生殖にセックスが必要なくなったら、人はセックスをするのか? 「知っているようで知らない性の健康セミナー」レポート

“女性らしさ”とはなんなのか? “性”とはなんなのか? 3月8日の国際女性デー前後で多くのメディアが女性に関する情報を発信しました。私もそれらの情報を目にしていましたが、より専門的な視点で語られる“性”に興味を覚え、去る2月26日に開催された、第5回「知っているようで知らない性の健康セミナー」にお邪魔することにいたしました。

 医師や看護師を対象に「現代社会の性問題の最新事情」をテーマに開催されたセミナーでしたが、会場には200名以上が集まり満席状態。“性の悩み”への関心の高さがうかがえました。同セミナーは、一般社団法人日本家族計画協会理事長・北村邦夫氏による、コンドームメーカージェクス株式会社が実施したジャパン・セックスサーベイの解説からスタート。

 同サーベイは全国約5,000人の男女を対象にした、性に関する調査です。セックスの回数から、セックスにかけた時間、マスターベーションの頻度といった性行動の実態から、オカズや前戯の部位など性の嗜好に関することまで幅広くリサーチしています。

 今回の調査で特徴的だったのは、セックス経験の割合が20代で男性が57.0%だったのに対して、女性は73.3%。男性の草食化はもはやいうまでもないですが、女性がより活発になっている点です。

 しかしながらセックスをする目的に関しては、男性は「性的な快楽のため」69.2%が最も多かった一方で、女性は62.5%もの人が「愛情を表現するため」と回答しています。また「相手に求められるから」と回答した男性は4.5%でしたが、女性は26%。まだまだ男性主体としたセックスが主流であるように見受けられます

男女間ですれ違う“悩み”

 セックスの悩みについては、男性は「挿入から射精までの時間が短いこと」が最も多い回答に。調査結果をみるかぎりだと女性は挿入時間の短さは気にしておらず、それよりも自身が「オーガズムに達することができない」と悩んでいました。

 たしかに私も周囲の男性からも早漏だから苦労しているという話を聞きますが、男性が気にするべきはそこではないということですね。早漏を気にするのは女性への配慮なのか、はたまた男性のプライドなのかは定かではないですが、男性の皆さまは、自身の息子ばかりを気にするのではなく、もう少し目の前にいる女性の状況を見る余裕を持っていただきたいものです。

 かたや女性の悩みについてですが、個人的にはオーガズムに達する=素敵なセックスかというとそうじゃないと思います。ただ女性が悩んでいるということは、セックスに対しての満足度が低いということ。女性の皆さまはもっと自分の体の状況をオープンに伝えられるといいのかもしれませんね。

 続いて、セックスサーベイおなじみの「セックスの頻度」に関する設問。男性の約4割、女性の約5割が特定の相手にかぎらず1年間まったくセックスをしていないそうです。

 マスターベーションの頻度に関しては、男性は変わらずですが、20代女性の約3割が週に1回以上マスターベーションを行っているという結果が。女性のマスターベーションも決して稀な行為ではなくなってきていることがわかります。素敵な傾向でございます。

あなたの“性”は何ですか?

 サーベイ報告の後は、「誤解だらけ!間違いだらけ!の男女の性」と題した講義です。私がこのセミナーで一番楽しみにしていたもので、第一部は産婦人科医である早乙女智子先生が女性の体について講義し、第二部では川崎医科大学泌尿器科学教室教授・永井敦先生が男性の体についてお話しされました。

「mybody is my choice。私の体は私のものなんだ。自分の体のことは自分で決めるんだという、その一言を伝えたくて今日はきました」

と始まった早乙女先生の講義では、社会的な背景にとらわれず、自分自身で自分の性を選択していくことの必要性が語られました。

 昨今、性の多様性については多く語られていますが、「あなたの性はどういうものですか?」と質問をされたら、みなさんはどのような回答をしますか?

 フランスではこの“性”について、200通り以上の回答があったと言います。早乙女先生の回答はこうです。

「性自認は女だと思っています。それを証明したくて子どもも産みました。自分の性的対象は男性に向いています。社会的な役割は男役割でいたいと思っています。ですけれども服装としては女装。今日も究極の女装をしてまいりました。私だけでも4通りのことが表現できます」

 つまり、世間では肉体的な性別を見て「女性とはこういうものだよね?」と論じられがちですが、そうではないということです。子どもを産みたいという意味では女だが、社会としては男性としていきたいなど“性”は個々に存在しており、生まれつきの“性”だけで“性”を語ることなどできないと早乙女先生はいいます。

 確かにそうかもしれません。私自身、性自認は女性ではあるし、性的対象は男性には向いています。ただ女性特有の身体的機能である出産をしたいと思ったことはありません。そういう意味では女性という体を持っていても、必ずしも社会が考える“女性”の通りではないということは身をもって感じています。

 出産でいうと、今後、避妊医療や生殖医療の進化により生殖にまつわる性の考え方が変わっていくのではないかというお話もありました。

女性主体の避妊法は、日本でも増えるか?

 日本において避妊といえば選択肢はコンドームかピルのふたつが定番ですが、早乙女先生によると、アメリカや先進諸国では、避妊はすでにLARC(Long Acting Reversible Contraception)と呼ばれる、長時間作用する避妊方法の時代になっていると言います。

 具体的には、子宮内に挿入する避妊システム(IUS)や、黄体ホルモンを注入する避妊注射、皮膚に貼ることで低容量ピルと同等の成分を体内に浸透させるパッチ法、皮下に黄体ホルモンのカプセルを埋め込む方法などがあるそうです。

 リモコン操作が可能で、16年間機能が持続する無線の避妊インプラント(埋め込み式)の避妊具が、2018年には米国の店頭に並ぶのでは? というニュースも出ていました。

 私自身もこれほど多くの避妊法があるのは知りませんでした。もちろん一概にどれがいいとは言えませんし、国内ですぐ使用できるものばかりではありません。

 ただ、女性の体で生まれ、避妊の選択をしているのであれば、「彼がコンドームをつけてくれないからどうしよう」「ピルを飲み続けるのが大変」「飲み忘れた!」ではなく、もっと自分主体の方法を選べるということです。望まない妊娠や出産において、精神的にはもちろん体が傷つくのは女性自身です。であれば、男性に任せるのではなく、自分本位の避妊方法がもっとあるということは知っておくべきでしょう。

 避妊治療のみならず不妊治療に関しても、医療の進化で私たちの価値観が変わるかもしれません。

 早乙女先生は、今後、体外受精技術や子宮移植、人工子宮など医療が進化していくことで、いわゆるセックス(挿入行為)を伴わない生殖が可能になってくると言います。これにより、現在妊活において問題とされている“セックスレス”は、問題ではなくなるかもしれないとも。

「挿入は、妊娠以外に必要ない」という考え

 私の周りでは、「子どもが欲しいからセックスをがんばっている。でも本当は旦那とセックスをしたいとは思わない」という声もちらほら聞こえます。もしセックスをしなくても妊娠ができる時代が来たら、彼女たちはセックスをするのでしょうか?

「『女性にとって挿入は妊娠以外に必要ない』と考える人がいてもいいと思います。セックスが痛いと感じるならならやめればいい。夫婦だからという縛りではなく、性に関して『私はこうしたい』ということを真面目に発言すればいい。それができない日本は、性に対して不真面目な国なんじゃないかな。

 年齢、性別、思想、婚姻状態に関わらず自由であるべき。女だから、父だから、母だからで自分を縛っている社会。もう少しだけ自由になることが大事なのではないでしょうか」

 テクノロジーの進化によって、セックスをするしないの判断も自分主体で改めて考えるときがくるのかもしれません。

 ただ、その判断ができない女性がいるのも事実。早乙女先生のところには、セックスに苦手意識がある女性からの相談も多いといいます。そういった相談にくる大半の女性は、自身の体を知らないそうです。

 とある70代の女性が「自分の膣の前の方にデキモノができた。自転車にあたるんです」と打ち明けられたところ、デキモノではなくクリトリスだったとのこと。加齢により皮下脂肪が落ちて、クリトリスが自転車に当たるようになったそうですが、その女性は70年間、自身の体を何も知らずに生活していたのですね。

「なぜか女性の性器はワイセツ物扱いになっています。隠して、触れてはいけない場所だけど、セックスはしないといけない。そう思うとセックスはどんどんむずかしくなっていきます。

まずは自分で体に触れてみる、知るようにする。もっと性を日常的なものと考えて、性の健康を考えること。大人の女性は自分の体を知っているものです。自分の体は自分で管理しましょう」

 自分の体を知らなければ、相手に伝えることなんてできませんし、セックスが楽しいと思うことはますますむずかしいですよね。

射精は健康維持につながる!?

 早乙女先生の講義後は、永井先生による男性の体に関する講義へ。

 永井先生の講義では、男性の射精に関する都市伝説も例にあげつつ、ユーモアを交えながら男性の勃起や射精のメカニズムから、ED治療薬、また射精が男性の健康において大きな役割を担っているということまで解説されました。

「赤い球が出たら終わるという話があるが、精液に打ち止めはないです。どんどん射精すべき。いい歳をして射精なんて、というのは間違い。いい歳だからこそ射精してください」

 私はこれまで男性の射精について考えたことがほとんどありませんでしたが、医療的な見解から健康のために大事なことだと知ると、女性にとったはとつい軽んじがちな“男性のマスターベーション”も違って見えてまいりました。女性の皆さん、ゴミ箱のティッシュの塊も優しく見守ってあげましょう。

 最後に早乙女先生のお言葉を拝借して。

「妊娠、避妊すべてを医療技術によってコントロールできるようになったとき、妊娠を考える必要がなくなったとき、セックスはどのような存在になるのか? “女性らしさ”とはなんなのか? 自分の性を改めて考える時代になるのではないのでしょうか」

 そんな時代が、そう遠くない未来にやって来るかもしれません。セックスが楽しいか楽しくないか、気持ちいいか気持ちよくないか、だから自分はどうしたいのか、自分の性は自分で決めていきましょうね。

(イライザ)

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