なぜ女性は昇進・昇給しづらいのか 「女性らしい生き方」と「女性の生きづらさ」

今週からmessyで女性をめぐる社会問題について連載をさせていただくことになりました、古谷有希子と申します。これまでもwebメディアから「連載してみませんか」というお誘いをいただいたことはあったのですが、面白いことやキャッチーなことが書けないので、難しそうだと思っていました。今回は、messyの編集さんがいくつか具体的な企画を提案してくださって、私でもできそうなものもあったので、思い切って連載をさせていただくことにしました。一般の方向けに文章を書いてきた経験が無いので、読みにくい部分もあるかと思いますが、よろしくお願いいたします。

で、こいつは何者なんだ、と思われる方も多いと思いますので、軽く自己紹介をさせていただきます。私はアメリカの大学院に在籍していますが、昨年から日本で日本の高校生の就職について研究をしています。大学生の新卒一括採用はよくニュースなどでも注目を集めますが、高校生についてはニュースで取り上げられることもほとんどありません。「大卒ニートになるなら高卒就職の方がいい」という話もありますが、高卒就職の実態を知る人はあまり多くないかと思います。

世間の関心は大卒に向いていますが、しかし日本社会の特徴として、高卒就職であれ大学進学であれ、個人の一生に対して非常に大きな意味を持つのは、高校生の時に何をしているのか、どんな高校に通っているのかである、という分析があります。しかも高校生本人の学力や能力以上に、高校そのものの果たす役割が、社会全体で見たときに非常に大きいのです。個人の能力は多くの場合、努力に対する姿勢、本人の好みや得意科目も含めて、家族、友人、教師など周囲の環境・対応・期待のかけ方などによって大きく左右されるものですが、日本では高校が進路指導という形で生徒にダイレクトに関わる中で、生徒の人生の選択に大きな影響を与えるのです。

◎理系学部に進学する女性は男性に比べて少ない

この連載は、女性をめぐる社会問題について書くということになっているのですが、女性についてもこうした分析と同様のことが言えます。どんな女子高生だったかが重要だ、というと下世話な感じがするかもしれませんが、どんなことが好きで、どんな活動に参加して、どこで遊んで、どんな友達がいて、どんな生活をしていたのか、何の科目が好きだったのか、どんな高校に通っていたのかということがその後の人生を決めるうえで非常に重要な要素になるのです。そして、なぜあるモノを好んだり、ある行動を選択したりするのか、それさえも環境によって大きく影響され、その環境は学校によって大きく変わります。

そして、女性の場合は男性に比べてもっと複雑です。ある女子高生がクラスメイトの男子と「好きなもの」「得意なもの」が全く同じで同じ進路を選んだとしても「世の中が女子と男子の違いをどう思っているか」によって、個人の望みや能力とは全く違うところで、人生が大きく引っ張られてしまうことが少なくありません。

ここで、女子と男子の進学傾向の違いを「男女共同参画白書平成25年版」を参考に見てみましょう。

大学進学率は男子54.0%、女子45.6%と男子の方が8ポイントほど高いのですが、大きな違いはありません。一般的に理系の方が文系よりも就職で有利かつ給与も高いと考えられているので、理系・文系学部の進学率の男女の違いを見てみると、女子学生が最も多い専攻分野は25.6%の社会科学分野、次いで22.3%の人文科学となっています。一方男子が一番多いのは38.9%の社会科学分野、次いで23.6%の工学分野となっています。女子が比較的多い理系学部は薬学・看護学の13.4%です。また、女子の場合は家政、芸術、そのほか、という分類の学部系統も17.7%と多いのですが、男子はこの比率が女子よりも少なく10%弱となっています。

この数字を見ただけでは単純に男子が理系を選び、女子が文系を選ぶ、とは言えませんが、女子が理系に少ないことは明確な事実です。しかし、この事実をもってすぐさま「女性の方が理系スキルが低いから、あるいは理系を選ぼうとしないから就職、給与、昇進などで不利」と結論付けることできません。日本では文系出身者の方が将来的な昇進・昇給では有利だという研究があるように、文系であることで不利益を被ることはないのです。

◎男女の差が開くのは大学卒業後

日本の管理職に占める女性割合は平成24年度で係長、課長、部長を合わせて11.6%ですが、その中でも一番多いのが係長相当職の14.4%、部長相当職では4.9%と、全体として非常に低い水準にあります。女性はなぜ昇進・昇給で不利なのでしょうか?

先ほど男女の大学進学率はそれほど変わりがないと述べました。しかし、進学率に大きな差はなくとも、進学する大学の難易度に違いがある可能性もあるでしょう。そこで、男女の出身大学の難易度の違いをみたいと思います。

東京大学の男女比率は4:1、慶応大学は2:1、上智大学は1:1、明治大学は2:1、帝京大学は2:1、国立大学平均は3:2です。東京大学も含め難易度の高いとされる国立大学は、設置されている学部が文系学部よりも理系学部の方が多いため、理系の学生の方が多くなります。理系学部が女性に比べて男性のほうが進学する比率の多いことを考えれば、私立大学より男子学生の比率が高いのは当然でしょう。また、私立大学の男女比率は難易度で大きく差があるわけではありません。ときおり聞かれる「偏差値の高い大学は女子比率が低く、偏差値の低い大学は女子比率が高い」という話は迷信に過ぎない、ということです。

そもそも東京大学にしても、日本の女性管理職と比べれば、男女比率の差はそこまで大きいものではありません。私の研究室がある男子ばかりの東大ですら、男女比は4:1にとどまっているのですから、男女の学力差に起因して、女性の昇進・給与が男性より低く抑えられているわけではないということになります。つまり、男女の社会参画は、大学在学中まではそこまで大きく差があるわけではないのに、卒業してから差が開いていくのです。

◎いつから「女性らしい生き方を探そう」にシフトするのか

女性は結婚出産を経て仕事を辞めるから仕方がない、という考え方もあるかもしれません。しかし、女性の勤続年数は長期化しており、雇用者のうち女性の平均年齢は40.0歳、平均勤続年数は8.9年であり、男性は平均年齢42.5歳、平均勤続年数13.2年と大きな違いがあるわけではありません。つまり、結婚しようが子どもができようが、女性も男性も同じように働き続けているのに、女性は昇進・昇給で男性に大きく水をあけられているのです。

しかし、男子と同じぐらい勉強もできて、希望をもって大学に進学し、意気揚々と社会に出ようと夢を抱いていた女子高生は、一体いつ、自分は男子とは同じ働き方ができない、男子とは同じようになれない、男子とは違うんだということを突き付けられ、それならば女性らしい生き方を探そう、と考えるようになるのでしょうか? 次回以降、さらに踏み込んで考察していきたいと思います。

参考
内閣府男女共同参画局 男女共同参画白書平成25年版
川口章、2008、『ジェンダー経済格差―なぜ格差が生まれるのか、克服の手掛かりはどこにあるのか』勁草書房
橘木俊詔、松浦司、2009、『学歴格差の経済学』勁草書房

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