饒舌な子宮いわく、一番の美容法は「誰でもいいからセックスして、マジイキ」…雑すぎる“メソッド”を広める罪!
この秋ますますアツい〈子宮系女子〉たちの新刊レビュー、後編をお届けします。
▼前篇:自立を謳いながら「女の幸せ=結婚」に縛られつづける子宮系女子の不自由
〈子宮の声〉に耳をかたむけ魂の欲求と本当の自分を知り、性愛のタブーを超えることで愛される幸せ女子になるという子宮哲学(妄想?)。それを精力的に広めた第一人者といえば、子宮委員長はる氏です。子宮系女子のカリスマ尊師がこの秋出版した子宮本第3弾は、『美人は子宮でつくられる』(大和書房)。
同書は毎度おなじみの〈子宮ポエム〉を美容ネタ寄りにまとめ、編集とライターの力でこぎれいなテイストで再構築したという印象です。子宮委員長が以前より拡散していた〈子宮メソッド〉に登場する〈カルマ粒〉などのスピ風味の造語は封印され、〈感情美容〉など、耳触りのいい言葉が多用されているのが特徴でしょう。しかし、どれだけオブラートに包もうとしても、中身はやはりゲスの極み女王。せっかくおきれいな言葉で書き出しても、着地点が〈ただの自己中〉。子宮の声に従って好き勝手にふるまうことが、女を美しく輝かせる! という従来の主張と変わっていません。
第1作目『子宮委員長はるの子宮委員会』(KADOKAWA/中経出版)と異なる一番大きな点は、プロフィールに風俗嬢であった経緯が明記されていることでしょう。さすがにさんざんゲスっぷりをブログアピールしておいて、書籍になったとたんしれっと〈性愛アドバイザー〉という説明だけでは、やはり世の中が納得しなかったのでありましょうか。
元ソープ嬢アピを突然復活
今回のプロフィールの一部だけでも濃厚さが伝わるかと思いますので、一部を抜粋して、次にご紹介しましょう。
性への好奇心から風俗の世界に興味を持ち、専門学校・会社員時代を通して風俗で働く。(中略)家族公認のもと、複数の愛人や風俗のお客様に支えられながら、性に関する活動を全国各地で開催。子宮の声にしたがって、父親不明の赤ちゃんを妊娠。達成感に包まれて風俗を引退後、子どもと血のつながらない男性と入籍し、出産。現在は1児の母であり、2人目の赤ちゃんを妊娠中。
子宮委員長の饒舌な子宮に新たな命が宿ったことで、商売道具の〈子宮メソッド〉は次のステージへ発展しそうな気配が漂っておりますが、これは引き続きウオッチングすることにして、話を書籍に戻しましょう。
さて、子宮系女子の考える美人の作り方とは? 「感じることで美しくなる『感情美容』のススメ」という項目では、〈厚塗りして老けて見えることに気づいていないタイプの人は、自分の感情に蓋をしている恐れがあります〉と解説。心理学でもおなじみの説明ですよね。
くやしい!とか、みじめ!とかシンプルな感情を「味わいきる」ことをしないで無理やり自分を鼓舞して前に進もうとするのは感情を隠しているのと一緒。自然とお化粧も自身を隠すものとなり、厚塗りになる傾向があるそうです。と、出だしはそこそこ無難にまとめられているのですが、子宮委員長節の実例が出てくると、その浅さにズッコケ必須です。
〈罪悪感を感じたときこそ、子宮の声を聞くチャンス〉という見出しに続く本文では、こんな活用法が紹介されています。
上司から残業を頼まれたけど、飲みの先約があったので断ってダッシュ→でもそこで翌日上司に謝罪するのはNG→その時間が心から楽しめないし、罪悪感が芽生えたということは、子宮から本音が飛び出してきたとき! 「残業やってる場合じゃない。だって飲みに行きたい~」そういう想いこそが、子宮の声。
なんだそうです。突然の残業を断って前もって予定していた飲み会へ行くこと自体はどうでもいいですが、それって「本音・本望・魂の欲求」ってレベルの話!? 単なる幼稚なワガママとどう違うのかを、しっかり解説していただきたい。せめて、もう一歩踏み込んだ心理分析や活用例をお願いします……。それで自分と向き合って、内面から輝く! と言われてもなあ。
雑すぎるセックス&オーガズム史上論
さらに〈子宮の声が妊娠したがっていたから、風俗業なのに避妊せず妊娠〉という子宮に全くやさしくないプロフィール同様、相変わらずの乱暴な提案もご健在です。
「セックスは美人を作る極上のエステ」という項目では、ご自身がセックスすると美容効果を実感できるという理由から〈セックス=美活である〉と設定。子宮にとってセックスの相手は誰でもよく、〈どれだけ自分を気持ちよくさせるものを持っているか〉が重要課題とされています。人類の子宮が、ビッチ設定であったとは驚き。でも、そういう見方に変えることで、心が傷ついたがためにセックスから遠ざかっている人も、楽になるかも! という子宮委員長なりの優しさみたいです。
子宮系女子の世界では、「セックスが嫌いです」「快楽に興味がありません」という子宮の声は、存在しないようです。巷には、ココロが傷ついた過去などの特別な理由がなく、なんとなくセックスに興味を持てない女子だっていると思うんですけど(ところが子宮系女子的にはそれは本当の気持ちよさや魂の欲求を知らないから! ってなるんでしょうね。堂々巡り)。前編でご紹介した子宮系女子みっち氏同様〈女は愛し愛されてなんぼ〉という不自由な価値観に縛られているのがよくわかります。
ちなみに同書で最もゲス度が高かったのは、子宮委員長の風俗嬢時代のサービス内容でしょう。せっかくおきれいにまとめようとしている企画が、一気に台無し。子宮委員長らしさが失われていなくていいよねという見方もできますが。セックスで開運して幸せになる秘訣は、とことんオーガズムを感じること。子宮としては気持ちよくなることが最重要でイクこと以外はどうでもいいそうです。
風俗嬢時代は自分がオーガズムを得られるオナニーのスタイルをセックスに持ち込み、イケるように男性にサポートしてもらうという「マジイキサービス」を実施していたと語ります。
またも雑な、風俗サービス史上論
確かにセックスは相手まかせでなく、自分の気持ちよくなるコツを自分で把握しておくことは大切ですが、風俗で行われるのは「サービス」であることが大前提であり、プライベートなセックスとは基本的に別モノでしょう。風俗嬢時代のサービス内容を公開されても、なかなかお手本にしにくいものがあります。
子宮はいつでも自分の「快」を求めるもの。それに忠実に行動したら、自分もセックスでマジイキできるようになり、相手の男性もすごく気持ちよくイケるようになった。自分も周りもハッピーになったのです。
とありますが、それはすごく個人的な話で、伝授しまっせ! というレベルのお話ではないのでブログでやっていてほしいレベル。
〈子宮を特別なレディのように大切に扱う〉といいながら、セックスはエステやエクササイズくらいのカジュアルなものとしてとらえてOK。精神的に子宮を崇めても、やっていることが真逆ですので物理的に子宮の健康に悪いわ~。ラストでは、
もともと持っている、キラキラ輝くあなたらしい美しさを必ず取り戻すことができるのです。
とまとめられておりますが、キラキラというより、完全にギラギラ系魔女に変身するでしょう。子宮系女子たちの憧れを集める子宮委員長ですから、それでいいのだ! なんでしょうけど。新刊もやはり、一般女子には全く適用できない子宮活用術でありました。
子宮委員長の夫も処女作を出版
実はとっくに子宮委員長の夫・岡田氏の著書も発売されている予定だったのですが、こちらは延期という憂き目を見た模様です。「まだ発売時期じゃない……!」な~んてお告げが妻の子宮から届いたのかと思っていたら、岡田氏のブログによると「ライター降板」との事情があったようです。作業が遅れていることを詫びながらも、「まったくこの原稿が書けない」とサジを投げた担当ライターからのメールがさらされておりました。
仕事を途中で放棄すること自体は褒められた話ではありませんが、同業者として、心底同情してしまうかも。子宮系女子(とその周辺)たちのお説読んでいると、本当に本当に意味が分かりませんから。考え方や価値観が理解できないという次元ではなく、まずは日本語として解読難解。これを商業的な文章に再構築するのは、さぞかしご苦労でしょう。途中までとはいえ、心底お疲れ様でございました。※という原稿を書いているまさに今、Amazonより出荷されたようですので次回、追ってご報告いたします。
ほっこり系の子宮本も続々と出版
伝統療法の世界でも、子宮系女子が存在していました。タイの伝統療法〈チネイザン〉と出会い、生殖器に特化したケア(ディープチネイザン)を学び、そこから〈おひさま子宮メソッド〉を考案したという子宮セラピスト井上清子氏です。
今年6月に発行された『おひさま子宮のまほう』(ワニブックス)のサブタイトルは「カラダの中から免疫力を高め、女性の不調を癒す」です。〈免疫力〉という言葉が、まずはトンデモ系ビジネスの常套句。そろそろほかの言い方、出ないのかな。
同書は子宮のあたたかなエネルギーに気づくと、生理痛、不妊、更年期、冷え症、肌あれ、イライラなどの不調から解放される。子宮は幸せがあふれ出てくる〈まほうの力〉を備えていると解説。出たよお、子宮万能説。ほっこりしつつも〈女性器を大切にすれば、ココロを体を大切にすることにつながる〉という思想はギラギラ系の子宮系女子たちと同様です。子宮が過去の出来事や感情を記憶しているという〈メモリー装置〉であるという解説は、子宮委員長でいうところの子宮にたまる〈カルマ粒〉でしょう。
おひさま子宮体操は、膣トレと瞑想を合体させたような印象で、これまたどこにでもありそうなもの。「ジューシー子宮」「干し柿子宮」という造語を使っている点は印象的でしたが、内容が薄い分インパクトあるオリジナルの子宮用語で飾るのも子宮系女子の特徴かもしれません。
スピ方面では、子宮は精子を取り込むのが最大のミッションであるから、チャンスが来たときによい物を取り込む「磁石のような引き寄せ力」を備えていると解説。これは生殖のチャンスだけでなく、健康・仕事・恋愛・結婚・夢でも発揮されるのだとか。それを言ったら体に必要な栄養を取りこむ胃袋はどうなるんでしょう。その証拠に! と言わんばかりに「おひさま子宮メソッドを取り入れた方からは「彼氏ができました」「結婚することになりました」「赤ちゃんをさずかりました」「長年の夢がかないました」という報告をもらった」とあります。パワーストーンの広告かよ!
子宮を大事にする方法は、見て触ってマッサージして感謝の気持ちを届けること。これ、もう本当に聞き飽きたので、どなたか新たな子宮メソッドを開発してください。ちなみに、おひさま子宮においても、当然のように布ナプが推されます。同書巻末で紹介されている「満月の日に摘んだ枇杷の葉で染めたオーガニックコットンの布ナプキン」という白魔女めいた商品は、Lサイズ4800円(税抜)。お高い生理用ナプキンであります。
なぜ子宮本が出版されるのか?
そのほか、当連載で過去にご紹介した子宮擬人化ワークがお得意な、黒川彩子氏の初著書『子宮がおしえてくれる人生を彩るヒミツ~ココロとカラダの対話レッスン』(ギャラクシーブックス)は今年の夏にお目見え。
この子宮系女子は、その少し前に「子宮の学校」なる講座もスタートさせています。この手の講座報告を見ていると、参加者の顔がバッチリ掲載されているのがとても心配です。もちろん許可は得ているのでしょうが、後でヤバいものに載せられてしまった……! とお困りの方が出てきそうです。
小林麻耶に接近したことで、今年一気に有名になった子宮系女子たち。広く浅く注目が集まると困ることでもあるのか、一部では高額セッションやイベントを中止するなどの動きがあるようです。そんな動きを見ても明らかに怪しく、しかも個々の主張は今回の書籍を見ても特別女性のためになるとは思えません。子宮系女子本を出す出版社って勇気あるよな‼ というのが、今回の一番大きな感想です。ダイソンの掃除機のごとく〈子宮の引き寄せ力〉とやらに、吸引されたのですね。きっと。
(謎物件ウォッチャー・山田ノジル)