テロのイメージばかり先行するけど本当のイスラムってどんなとこ? 1400年の歴史を追う!
――イスラム過激派組織などの伸長により、混迷を極める中東情勢。民族問題、宗教問題が複雑に絡み合うこの地の政治的“見取り図”を正確に把握するのは至難の業。ではあるが、日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究理事である保坂修司氏のインタビューを中心に、この地の歴史の概観を眺めてみたい。
IS、タリバン、ボコハラムなど、イスラム過激派によるテロが世界の人々の生活を脅かし続けている。2015年11月、約130人が死亡したフランス・パリ同時多発テロは、世界中の人々に大きな衝撃を与えた。今年に入ってからも、血なまぐさい惨劇はやむ気配がない。1月31にはシリアの首都ダマスカスで、1月7日と2月1日にはアフガニスタンのカブールで、また1月14日はインドネシア・ジャカルタで、イスラム過激派による自爆テロが相次いで発生している。
内戦が続く中東、アフリカ情勢は、現地難民の流出にも拍車をかけている。シリアからの難民は15年8月時点で410万人、当地の全人口の約2割を占めるほどに膨れ上がった。難民受け入れの是非をめぐり、欧州は人道的立場とテロリスト流入という現実の間で揺れている。欧州各国の国内世論は真っ二つに割れており、難民に厳しい措置を取る極右やタカ派の台頭も著しい。また最近では難民と欧州各国国民の対立も深刻だ。今年1月25日、スウェーデンでは難民受け入れ施設で働いていた女性が、難民少年に殺害されるという痛ましい事件が起きた。同29日には、その事件の報復と称し、覆面姿の極右グループが首都ストックホルムで難民や移民を襲撃、逮捕されている。欧州以外の先進国にとっても、イスラム過激派や難民問題は対岸の火事ではない。各国ではテロを警戒した警備体制が強化され、開戦前夜を彷彿とさせるような殺伐とした風景が広がっている。
しかし、ここで我々はこう問いたい。
「イスラムとは何か? イスラム世界とは何か?」
全世界でムスリム(イスラム教の信者)は16億人ともいわれる。そのうちのほとんどが、イスラム過激派を支持する狂信的な信者などではないのは、賢明な読者なら先刻承知であろう。しかし、先述したような世界情勢の中、いまや「イスラム世界」のイメージは、暴力や残虐性と結び付けられることが多い。しかし、大部分のムスリムは、我々と同じような、ごく普通の一般人ではなかろうか……?
そこで今回サイゾーでは、「中東・イスラム世界 新文化論」と銘打った特集を企画する。中東・イスラム世界の最新動向に目を配りながらも、かの地で生きる普通の人々が日々楽しんでいるであろうようなファッション、スポーツ、音楽、映画、その他のエンターテインメントから、一部の退廃的享楽までを、お届けしたいと思う。なぜならそのほうが、かの地の人々の“本質”を知ることができると考えるからだ。
とはいえ、そのためにもまずは、かの地の歴史を概観しておくことは大切だろう。そこで巻頭企画たる本稿では、日本エネルギー経済研究所中東研究センターで研究理事を務める中東専門家・保坂修司氏に話を聞きながら、イスラム世界の歴史をたどるにあたってキーとなる書籍を交えつつ、解説を加えてもらうこととした。
(文/河 鐘基)