「ブルーノ・マーズがアイドルをプロデュース」って本当? K-POP誇大宣伝から見る扇情的報道の弊害

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本人の意図せぬところで「夢の共演」となっている事実を、ブルーノ本人はどう思うか。

 去る2月23日に韓国でファースト・フル・アルバム『Press It』をリリースした人気アイドル・グループ〈シャイニー〉のメンバー、テミン。リリース後、韓国のアルバム販売量集計サイトの週間チャートで1位を獲得するなど、大きな反響を呼んでいる。その話題性を後押ししたのが、先日行われたアメリカの祭典「スーパーボウル」のハーフタイムショーにも登場したアーティスト、ブルーノ・マーズ【1】との“共演”という報道だった。アルバムに先駆けて公開された「Press Your Number」がその共演曲で、テミンのファンのみならず、ブルーノのファンまでも取り込み、韓国をはじめ、日本でも大々的に報道された。ネットでは「ブルーノがテミンの才能を認めるなんて!」といった称賛の嵐が巻き起こったが、ブルーノは自身のブランディングに異常なまでのこだわりを持つアーティストとして知られている。まずは、米国のブルーノのマネジメントに話を聞いてみた。

「『Press Your Number』は、ブルーノ・マーズ名義でお蔵入りとなっていた『Press It』を下敷きにした楽曲です。『Press It』は、ブルーノが(当時の)共作者であるステレオタイプスと6年ほど前に制作した楽曲であり、ブルーノは作曲を担当したまでで、テミンというアーティストのためにプロデュースしたという事実はありません」

 韓国のメディアはこぞって「夢の共演」などと囃し立てたが、真相はお蔵入りとなっていた楽曲を買い取り、使い回しただけだった。

 ちなみに、ブルーノはデビュー当初こそ、ステレオタイプスと共作をしていたが、後に袂を分かつことになる。つまり、テミンの「Press Your Number」は、「Press It」の原盤権を持っていたであろうステレオタイプスが、テミンの所属するSMエンタテインメントに売却しただけではないかと思われる。

「過去にブルーノとステレオタイプスは、アジア人ヒップホップ・グループのファー・イースト・ムーヴメントに『Rocketeer』(10年)という楽曲を提供しています。もともとはサビをブルーノが歌っていたのですが、『デモ用に歌っただけで、彼らの楽曲に参加するつもりで歌ったわけではない』という理由から、サビは違うボーカリストに差し替えられました。そのくらいブルーノは完璧主義者です」(音楽ライター)

 実際、旬のプロデューサーや海外アーティストとの共演がK-POPアーティストの躍進を後押しする例もあるが、今回のような強引な誇大報道は、ファンへの背信行為とも取られかねない。では、なぜSMエンタテインメントは、ここまでして話題作りに奔走したのだろうか?

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テミンに譲渡されたブルーノのお蔵入り「Press It (Slower Version)」は、YouTubeに複数アップされていたが、SMエンタテインメントの手早い動きによって削除。

「近年では、東方神起が分裂してできたグループ・JYJ(C-JeS エンターテインメント)がカニエ・ウェストと共演したり、ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムが2NE1(YGエンターテインメント)に惚れ込んで、自らプロデュースを買って出たり、4ミニッツ(キューブエンターテインメント)が欧米のダンスミュージック・シーンを牽引するプロデューサー、スクリレックスのプロデュース楽曲を発表しています」

 つまり、「競合する韓国のアーティスト/事務所に水をあけられた形になったからではないか」と前出の音楽ライターは話す。

 また、同じSMエンタテインメントに所属するBoAや少女時代の全米デビューに至っては、お世辞にも“大成功”とは言えない結果に終わったが、両者「アメリカ公演、満員御礼!」などと、空席が目立つ会場写真を加工してまでも“捏造”に必死であった。

過剰報道で生まれる音楽業界の由々しき問題

 そもそもこの大袈裟で過剰な誇大報道こそアジア諸国の悪しき音楽文化のひとつで、海外から足元を見られる原因を作っていると指摘するのは大手レコード会社のベテランディレクターだ。

「1999年、ジャネット・ジャクソンを育て上げた大御所プロデューサーのジャム&ルイスが宇多田ヒカルの『Addicted To You』を手がけたことが大きな話題となり、ダブルミリオンを記録した。しかし、あの曲はふたを開けてみたら、ジャネットが98年に発表した『Together Again』のリミックスの焼き直しといっても過言ではないものでした。『Addicted To You』は作詞・作曲が宇多田本人ということもあり、じっくり聞けば別曲として捉えられます。しかし、問題は『日本人をプロデュースすれば金になる!』【2】と海外に思わせてしまう、煽るアジアのメディアにあります。

 昨年、三代目J Soul Brothersがアフロジャックと共演した楽曲『Summer Madness』が多方面で話題になりましたが、あの曲に至っては、スティーブ青木とアフロジャックの共作『Afroki』に少々手を加えただけの代物と言っていいでしょう。ちなみに欧米でも、話題の共演などは事前にメディアが報道することもありますが、いわゆる今回のテミンや、日本国内のニュースサイトなどに顕著な『なんと、○○が××をプロデュース!』といった煽り方はしていません」

 音楽アーティストを多数抱える大手事務所のスタッフが続ける。

「日本の売れているアイドルやアーティストが、箔を付けるためにも海外の著名プロデューサー/アーティストとの共演を切望する気持ちはわかります。しかし、その提供してもらった楽曲に対し、アーティスト自身も事務所もレコード会社も、『もしかして、既発曲の焼き直しかもしれない』ということを疑うべきなんです。今でこそ値崩れしていますが、『日本はCDが売れている』と思い込んでいる海外プロデューサーらは、いまだに法外なプロデュース料を突きつけてきます」

 さて、今回のテミンの誇大宣伝以外にも、数々の過剰報道を行ってきた韓国メディア。知らぬ間に名前を使われたブルーノ・マーズは気の毒だが、事実を知らぬままに「ブルーノが僕のためにプロデュースしてくれた楽曲」としてテミンが心から歌っていたとしたら、それはさらに気の毒で仕方ない。

 ここから透けて見える「お金次第で大物との共演が可能」「トップアーティストの名前を出せば話題性抜群」と考えている音楽業界の浅はかな体質。売れるための手段を考えるのは必要不可欠なことだが、アーティストの意思やキャリアを無視してまで作る過剰な誇大宣伝に、本当の価値は付与されないだろう。

(田口瑠乙)

【1】ブルーノ・マーズ
日本でも高い人気を誇るハワイ出身のシンガー・ソングライター。「Just The Way You Are」や「Marry You」は、国内の結婚式の定番ソングとしても定着しているようだ。

【2】日本人をプロデュースすれば金になる!
本文で触れたように、これまでに数々の著名アーティストが海外のプロデューサーやアーティストとコラボを果たしている。その報酬額はピンキリだが、最低でも数百万円といわれ、もっとも高いものでは数千万円の例も。近年は国内の辣腕プロデューサーが、海外と比較しても遜色ない楽曲を制作しているが、報酬はベテラン勢でも100万を超えることは滅多にない。

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