問題は「男なのに、女なのに、ゲイなのに」というレッテルではなくて/『逃げ恥』第8話レビュー

 29日放送の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)第8話が、平均視聴率16.1%と自己最高&火曜ドラマ歴代最高記録を獲得しました。「何やってんだ平匡(星野源)!」「急ぎすぎなんだよみくり(新垣結衣)!」「喧嘩しないでぇ~!」と三者三様の意見が飛び交った前回のラスト。ほとんどの視聴者がモヤモヤしながら、じっと放送を待つしかなかった中、27日には日野さん(藤井隆)版の「逃げ恥ダンス」が公開され、そのキレッキレの動きにすべてがどうでもよくなり、安らかな気持ちで火曜日を迎えたのではないでしょうか。しかし、またしても身体の一部が、いや全身が熱くなる神展開だったわけで。

 先週みくりは、平匡さんと二度目のキスをした後に、ハグしながら「いいですよ、私は。平匡さんとならそういうことしても」と伝えたところ全力で拒絶されました。その夜から、何もなかったように過ごそうとするも「あの一言さえ言わなければ、いい雰囲気のまま終われたのに。もっと近づきたいと思って欲をかいてしまって、受け入れられていると思い込んだ自分が痛い女だな」と死にたくなる日々を送っていました。そんな中、容赦なく訪れたハグの日。耐えきれなくなったみくりは「母が骨折して(これは本当)、どうしても帰って来てくれと言うので(これは嘘)、館山に行ってきます。冷蔵庫に食事は入れてあります」という手紙を置いて家を出て行くのです。

 その後の平匡さんの心情は、外でランチ(コンビニのサンドイッチ)を食べている時に母から届いた、赤ちゃんを抱っこした写メと「うちの孫はいつじゃろね~」なんてメールを機にやっと見えてきました。「母さんごめんなさい。あなたの息子は子供を作るどころかハグをしてキスするのがやっと。10歳も年下のみくりさんに付いていけてない。進むべきじゃなかった。みくりさんのように妄想で気を紛らわせたいけど、そんなイマジネーション僕は持ち合わせていません」と。

 さらに、日野さんに誘われた飲み会で、みくりが出ていったことを知っている風見さん(大谷亮平)と言い合いになり、爆発。日野さんや沼田さん(古田新太)もいたので、あくまで「風見さん宅に来ていた家事代行の女性が休んでいる」という話から始まり、「彼女は自分の言動に責任を持つタイプだし、よほどいたたまれないことがあったんじゃないですか」と平匡さんをチラチラ見ながら嫌味をぶつニセ野内に、平匡さんは震えた声で「知らないなら、何も言わないでください」と珍しく感情的に。風見さんが「事情は知りませんが、津崎さんより僕のほうが彼女のことを知ってるかもしれない。『見えている』と言うべきか」と続けると、「何が見えているか知りませんが、違うものが見えていて当然じゃないでしょうか。僕とあなたはあまりにも違う。僕はこんな場所で人に皮肉をひっかけるような自信に満ち溢れる人間じゃないし、生き方も見た目も何もかも違う。根本的に違うんです」と一括したのでした。

 飲みすぎて潰れた平匡さんを、百合ちゃん(石田ゆり子)が車で迎えに来て、風見さんも同乗したことで状況は一変します。平匡さんとの言い合いで「中学時代を思い出した」と、風見さんは百合ちゃんに初めての彼女について話し始めたのです。何でも、当時の風見さんはモテたのですが、彼女は地味めな女の子。ある日突然、周りから釣り合ってないと言われることに落ち込み、「風見くんといるのが辛い。風見くんにはわかんないよ、私と風見くんは全然違うんだもん」と言われたのだとか。「そんなこと僕に言われてもしょうがない、自信がないのは彼女の問題なのに。『あなたにどんなに拒絶されても、僕は大好きだよ』って言ってあげればよかったんでしょうか。向こうは僕の気持ちなんか考えちゃいないのに、自分ばかり見ている彼女に何を言えばよかったんでしょうか」と嘆くのです。この時、すでに目を覚ましていた平匡さんは、ハッとするんですね。

 平匡さんは家に着くと、今まで自分の気持ちでいっぱいで手に取ることもしなかった“料理の入ったタッパー”を見漁ります。すると、そのひとつひとつに手書きの献立と「今日も1日頑張りましょう!」「38度のお風呂に浸かるとリラックスできますよ!」「今日は秋の根菜たっぷりです!」なんてメッセージが。そして、その料理を食べながら「どんな思いで作ったんだろう」「どんな思いでここを出ていったんだろう」「あの時(あの夜)みくりさんは、どんな思いで……」と、ようやく初めてみくりの気持ちを思い巡らすのです。

 さて。その間のみくりはと言いますと。実家には母の看病に義姉とその娘、さらにみくりに言われて野菜を届けに来たやっさん(真野恵里菜)、週末には兄(細田善彦)まで集まっていました。精密検査をしてきたという母は、「もし私が先に死んだら、お父さんはどうなるんだろう、いいチャンスだ」と、骨折を機に、父に厳しく家事を行わせていました。何もできない父に不満を抱えつつも「愛してるわよ、お互いに努力して」「運命の相手ってよく言うけど、私そんなのいないと思う。運命の相手にするの。意志がなきゃ続かないのは、仕事も家庭も同じじゃないかな」とみくりに伝えます。実家での生活の中で、みくりはみくりで「誰かを誠実に愛し続けることは、ものすごく大変なことなのかもしれない」「人の気持ちは変えられないけれど、人生のハンドルを握るのは自分自身」と気付いたのです。

 その翌日。平匡さんから着信があり、「みくりさんに言いたいことがあります」と、先に話したいと言うみくりの言葉を遮って、平匡さんは童貞であることを告白。あの夜は「失敗したらどうしよう」「10歳も年下の相手にリードされる自分が情けない」と思っていたこと。みくりの気持ちをまったく考えていなかったこと。未経験だと知られることが怖かったことを語り、「ごめんなさい」と謝ります。

 するとみくりは、「知ってました。でも、私にとってはたいしたことじゃありませんでした。でも拒絶されたのはすごくショックでした」。童貞だって知ってたんですね!? 「このまま館山で市議会議員になろうかなって。そういう人生もありかなって。そう考えたら気が楽になりました。他の道もあるんだから失敗してもいいやって。これから303号室に帰ろうと思います。もう一度会って話を……」と言ったみくりに、平匡さんは食い気味に「会えます、今すぐ近くに。会って、火曜の分の、ハグを!!!」と自らハグを提案したのです。これにはみくりも「はい!!」と笑顔で返事をし、2人して走り出したのです!

 が。結局その時、みくりは東京に、平匡さんは館山にいたんです。平匡さんに関しては、みくりの実家に強制宿泊することになり、その夜は会えず仕舞い。それでも、洗って置かれているすべてのタッパーを見て微笑むみくり。2人してメールしながらニコニコしたりして。先週とは打って変わって、みんな大好きハッピーエンドとなりました。

 今回の劇中には、百合ちゃんの部下が産休を取る女性社員にムカつき、「女に生まれたからどうのこうのって言われません?」なんて百合ちゃんに聞くシーンもありました。さらにみくりの実家では、女4人で旦那の愚痴を言い合い、働く女性の育児について話し合って、「男も子供を産めるようになればいいんだ!」なんて結論が出ていたり。28日に放送された『星野源のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)を思い出しました。

 星野源いわく、このドラマの良いところは男だから、女だから、ゲイだから、というレッテルで出演者全員が苦しんでいるけど、前向きに頑張っていること。そんな中、第7話のラストシーンで、みくりを拒絶した平匡さんに「男なのに何やってんだ!」と視聴者が怒ったことに対し、「出演者が苦しんでいる理由は、見ている人たちの怒った人たちの心の中にあるという。(制作陣が)どこまで意識されているかはわからないですけど、そういう風になるというのがすごく面白いドラマ」とのこと。

 確かにそういう見方をしている人もいるかと思います。とはいえ、「男なのに」「女なのに」「ゲイなのに」ではなく、あくまで「ひとりの人間として」中途半端な行動をした平匡さんにイライラした人もいるのでは。そして今話では、四の五の言わずに「みくりの気持ちを汲もうとしていなかった」と反省し、素直に謝る人柄にキュンとしたのではないでしょうか。
(ドラマウォッチャー:ナチョス)

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