妊娠菌をばら撒き、そして売る妊婦たちの狂気が垣間見えるインスタ&メルカリの闇

 いつも寝る前にインスタをチェックしている。主にチェックするアカウントは『コーデUP系』と『ていねいな暮らし&子育て』系だ。このせいで正直、万年寝不足である。

 先日、知り合いの編集者に「いまの新米ママさんはどうやって育児の情報収集をしているのか」と尋ねたところ、芸能人ブログでも雑誌でもなく「インスタで月齢の近い子を持つママさんのアカウントをチェックしている」のだという。筆者は4年前の出産後、もっぱらママタレブログ(特にギャル曽根)の育児奮闘記事を読んで心を和ませていたのだが、もうそんな時代は終わっていたことを遅ればせながら悟ったのであった。というわけで、いつもウォッチする系統とは別に、育児系のタグでインスタをウォッチしてみたところ、驚きのムーブメントを発見した。その名も“妊娠菌”である。これって妊婦の常識だったの!? オカルトに疎いもんで全然ノーチェックだったが、知らなかったことを(ウォッチャー的に)後悔した。

妊娠菌タグ画像の共通点

 「#妊娠菌」タグで検索してみたところ、もはや追いきれないほどの写真の数々。いや……てか妊娠菌って何!? まさか妊娠菌という菌が移って妊娠するとかいう、迷信めいたものですかね? と想像したら、その通りだった。ひねりがなくて驚いた。何のエビデンスがあるのか……なんて無粋なことはさておき、現状確認である。エビデンス、あるわけない。

「#妊娠菌」タグのつけられた写真には、いくつか同じものが写っていた。透明なアクリル樹脂らしきもので作られた、うさぎのイラストつきお守りと、おにぎり(ゆで卵付きのことが多い)、そして「#赤富士」だ。

 この透明な「お守り」には何の意味が……? 気になって片っ端からチェックしてみたところ『うん子宝』という名称で、うさぎのウンコが中に入っているらしい!「#ベビ待ち」や「#不妊治療中」の女性が多く入手しているようだ。調べると、それを配っているサイトもあった。子孫繁栄のシンボルのうさぎ、幸運を呼び寄せるウンコ、こういったものを組み合わせて、うさぎ型の中にウンコを入れた『うん子宝』が生まれた様子。パワーストーンなんかもプラスして、うさぎの中にはウンコだけでなく、これでもかと縁起物が詰め込まれている。これは作者が妊活のお守りとしてうさぎのウンコを樹脂で固めうさぎ型のお守りを作ったところ、妊娠したというストーリーがあったことから、ご利益を求めてもっぱらインスタ場でプチブームを巻き起こしている……らしい。常々思うがインスタで巻き起こるブームは局所的だが熱狂的でもある。無料ということもあってか、申し込みは殺到している様子。

 そしておにぎり。こちらも気になり、おにぎり画像を片っ端からチェックしてみたところ「#妊婦おにぎり」というものだと発覚した。妊婦おにぎり……腹が減った妊婦が食べるおにぎりではなく、妊婦が握ったおにぎりだった。「妊娠ジンクスで臨月の(臨月じゃなくてもよいという説もあり)妊婦さんにおにぎりを握ってもらうと妊婦菌が移るという噂」があることから、臨月の妊婦さんが実際に握って友人にプレゼントしたり、「#ベビ待ち」の女性が臨月の友人などに頼んで握ってもらうなどのパターンがあるようだ。「海苔おにぎり」と「塩おにぎり」が良く、さらに「ゆでたまごも良い」という記述がチラホラみられたが、どう良いのかはわからなかった。古来から日本に伝わる文化なのだろうか。東日本限定の風習らしいという記述も確認でき、なにか民俗学的な匂いも漂う。

 「#赤富士」は「陣痛中に妊婦さんが描いた赤い富士山の絵」。芸能人ブログでも度々登場するのでご存知の方も多いだろう。こちらのサイトによると、この絵を描いてもらうと妊娠するというジンクスがあるのだという。へぇ~。タモリの安産お守りみたいなもんですかね……? インスタでは、友人からもらったり、インスタで仲良くなった妊婦さんからもらったり、というような赤富士の写真がけっこう確認できる。

 妊娠を心待ちにしている夫婦もいるので、こうしたジンクスで気持ちを上げることはもちろん否定しない。藁にもすがる思いで、こうしたアイテムを入手する妊娠希望者もいるのかもしれない。ただ……。

メルカリで横行する妊娠菌ビジネス

 インスタは妊娠菌を浴びたいユーザーがいる一方で、不気味なことに『陽性反応が出ている妊娠検査薬』の写真も多い。オシッコかけた検査薬の写真をアップするのって誰得なわけ!? あまりにもプライベートをさらけだしすぎていて、とにかく驚きと(ウォッチャー的な)喜びがないまぜになった複雑な感情に襲われた。妊娠を望む女性にとっては、他人の妊娠を知ることで心乱されることもあるのではないか、とこっちの心が乱れそうだ。インスタは優しさと、自己顕示欲の結果としての残酷さが同居している。

 ちなみに最近筆者はインスタとメルカリを同時にチェックし、ユーザーの紐付けなどの作業にも勤しんでいる究極の暇人なのだが(仕事も忙しいので常に寝不足)、この「#妊娠菌」関連グッズについてメルカリでチェックしてみると、これまた驚くべき事態になっていた。なんと一般女性たちによる妊娠菌ビジネスが横行していたのである。

 まず「妊婦おにぎり」関連の「妊婦米」と称した、本当のただの白米。「妊娠中のママから貰ったお米をお守りにして身につけたり、それで作ったおにぎりを食べると妊娠できるというジンクスがあります」とあるが、この出品者は4人目を妊娠中で、1合300円で売っていた。これ悪いけど高すぎっ!!!! でもなんと購入者がいた。「#ベビ待ち」の女性たちがカモにされている瞬間を見た。これは果たして親切といえるのか?

 ほかには妊婦が描いた『ザクロの絵』。ザクロの絵を寝室の北側に飾ると子宝に恵まれるという説があり、とくに妊娠している女性が描いたものがご利益が高いと言われる……と出品紹介文にはあった。559円。中途半端な値段~っ!!! しかも売れてるし! さらに、出品者がいただいて育てていると妊娠が発覚したという縁起の良い「子宝草」。これが一株333円。筆者は植物をうまく育てることができた試しがないため、たぶん、枯らすだろう。結果的に自分から“縁起物を枯らす”という縁起の悪い事態を招きそうだから、買えないな。

 もちろん『赤富士』も売られている。300円程度が相場のようだが、本当に陣痛中に描いたのか疑うほどに、しっかりとした筆跡のものもある……。これが陣痛中に描かれたものだと証明するものはなにもない。産後に一儲けする算段だったのか、6枚以上の陣痛赤富士を出品している猛者もいる。苦しみながら6枚連続で描いたのか? ほか「妊娠中の私が描いた絵です」と555円で素人がただの絵を販売していた。お前なぁ……。ここまでくると、そもそもご利益とは何なのか、縁起が良いとはどういうことなのか……と、根源的なことを考え始めてしまった。メルカリで会ったこともない妊婦が描いた絵を買って、何のご利益があるのだろうか。いや絶対ないと思う。

 もうひとつ、メルカリで気になったのは、女の子の産み分けグッズ(という名の潤滑ゼリー)「ハローベビーガール」である。使っている途中に妊娠が発覚したので残りを売ります、という売り文句であるが……メルカリ以外の通販ページでこの商品を調べると、さも女の子を授かりやすいかのような紹介文が書かれていた。これには山田ノジル先生も過去記事でサラリと触れているがいつかぜひ検証をお願いしたいと思っている。

(インスタ&メルカリウォッチャ〜京子)

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