都市の「官能性」、都心の空き家率上昇。住む街を検討するときに抑えておきたい新知識!
個別カウンセリングリポート第2回は、「家を買い隊」メンバーそれぞれの住宅購入に関する疑問に、不動産コンサルタントの田中歩さんが答えます。
今回は編集者・ライターのまりえさんと、メーカー勤務のよしどめさんのコンサルティングです。
自分にフィットした街を探すには?
まりえさん。36歳
東京都文京区の3階建て戸建の1階部分を賃貸。未婚。専門職派遣で、ライターとして大手ウェブ媒体の編集部に勤務。年収400万円ほど。
まりえ:前回のレクチャーで2018年に不動産価格が下がるという見通しをうかがって、大きなインパクトを受けました。オリンピックが始まる2020年までは価格が下がらないと思っていたので。2年後となると、1年間は頭金を貯める期間だと思えば、すぐにでも動き出した方がよいですね。
田中歩さん(以下田中):人口が減り、全国的には不動産価格が下がる可能性が高いと考えられます。低金利により不動産価格が上がっていたのは東京都内だけの現象でした。ところが都内でも、今すでにタワーマンションの価格が下がってきているんですね。いずれこの動きは、都内のほかの物件にも波及してくるでしょう。
まりえ:妹が大阪でマンションを買っているのですが、その価格と比べてあまりにも東京の不動産価格が高いので、自分には無理かと諦めそうになっていました。でも、そう遠くない未来に値段が下がってくると思うと、家を買うことに関して俄然、現実味が増します。
田中:今後、東京の不動産価格が下がっていくことは確かですが、地域による価格差は依然として残ります。いえ、さらに開くんじゃないでしょうか。都内のなかでも、差が開いていくと思いますよ。
まりえ:職場は都心にありますし、通勤に便利な場所に住みたい気持ちは強いのですが、土地に対するブランド志向はないのです。いわゆる「住みたい街ランキング」に出てくる恵比寿や吉祥寺などの街は物価も高いので、むしろ敬遠しています。都心へのアクセスがよく、不動産価格が安い“穴場の街”を探したいです。
田中:よい街の基準は人それぞれですから、賢い考え方ですね。実は私自身も住まいは、都外でありながら通勤に便利な街を選んでいます。
まりえ:自分にフィットした街を探すって大事ですよね。ただ、住んだことない街の住みやすさを推測するのって難しい! 以前、東横線沿線に住みたいという理由で神奈川県の武蔵小杉に部屋を借りようと探していたときに、「南武線を使えば5分で武蔵小杉に着くのだから、武蔵新城でも武蔵小杉とあまり変わりませんよ」といわれて、武蔵新城に部屋を借りたことがあるんですが、大失敗でした。武蔵小杉までは確かに5分なのですが、そこから東横線に乗り換えようとすると、さらに5分以上かかったんです。
田中:路線によっては、そういう欠点がありますよね……。急ぎで探さなくてもよいのであれば、一度お目当ての街に住んでみるのもおすすめですよ。いつ頃買いたいという希望はあるのですか?
まりえ:4年後、40歳になるまでには買いたいです。今は年間で家賃に100万円ぐらい払っているので、2000万円ぐらいの物件であれば、賃貸で借りている価格で家が買えるのかなぁと。だったら、漫然と賃貸のお金を払うよりも買ってしまいたいという気持ちがあります。
田中:固定金利1.5パーセント、20年返済のローンで2000万円を借りる場合、月10万弱ぐらいになりますね。
まりえ:本当に今の家賃と変わらないんですね。
田中:ただし、変わらないのであれば焦って買わずに、2年ぐらいの間、じっくり自分に合う街を探したり、少し家賃の安い部屋に住みながら、頭金を貯めたりするという方法もありますよ。
まりえ:確かにそうかもしれませんね。今気になっている街が北区なんです。東京駅へのアクセスが抜群な点が魅力的ですが、環境はどうなのでしょうね。外国人の方が多く住んでいたり、飲み屋が多かったりするなど、混沌としたイメージがあります。
田中:僕は好きな雰囲気ですけどね。赤羽など北区の街は、その混沌としたところが味です。街の魅力を分析するための指標はさまざまあって、「住みたい街ランキング」や地価だけでは割り切れないものです。近年では「センシュアス・シティ・ランキング」という、都市の“官能性”を指標にした基準も話題です。
まりえ:“官能性”ですか?
「官能性が高い街」とは?
田中:「ロマンスの機会があった」「豊かな食文化を楽しんでいる」「共同体に帰属している」など、その土地に住んでいる人が、実際に“体験したこと”を調査したデータをもとに、全国の都市をランキングしたものです。不動産屋の広告では、駅から何分で、都心まで何駅とか、スーパーや公園があるか否かとかの、街の“外的情報”しか分かりません。しかし、本当の住み心地の良さは、“外的情報”だけでは分からないのではないかという考えのもと、新たに作られた指標なのです。
まりえ:なるほど。とはいえ人によっては「豊かな食文化」は求めていても「共同体への帰属」は求めていない場合もありそうです。総合的な官能性が高いから、自分にとってよい街ともいえないでしょうね。
田中:まさに、その街がフィットするかどうかは、住む人のキャラクターと大きく関係しています。
まりえ:本当にそう思います。もう武蔵新城に住んだときのような不便を感じたくないし、買ってしまえば簡単に引っ越しもできませんし……。まずは、自分にどんな街がフィットするのか、考えていきたいと思います!
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「港区に住んでいる人はお金持ち」「目黒区に住んでいる人はおしゃれ」ーー多くの人が無意識のうちに住む人と街のイメージを重ねあわせています。人々が抱く最大公約数的な街のイメージが不動産価格にも直結し、よりブランドが強化される……。でもステレオタイプなイメージのフィルターを外してみれば、意外な掘り出し物件に出合えるかもしれません。
そのためには、日頃の行動範囲を出て、気になる街に行ってみることが第一歩。筆者は仕事で物件取材を多くしているのですが、内見とあわせて近場で人気の飲食店などをまわってみると、物件情報を見ただけでは分からない土地の表情が見えてくると実感します。
物件を見たからといって買わなければならないこともないので、散歩のついでくらいの気軽な気持ちで内見を申し込んでみるとよいのではないでしょうか。
年齢が上がると賃貸しにくくなるから…
よしどめさん。41歳
以前はひとり暮らしをしていたが、4年前に都内の実家に戻る。現在は家族と4人暮らし。未婚。勤続年数3年の会社員(メーカー)で、年収は600万円ほど。
よしどめ:実家暮らしなので買うタイミングを焦ってはいないんですけれど、41歳という年齢が気になっています。そろそろ独立しなければと……。年齢が高くなると、賃貸も借りにくくなるといいますし。
田中:ローンを定年までに完済しようと思うと、タイミング的にはそれほどのんびりしない方がよいかもしれませんね。ただ、老齢になると賃貸が借りにくくなるということは、今後は少なくなってくるでしょう。全国の空き家率が上昇しますから、家主は年齢問わず借りてくれる人に貸すしかなくなると思いますよ。
よしどめ:都心でも空き家率は上昇しているんですか?
田中:都内で一番空き家率が高いのはどこか知っていますか? 実は池袋で、15.8%なんです。ちなみに日本全国の空き家率は13.5%です。
よしどめ:えー! 池袋は大学もあるし、都会のイメージがあるのに空き家が多いんですね。
中古マンションへの不安が拭えない
田中:これは全国的な傾向で、2030年までには空き家率は30%を超えるとも言われています。要するに、家が余る時代なんです。
よしどめ:じゃあ、借りられないという心配はなさそうですね。でも、不動産サイトを見ていると築30年とか40年の物件がきれいにリノベーションされて、3,000万や5,000万円で売られているんですが、今後家が余ってくるのに、今そんな値付けをして……売れるんでしょうか?
田中:それが今のところ、どんどん売れているんです。特に都心7区(中央区、千代田区、港区、新宿区、渋谷区、目黒区、品川区)のヴィンテージマンションは、高額がつけられていますね。今後立地によって不動産価格の差が開いていくので、価格が下がりにくいと考えられている立地で管理のよい物件は人気が高いのです。
よしどめ:でも、港区の「広尾ガーデンヒルズ」のようなブランドマンションでなくても、よいお値段がついていますよね。本当にその価値があるのでしょうか……。実は築40年のリノベーションマンションに住んでいる知り合いが雨漏りでひどい目に遭っていて、築古の物件に対する不安があるんです。中古マンションにリスクはないんでしょうか?
田中:それはマンションが建てられた時代や、建て方によります。分かりやすい指標が「新耐震基準」に準拠しているかどうか。1981年6月1日以降に建築確認申請を出したものなら全て、現在の建築基準に準拠しているのですが、それ以前のものだと耐震性に問題がある物件もあるので、特に気をつけて欲しいですね。
よしどめ:知り合いのケースを見ているので、中古マンションを買う前は専門家に見てもらいたいです。
田中:本当にケースバイケースで、新耐震基準以前でも堅牢な建物もありますが、それは実際に建物を見たり、設計図を取り寄せてみたりしないとわからないのです。ホームインスペクション(住宅診断)は数万円でできますから、心配を感じたときは利用してみてください。契約前にホームインスペクションを利用すれば、事前に雨漏りや給排水管からの漏水などもチェックできる場合が多々あります。ちなみに、私たちさくら事務所は、ホームインスペクションの草分けでもあります。お知り合いのような欠陥住宅の購入を避けるため、仲介会社でも売主でもない第三者の目線で、住宅を診断する必要を長年訴えてきているのです。
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築古のリノベーションマンションは、新築にはないオリジナリティあふれる内装や値ごろ感が人気です。とはいえ住宅は一世一代の買い物。つくりの悪い中古物件をつかんでしまったら後悔してもしきれません。
一方で新築は値下がり幅が激しいので、価格がこなれてから買いたいのも本音。ホームインスペクション(住宅診断)を使えば、最終判断に自信が持てそうですが、金銭的にも全ての購入候補を診断してもらうことは現実的ではありません。結局自身の見る目を磨く必要があるのです。
次回以降、「家を買い隊」のメンバーたちが実際の内見を体験しながら、住宅の選択眼をやしなっていきます。
(蜂谷智子)