緒にいて楽だ。表情、声、行動の全てにちゃんと欲望が現れているから、変に気を使う心配も勘ぐる必要もない。「やっぱりビールかな~」と笑う梨香を見て、僕はそんなことを思った。 「ビールいいね。俺もビールにするよ」 「いいね! あっ! 定員さん、すみませ~ん!」 梨香は店員を呼び注文を始めた。「食べ物も注文する?」と聞かれたので、「梨香の好きなの選んでいいよ」と答えた。僕は自分の欲になかなか素直になれないところがある。というよりも、今自分が本当に何を欲しているのかがわからないことが多い。今僕がどのお酒を飲みたくて、何を食べたいかなんて、正直わからない。だから、ちゃんと欲がある人に任せ、合わせるほうが楽だ。 「はい! じゃあ、それでお願いします」 梨香は店員さんに対しても、ちゃんと笑顔で答える。その笑顔を眺めながら、僕は右手で唇をなぞり、それをそのまま左手のひらの上に落とした。自分は欲がある方の人間ではない。それでも、この唇と手のひらに残っている感触をもう一度味わいたいという欲はちゃんと存在している。 「わぁ~キンキンだ」 ジョッキの表面が曇るほど冷えたビールが机の上に運ばれた。20歳になって、お酒を飲めるようになって、僕らはもう「冷えたビールが美味しい」という、子どもにはわからない大人の世界を知っている。 「じゃあ、かんぱ~い!」 でも、「冷えたビールが美味しい」は、子どもでも何と無く想像できる世界だ。今僕は、子どもが全く想像できないような、そんな大人な状況の中にいる。 「ん~うまい!」 梨香の唇に微かにビールの泡が残る。その唇は、さっきまで僕とキスをしていた唇だ。キスをした唇でビールを飲む。キスをたくさんして渇いた口の中を、アルコールで潤す。大人はこんなことをしていたんだ、と改めて驚く。そして、もっと早く大人になりたかった、と今更ながらに思う。 「やっぱり暑い日はビールに限るねぇ!」 僕と梨香はネットで知り合い、今日初めて会った。そしてカラオケでたくさんキスをして、今ビールを飲んでいる。そんな状況の中で、普通に友達と食事に行ったときのように楽しくビールを飲んでいる梨香を、僕は大人だと思った。キスの感触を思い出しながら、左手に残る乳房の感触を思い出しながら、僕はそんな友達のようには笑えない。 この関係がもし恋人たちのものだとしたら、そんなことを考えずに笑えるのだろうか。 「そうだね。暑い日はビールに限る」 酔っ払いたい、と思い、僕はビールを体に流し込む。口の中の渇きを消し、そこにわずかに残る梨香との接吻の残り香を体内に流し込んだ。 「お! 飲みっぷりいいね!」 場所がカラオケだったから、僕らは最後までしていない。たくさんキスをして、ちょっと乳房を触った、その程度だ。恋人ではない男女のセックスを、世の中では「セフレ」と呼んだりする。じゃあ、たくさんキスをしながら乳房を触った後に何事もなかったのように食事をする関係は、どう定義されるのだろうか。 「そういえば、隔たり、歌うまかったね」 梨香は聞いて当然だ、当たり前の話題だ、という自然な声色で言った。確かに、僕らはここに来る前はカラオケにいた。だから当然の流れなのだろうが、実際はほとんどキスしかしていない。なのに、あたかも時間いっぱいにカラオケを堪能したという体温で聞かれたら、舌が戸惑って動かない。 「久しぶりに歌って楽しかったなあ」 僕が何も答えなかったからか、梨香はそう言ってビールをゴクゴクと飲んだ。全く性の匂いのない会話。梨香が意識的に切り替えているのかはわからないが、その場に適応する会話を選べる彼女の健やかさを僕は羨ましいと思った。 「そういえばね、私、介護士として働いているんだけどさ」 おつまみをつまみながら梨香が話し始める。これも自然だ、と僕は感心した。濁りのない、なめらかな話題の移動。梨香は仕事であった出来事や悩みなどを、何の違和感もなく話した。僕はその話に「うんうん」と相槌を打ってはいたが、思考と心はずっとカラオケの中に取り残されていた。 梨香の柔らかな唇。微かに漏れる生温い吐息。 「だからさ、最近は転職しようかなって考えてるんだよね」 Tシャツ越しに伝わるブラジャーの感触。そして、乳房のふくらみ。 「でも、職場の近くに引っ越し決めたばかりだからさ。すぐには転職できないというか」 引っ越し、という言葉に、僕の唇と左手が反応する。カラオケの中に取り残された思考と心が、居酒屋にいる僕の肉体に戻った。 「あれ、梨香って今は実家だっけ?」 「うん。そうだよ。実家出て一人暮らしを始めるの」 キス。もっと深く。 「へぇ、そっか。一人暮らしか。いいね、楽しそうだね」 「楽しみではあるんだけどさ、けっこう大変。冷蔵庫とかベッドとか買わなきゃいけないし」 ベッドで愛して。 「いつ引っ越しするの?」 「えっと、あと一カ月後くらいかな。ちょうど夏が終わって少し涼しくなる時期」 暑いなか引っ越しをするのは大変だしね、と梨香は箸を伸ばす。しっかりと揚げすぎてしまったのか、濃い茶色の唐揚げを掴むと、それを唇で挟み、口の中に入れた。 「美味しい」
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