子どもに読ませたくない! 欺瞞だらけの絵本作家による脅しだらけの最低絵本

 Eテレ『みいつけた!』で「おてて絵本」のコーナーがはじまるたび、嫌~な気持ちになります。子どもたちがつむぐ物語を、〈のぶみ〉氏がイラスト化しているからです。

 絵本作家であるのぶみ氏は、高校時代は池袋連合という暴走族のトップになり、その後〈女が多い〉という動機と父親の替え玉受験で、保育士&幼稚園教諭育成の専門学校に進学したという異色の経歴の持ち主。そこから絵本作家を志したきっかけは、気になる女子の気をひくために絵本を描いたら喜ばれたからなのだとか。

 絵柄の好みは人それぞれですし、技術的な良し悪しもわたしはあまり興味がありません。何が一番嫌なのかと言うと、のぶみ氏の「こうすればグッとくるんだろう?」という思惑が透けて見える、子どもをナメきった世界観。特にそれが色濃く表れているのは、〈母親が死んで幽霊になった〉という過激な設定で大ヒットを飛ばした、のぶみ氏の代表作『ママがおばけになっちゃった!』(講談社)でしょう。

子どもを脅す罪に無自覚すぎる

〈ある日突然ママが事故にあい、死んでしまった!〉というストーリーの背景にあるのは、「ほら、親って大事なんだよ?」という感謝の強要。2015年にwebサイト「QREATORS」に掲載されたインタビュー記事では、のぶみ氏がこう語っています。

 大人もそうだけど、特に子どもはママに何かしてもらえるのは当然だと思ってる。だけど、それがなくなることはあり得るんだぞ、ということ。この本は子どもに対してビンタ級の威力があると思いますよ(笑)。「お前、ママは大切なんだぞ、よく考えてみろ」って分かってくれるといいな。

 〈逮捕歴33回の元暴走族〉という経歴の持ち主が真っ当なことを語ると、よりありがたみが増すと感じる人もいるのかもしれませんが、これっていわゆる〈恐怖心で子どもを従わせる〉という、鬼やおばけを使ったしつけと変わりません。ついでに子どもはともかく、大人まで〈ママ=お世話係〉と思っている人ばかりという発想はどうなんでしょ? 親の言うことをきかせるため安易に子どもを脅すことについては各種専門家によって警鐘を鳴らされていますのに、幼児教育の専門学校に通ったはずののぶみ氏は、何か思うところはなかったのでしょうか。

 社会心理学の教授やスクールカウンセラーを務める碓井真史(うすい まふみ)氏の記事によると、〈上手に叱れない親が頼ってしまう方法が、体罰や安易な恐怖、愛の剥奪〉と解説されています。それらは子どもにとっては最大の恐怖であり、「言うことをきかなければ愛してあげない、お母さんは家を出る」などと脅すような行為を便利に使いすぎると、親は上手な叱り方を学べなくなり、子どもは強い不安感を抱くだけであると語られています。

 のぶみ氏は過去に有名テレビ番組の「情熱大陸」にも出演していて、そこで紹介されていたさまざまな工夫を見ると、売るための努力をしているんだなとは思います。ただしその方法とは、新作は下書きの状態でまず読み聞かせイベントを行い、その反響をフィードバックさせて仕上げていくというものでした。「手堅くヒットを生むためのマーケティング」とナレーションで解説されていましたが、のぶみ氏の自伝である『暴走族、絵本作家になる』(ワニブックス)で語られていた、

「でも作る人が考えないといけないのは、売れることじゃない。読んでいただいた人に、喜ばれることだ」
「損得勘定で描いた絵本なんて子どもに届くわけないだろう!」

というご高説はどこにいっちゃったんでしょう~。

さらに「徳のある人になる!」と熱く語られていますが、その言葉〈親が死ぬ〉という脅しを子どもに投げつける作品では、まったく説得力が感じられません。

子どもはただのマーケット

 ちなみに、2007年に放送されたNHK『プロフェッショナルの仕事の流儀』の「絵本作家・荒井良二の仕事 きのうの自分をこえてゆけ」をご存知でしょうか。荒井氏の、のぶみ氏と真逆の素晴らしき世界に圧倒されますよ。アーティスティックなほうが格上というわけではないけど、どこまでも自分と対峙していくその姿の美しさ。

 番組では荒井良二氏が絵本を描くとき、常に「自分のなかのおとなを捨てる」という点を突き詰めていると紹介されていました。たくさんの子どもたちと触れ合い、作品作りに生かすという活動は、両者どちらもやっていることのよう。しかし荒井氏は子どもたちの斬新な発想に触れ自分の中の子ども心を刺激することに生かし、対してのぶみ氏は、とことんマーケティングに利用。その作風、世界観、クオリティ。どちらの絵本を自分の子どもに与えたいかと聞かれれば、どう考えても荒井良二氏の絵本です。

 〈怖い絵本〉というのは、エドワード・ゴーリーの作品や怪談えほんシリーズなど、世の中にはたくさんあります。しかしそれらは〈あくまで大人向け〉であったり、歴史や文化、事件を伝えるなどの背景があるもの。それらとは異なり、のぶみ絵本の場合は売るため、言うことをきかせるため、感謝を強要するだけという薄っぺらいものにしか思えません。

自身の考え=「世界最高の学問」!?

 さらに絵本だけでなく、のぶみ氏が行っている講演会のネーミング「のぶみ学」というのも、ダメダメな世界観が現れているように思います。ブログではこんなふうに説明されていました。

「2014年から、世界最高の学問、
のぶみ学を池袋で石井詩織と始めることに決定(^^)
なぜ世界最高なのかというと、
僕がそう決めたから。

だって、僕にとっては、
僕が考えた方法が一番
うまくいくに決まってるでしょう。

みんなにとっても、
そうだと思う。

あなたのうまくいく方法は、
あなたが知ってるでしょう」

 〈自分教〉とでもいうようなこの発想、当連載のメイン物件になりつつある〈子宮系女子〉やら〈引き寄せ系〉やらの人たちとすごくよく似ています。自分軸で生きるのは結構ですが、やたらと根拠のない万能感をまき散らすのは、傍からみていて醜悪です。さらにのぶみ氏の場合は、武勇伝が大好きなヤンキーテイストを、育児界に持ち込まないでいただきたいものです。

 新しい門出を迎える春、親戚知人等の子どもに絵本を贈るという場面も少なくなさそうですが、そんなとき絶対選びたくない絵本として、私の中で現在のぶみ作品がNo.1を独走中。ランキングに変動があった場合は、またこちらでご報告させてください。

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