ヒゲは剃れ! ツメは切ってこい!!  CGばりの写真修正リクエストに仰天

 かれこれ約8年ほど、記者として韓流稼業にたずさわってきました。その間、さまざまなものを見聞きし、いろいろな浮き沈みを経験してきましたが、昔とくらべてもっとも大きく変化したなぁと思うのは、俳優やアーティストの写真チェックの面倒くささです。昔はノーチェックで記事にできたり、雑誌に掲載できていましたが、ここ最近は締め付け(笑)が厳しくて、モノ作りの現場としてはいかがなものだろう、とため息をつきたくなります。

 取材で撮った写真を所属事務所やレコード会社などに見せて、この写真は使用してもいい、これは掲載NGと言われるまでは、まだわかるんです。彼らだって、アーティストのイメージ管理をしなければいけませんからね。さらに、最近とても多いのが〈レタッチ〉の指示です。レタッチとは、撮った写真の画像データを調整、修正することを指します。

 顔の肌のニキビやできものを消してくれ、目の下のクマを薄くしてくれ、青いヒゲ剃りあとをキレイにしてくれ、ほうれい線を消してくれ……などなど、その要望は多岐にわたります。でも、まだここまでの単純な〈お直し〉なら理解できます。最終的にはいい記事にしたい、その一心で写真を選び、原稿を書いているのですから、その取材対象がさらにファンから愛されるように、できるだけ〈美しい形〉で世に出したいと思う気持ちは、どの記者も同じでしょう。ただ、そのレタッチの要望がときに常軌を逸することがあるのです。

 最近結婚した中堅俳優は、数年前の取材の現場にごま塩のヒゲ状態で現れました。あぁ、これは次のドラマの役作りか、最近は無骨な男らしいイメージで売っていこうとしてるのかな、と思って、特に気にもとめませんでした。それはそれで彼に似合っていたし、なごやかに撮影とインタビューを終えました。その後の写真チェックで言われたひとこと、「ヒゲをすべてキレイにしてください」ーーは、はい? 耳を疑いました。「なら、ヒゲ剃ってこいや~!」です。寝坊でもして、ヒゲを剃る時間がなかったんですかい? そのツケをこちらに払わせないでほしいです。

◎無茶な修正指示の数々

 当日のヘアメイクでどーにでもできただろう、と思うことは、ほかの人でもあります。若手の歌手兼俳優は「唇がかさかさ荒れているので、つるっとさせてください」ときました。おいおい、それ、メイクさんがリップクリームをきちんと塗ってれば済んだ話じゃねーの? こっちにやらせんなよ、です。

 この手の話は、枚挙にいとまがありません。ツメが伸びているから短くしてくれ(切ってこい!)、手にうっすら生えているうぶ毛をなくしてくれ(剃ってこい!)、すね毛を消してください(剃ってこい!!)。……これら全部、本人やスタッフのちょっとした努力で写真を撮る前に解決できることじゃありません? 手のひらのしわを消してください、というリクエストにたまげたこともありますね。ツルツルにするのは顔だけじゃなくて、手のひらもかい! 手相を読まれたくない深い事情でもあるのかな、と疑っちゃいましたよ。

「いや、無理ですから、それ詐欺ですから」というケースも多いです。しれっとお願いされるのが「痩せさせてください」「脚を長くしてください」というやつ。ここまでくると、もうCGですよね。本人が体をしぼりきれていないのに、そのケツをこっちに持たせんなよ! 脚の長さは生まれ持ったものなんだから、現実を直視して、もうあきらめようよ。写真という2次元の世界だけに住んでいるならウソをつき通すこともできるでしょう。でも、テレビやYouTube命の韓国芸能界で、いくらでもナマの姿をさらす機会があるというのに、写真だけ取りつくろったって無駄なことです。

 アイドルグループは人数が多いだけに、レタッチがさらに複雑に、面倒になります。「この4人の顔はいいけど、このひとりの子の表情があまりよくないから、あっちの写真から移植させてください」と、何の悪びれもなく指示されると、吠えてブチ切れたくなります。そんな〈アイコラ〉は、おたくのCDジャケット写真かファンクラブ会報誌だけにしてください、と言いたくなります。それか、お金を払っていただいて、記事広告にしてくださるなら、いくらでも対応しますけど!

 技術の進化の弊害なんでしょうね。その場ではダメでも、あとでいくらでもコンピュータ上で直せばいい、と安易に考えるようになってしまったのは。写真修正でよく使われるPhotoshop(フォトショップ)というソフトを駆使すれば、ほとんど不可能なことはありませんから。それこそ韓国では写真を修正することを「フォトショップする」と言うほどの、フォトショップ大国なので、とうに感覚が麻痺しているのかもしれません。

 でもねぇ、写真というのは光と影の微妙なバランスでできあがっていて、修正しすぎると、やはりどこかおかしくなってきます。左の頬をレタッチしたら、右の頬もレタッチしないと違和感が出るのです。そうやってレタッチを重ねると、人間離れしたサイボーグのできあがりです。そんな仕上がりの写真をネットや雑誌でたまに見たりしませんか? 「●●くんって肌すごくキレイなんだね!」という読者の声やツイッターでのつぶやきを見るにつけ、胸がチクリと痛んだりするのです。

今週の当番=風田チヌ
同じことは「整形」にも感じます。やっぱり人間の顔って絶妙なバランスでできあがっているので、整形しすぎた顔に覚える違和感って、人間の本能が発する危険信号なんじゃないかなぁ。

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