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男性向けグラビアvs女性向けグラビアの“差異”とは? Fカップ美乳【山地まり】男女のエロを徹底考察!

――グラビアといえば男性だけのものだった時代はとうに過ぎ去り、最近では女性誌での「女性向け」エログラビアを見かけることも珍しくなくなった。そこで、グラビアでも大活躍中の山地まりちゃんに、それぞれのグラビアを演じ分けていただいた!

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(写真/角田修一)

 グラビアにおけるエロティシズムといえば、男性向け雑誌のグラビアが思い出されるが、最近では雑誌「an・an」(マガジンハウス)の「セックス特集」に見られるような“女性向けグラビア”も珍しいものではなくなってきた。そこで本企画では、グラビアの世界で大活躍中の山地まりちゃんに、前半では「男性向けグラビア」を、後半では「女性向けグラビア」を演じ分けてもらいました。

 まずは、まりちゃんにとっては“主戦場”である男性向けグラビアから。

「男性向けのグラビアは、いろいろ妄想するためのものですよね。1枚の写真で終わるものではなくて、その先にあるストーリーを楽しんでるのでは」

 そういった男性の妄想をかき立てるため、撮影される際に努力していることはありますか?

「いい表情を作ろうと頑張っても、出来上がったグラビアを見ると『実際はこんな表情をしてたんだ?』ということも多い。結局、一生懸命表情を作るより、カメラマンさんや編集さんに任せて指示通りに動いたほうが、リラックスできていいのかもしれないですね。ほら、男性って“スキ”がある表情が好きじゃないですか。受け身なくらいで撮影したほうが、“スキ”が出て妄想しやすい写真になるのかなって」

 男性向けのグラビアでは、バストやヒップといった体のパーツを強調したポーズも多いけど、大変そうですよね。

「無理な体勢のポーズも多いから、撮影後の筋肉痛は“グラドルあるある”だと思います。あと、男性向けグラビアだと、毛穴や鳥肌も修正せずにバッチリ写ったまま掲載されることも多い。女性としては恥ずかしいけど、男性の皆さんは、そこがいいんですよね」

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(写真/角田修一)

 一方「an・an」など女性誌のグラビアでは、全体的にオシャレな雰囲気に包まれています。

「男性は女性のボディ中心に見ていると思うんですけど、女性はページ全体を見ているんですよ。『水着もかわいいしメイクもかわいいし、アクセサリーも可愛いし』って、いろんなところを楽しんでるんです」

 そんななかにじみ出てくる、女性向けのエロティシズムってどんなもの?

「男性向けグラビアでやるとちょっと過激すぎるようなポーズでも、女性誌の“オシャカワ”な雰囲気で撮ると、そんなにいやらしくないから、意外といけちゃったりするんですよね。だから、実は女性向けグラビアのほうが、すごくナマナマしい気がします」

 確かに女性誌のグラビアでは、「人気アイドルがいきなり手ブラ!」なんてこともありますね。

「女性向けグラビアのエロスって、女性が憧れるエロスなんだと思うんです。『こういう体形になりたいな』っていう気持ちもあるし、『今度カレにこんな姿を見せてみようかな』みたいなことを考えている人も多いと思います。女性はたぶん、自分を投影しながらグラビアを見ているんですよね」

 男性向け、女性向けを問わず、グラビアを見るのが大好きだと語るまりちゃん。モデルさんの体のどのへんに目が行きますか?

「肌と体の曲線、太ももの隙間とかですね。あと個人的には、“ジュワッ”としている女性にはエロスを感じます。潤いというか質感というか。肌でも唇でも、保湿するだけで女性は結構エロくなりますよ」

 ちなみに、グラビアで多くの男性たちを魅了するテクニックは、リアルな生活のモテにはつながってますか?

「それが全然モテないんですよ! グラビアって過酷な撮影も多いし、カメラマンさんの要求にいかに応えるかっていう戦いでもありますし、仕上がりの写真はエロくても、現場はまったくエロくない。プライベートには役立たないんです。たぶん女性向けグラビアなら、ずっと『かわいいね、かわいいね』って言われ続けて撮影するから、そっちのほうがモテるのかも(笑)」

 被写体として男性向けグラビアを頑張ったからといって、男性にモテるわけではないというこの矛盾。うーむ、グラビアのエロティシズムって難しいですね!

(スタイリング/丸本達彦)
(ヘア・メイク/MEGURO)
(文/相羽 真)

山地まり(やまち・まり)
1994年6月25日、東京都生まれ。12年、「週刊プレイボーイ」(集英社)巻頭グラビアにてデビュー。翌年4月にドラマ『35歳の高校生』(日本テレビ系)で女優デビュー。以降、雑誌グラビアやドラマ、映画、バラエティ等で活躍。現在、MBSラジオ『オレたちゴチャ・まぜっ!~集まれヤンヤン~』9期生レギュラーとして出演中。また出演映画『咲~saki~』DVD&Blu-rayがVAPより絶賛発売中!

[衣装協力]水着(2万7000円)/LENNY NIEMEYER(fruits de mer) [連絡先]fruits de mer/0467-22-2277

都ファ躍進で表面化――安倍VS麻生、決裂!?自民党内権力抗争

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圧勝で満面の笑みを見せているだろう、小池百合子都知事。イベントで見せたのは、トレードカラーの緑ではなくて、赤。

 加計学園問題など、安倍政権のスキャンダルに世の不信感が集中するなかで行われた東京都議選。結果は小池百合子氏が率いる「都民ファースト」の圧勝で幕を閉じた。しかし、その評価は正しいのか? 数々の政府系プロジェクトに参画している、経営コンサルタント・クロサカタツヤ氏が、ムードや風に流されやすい日本の政治の実態、また都議選の裏で起きていた権力の暗闘について語る!

 都議選前、ネットを中心に論陣を敷く論客たち(以下、ネット論壇)は、小池都政や都民ファーストに批判的、もしくは「敗北する」という論理を展開していました。僕個人の印象としては、彼らの論理はある意味ではとても“自由”で“合理的”。「候補者は政策で選ぶべき」「豊洲は残すべきではない」などとても科学的で、正しいと感じざるを得ない主張が少なくありませんでした。しかし同時に僕は、「それらの主張の正しさは、都民の投票行動を促す力にはならない」とも感じていました。都議選が終わった今、改めてそれを言い出すのは“後出し”ですが、結果的に「都ファが勝つ」という当初の予想が的中した形になったのです。

 日本では経済的な豊かさのおかげで、政治にある程度無関心でも生きていける社会が長らく続いてきました。そのため、国民、もしくは都民の「どのような政治家に投票すべきか判断する能力」は、残念ながら洗練されていない現実があります。

 今回、政治に対して意識が高い人たちと、都民のマジョリティ間にある、ある種の断絶が露呈しましたが『基礎票の固さ+その時のノリで趨勢が決まる』日本の政治の実態もあらためて浮き彫りにされました。選挙前、いかに生産的な議論があっても、あくまで議論の域を出ない。支持基盤のしっかりした政治家と“ポピュリズムを煽る”政治家によって起きた風で、結果は見えてしまう。そして今回、その風が小池都知事だったのでしょう。それは、ドナルド・トランプ大統領が勝利を収めた、米大統領選の構図に近いものがありそうです。

 ただし、有権者側の判断能力が低いのかと言うと、一概にそうとも言い切れません。政治の裏舞台は常に見えにくいもの、投票者の大半が真実に触れられないまま投票を余儀なくされる構造があるのもまた事実です。

 例えば、加計問題などさまざまなスキャンダルに揺れる政権内部には今、どのような権力争いやパワーバランスが働いているのか。少し掘り下げてみましょう。

 ここ20年ほど、日本の政権内部ではプライマリーバランス(財政規律)に対してどの立場を取るか、という対立が続いてきました。言い換えれば、国の借金ゼロを目指すのか、もしくは借金=財政出動して景気浮揚策を取るかという、財政政策面における主導権争いが存在します。

 第二次安倍政権によるアベノミクスは、世の中にどんどんお金を回していこうというスタンスに基づいています。当然、国の借金は増えていく。そのため、財政規律を重視する派とは対立する構図があります。

 そんなプライマリーバランスをめぐる政権内部の対立は、今年はじめから徐々に表面化していました。閣内で言えば、安倍首相の出身派閥と麻生財務相の派閥の対立です。麻生氏は財政規律を守るべしとする財務省を背負っていて、安倍政権の経済政策には必ずしも賛同していません。

 そんな財務省が実現を目指すのが、消費税の増税です。国の借金を減らすには歳出の削減、または歳入の増加、つまり増税が近道。しかし安倍首相は、自らの政権が経済政策によって支持されていることをわかっています。財務省が「いい加減、手をつけてほしい」とイライラしても、相容れることはできません。一方で増税は、国民からの反発が必至なので、人気のある政権でないと実現が困難です。そこで増税を目指す人々が、安倍政権の人気を利用しつつ、財政規律を守る方向に舵を切らせようと、画策してきたのではないか。

 こうした仮定を置いてみると、麻生派が安倍政権をコントロールするためには、どのような方法がもっとも効果的でしょうか。おそらくもっとも手っ取り早いのは、現政権中枢を支える人物を辞めさせ、自分たちの影響力が及ぶ人物を送り込み、すげ替えてしまうことでしょう。そこで標的となりそうなのが、菅義偉官房長官です。菅氏は、自民党内であえて味方をつくらないことで安倍首相への忠誠心を示しつつ、一方で官僚の人事権を掌握することで、自身の権力基盤を確保してきました。

 そんな菅氏に対して、加計学園問題での告発で目下、注目が集まる前川喜平氏など一部の官僚たちはやりづらさを感じていたはず。財務規律を守らせたい人たちは、そんな彼らを焚きつけ、菅氏と対立させる構図を作ろうとしたのかもしれない。一連のスキャンダルの背景には、そのような権力争いが作用している気がしてなりません。

 おそらく、今後の日本の政治は、安倍首相が残された政治余生で「何をしたいか」で、大きく変わってくると思います。憲法改正なのか、経済なのか、はたまた他のことなのか。仮に憲法改正だとすれば、麻生氏らはそれを手伝う代償として、財政規律を是正するよう重圧をかけるようにも思えます。ただ、財政規律を是正する方向に舵をきれば、日本経済へのダメージは大きそうです。そして経済がダメになれば、政権の支持率がガタ落ちになるのは、目に見えています。安倍首相としては、何を優先するか判断に迫られるはずですが、経済を犠牲にしてまで憲法改正に固執するならば、それは国民に対する裏切りに近い。改憲も日本にとっては重要ですが、今はその時ではない。個人的には、安倍首相が経済政策を優先すると信じたいです。

 話を都議選に戻しましょう。当時、政権内部で主導権争いがあったとして、都民はそれを知る由もなかったはずです。結果、「小池都知事は何かやってくれそうだ」というような表面的な情報から、都「ファ圧勝」という結果に終わりました。都民ファーストで当選した候補は、多くが初当選【1】。政策を評価されうる経歴も見当たりません。正直、有権者が何を持って投票したかという理由もいささか疑問が残るところです。

 ただし、専門家でもない有権者が、四六時中、政治に関心を持つことはおそらく不可能でしょう。重要なのは、それが日本の政治の現実であると認めることです。そして自分の生活に密接かつ重要に結びついた「これだけは譲れない」というテーマを絞って、候補者について良く調べてみるべきでしょう。育児なのか、介護なのか、雇用なのか。候補者の過去をさかのぼれば、その人物に一貫性があるか否か、知ることができるはずです。ただ支持した候補者が当選したとしても、政策が実現しない場合もあります。それでも、思いを託せる候補に愚直に投票し続ける。それが、有権者に唯一できることではないでしょうか。

(構成=河 鐘基)

【1】都民ファーストで当選した候補は、多くが初当選
今回、都民ファーストから出馬した候補者は、小池百合子知事が開いた政治塾「小池百合子政経塾 希望の塾 (小池塾)」の出身者が多数。同塾では、都議選対策講座なるものが開講されていた。今回の結果に対しては、さすがに多くの有権者が「いつか来た道」だと感じていそうだ。

“スタイルブック”とはなんぞや!? 女性タレントが群がる金脈ビジネス

――世の中には、男性がなかなか手に取らないジャンルの本がある。BL(ボーイズラブ)にTL(ティーンズラブ)、イケメン写真集、婦人科系——その種類はさまざまだが、本稿では「スタイルブック」に焦点を当ててみたい。

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『RIKA』(角川春樹事務所)

「スタイルブックとはもともと、着装を紹介する書籍や雑誌のことを指します。日本でも戦前からこの呼び方は見られます。ただ、そうした本に掲載されているのはスタイル画も写真もありましたので、当時から明確な定義はありません」と、ファッションの歴史に詳しい武庫川女子大学の井上雅人氏は説明する。

 2017年の現在でもスタイルブックの定義は明確にはないが、ざっくり言えば、モデルや女優、女性アーティストが、自身のファッションやメイク術、美容法、ライフスタイルを、写真中心で紹介する本だ。

 出版業界のひとつの水脈として存在してきたこのジャンルが、近年飽和状態になっているのも、男性諸氏にはあまり知られていないだろう。

「スタイルブックの火付け役は梨花です。彼女が出した『Love myself 梨花』(09年/宝島社)がヒットして、同性人気が高い女性のスタイルブックが売れることを出版社が理解した。その後、平子理沙や風間ゆみえなど、『GLAMOROUS』(講談社)や『SWEET』(宝島社)のような女性誌のモデルやスタイリストが続々とスタイルブックを刊行し、ある程度出揃ったら、さらに下の年齢層の『non-no』(集英社)や『Popteen』(角川春樹事務所)のモデルが出し……と、年齢層と裾野がどんどん広がっていきました。結果、今はインスタグラマーや“インフルエンサー” 、“ブランドプロデューサー” といった肩書の、モデルでもなんでもない人までスタイルブックを刊行するに至っています」(スタイルブック編集経験者)

 編集者がそう語るように、今年に入ってからだけでもダレノガレ明美『MY STYLE』(マガジンハウス)、emma『ビジュアルスタイルブック「emma」』(SDP)、田中彩子『AYAKO’s My Style』(ワニブックス)、バンドじゃないもん!『バンもん!スタイルブック』(主婦の友社)、ゆうこす『モテるために生きている!』(ぶんか社)等々、月数冊のペースでスタイルブックに分類される書籍が刊行されている。ダレノガレ明美はともかく、emmaや田中彩子の名前にはピンとこない男性読者も多いだろう。前者は「装苑」(文化出版局)、「NYLON JAPAN」(トランスメディア)で人気を集め、14年から「ViVi」(講談社)専属となったモデル。後者はフォロワーが9万人を超えるインスタグラマーで、「CLASSY」(光文社)で活躍するママ読モでもある人物だ。なお、バンドじゃないもん!はアイドルグループ、“ゆうこす”は現在“インフルエンサー”“モテクリエイター”の肩書で活動する、元HKT48の菅本裕子。確かに、モデルを本業とする人以外の進出が甚だしい。

 こうした状況が生まれている理由のひとつとして、女性誌の編集者はこう語る。

「人気のモデルは、基本的にどこかの雑誌の専属になっている場合がほとんど。専属の子がほかの版元からスタイルブックを出すことはなかなかないので、ファッション誌を持っていない出版社は、モデル以外で女子人気のありそうな人をつかまえてこないといけないわけです。そうすると、YouTuberやインスタグラマーなどの青田買いが始まります。スタイルブックはある程度構成や内容が決まっていて、似通った内容になりがち。特に人気モデルでもなければ編集側がイニシアチブを取って制作できるのも利点です」

 実際にスタイルブックを開いてみると、大雑把にはオシャレ下着や水着のグラビア、私服コーディネート、メイク&美容紹介、お部屋公開、ロングインタビュー、Q&Aあたりが定番企画の様子。制作にかかる費用は「タレントにもよるが、印税抜きで100~200万円程度。連載をまとめたり、インスタからの転載が多ければ印刷費を除いて60~70万円程度で済ませることもあります」(前出・編集者)という。

「取り上げる洋服やメイク用品などにタイアップがつくこともありますが、露骨なものは少ないですね。あとは、海外ロケがある場合に航空会社やホテルのタイアップが入るくらいです。ロケ地はニューヨークやロサンゼルス、ロンドンなどの“オシャレ感”が強い街か、女性人気の高いハワイあたりが定番ですね。サイパンや韓国、台湾のような近場の安いところだと、事務所に対して申し訳が立たない感じもするので……」(前出・女性誌編集者)

 “オシャレ感”というワードが出たところで、改めてこうしたスタイルブックを買う人が何を求めているかを考えてみたい。

「男性に媚びた感じのないおしゃれな女性が出していることから、その人たちの着こなし術や私生活を知りたい! というのが前提ですね。なので、『この人の本とあの人の本、ほとんど同じ構成じゃないか!』といって怒る人はあまりいないと思います。ただ、インスタグラムで人気の女性の場合、インスタからの転載が多いとアマゾンレビューなどで低評価をつけられがちですね。撮り下ろしの分量には敏感だと思います。あと、アーティスティックなページが多すぎると、タレントの自己満足のための本と捉えて怒る読者も。タレントサイドが主導権を握っている場合、こうした事態が起きやすいです。タレントも読者も満足のいくバランスを取ることが大事になってきます」(同)

 近年は梨花のようなヒット本は出ていないというが、今回話を聞いた編集者たちが口を揃えて褒めるのが泉里香の『RIKA』(角川春樹事務所/16年4月刊)だ。「すごく丁寧にできている」「男性ファンも取り込む内容」と、評価が高かった。書籍は、ビスチェ姿で床に寝転がるモノクロ写真からスタート。オシャレさもありつつ、胸がしっかり強調されている。その後のグラビアも、一見可愛らしいワンピース姿を披露しながら、連続ショットの中で横乳だけ写した1枚が混ざっていたり、「ボディメイク」と題した章では男性誌と見紛うようなグラビアが続いたりと、男性向けの要素も多い。実は泉里香がここまでの露出度に挑戦したのは本書が初であり、「モグラ女子」ブームの牽引役としての現在に至るまでの活躍はここから始まったといえるようだ。

「スタイルブックを買うのは、『その人のセンスを買う』という意味合いが強いと思います。だから作る場合には、憧れ8割・親近感2割くらいの見せ方ができると理想的。よほどのことがない限り重版はかからないジャンルですが、親近感が増すような内容であればあるほど、地味に売れ続けるんです。泉里香さんのスタイルブックも、スタイル維持のコツや、仕事が全然なくて苦労した時代の話などを語っているのが高評価の理由だと思います」(前出・編集者)

 とはいえ、門外漢からすれば、インスタグラマーのスタイルブックを読んでも「無名の人の私生活を語られましても」と思ってしまうのが正直なところ。やはりインスタで人気のインフルエンサー・Marikoが出した『mariko_0808 FASHION STYLE BOOK』の質問コーナーでは「Marikoさんはモデル?」という質問が寄せられており、「なんだと思って見ていたんだ?」と、ついズッコケてしまう。むろん、スタイルブックはファンに向けて作られているものなので、そうでない人が読んで鼻白むのはお門違い。だが、さすがにこれだけスタイルブックが乱発されていると、今後は本当に「誰が読むんだ?」という本も生まれてくることになるはずだ。

「インスタで1万人以上のフォロワーがいる女性は、同性の間では知られている感じがあるので、むしろそのフォロワーの中から金の卵を探しています。そうしたインフルエンサーをフォローしている子たちも、美意識が高くてオシャレに敏感な子が多いので。ただ、ステマアカウントもすごく多いので、気が滅入る作業ですが……」(スタイルブック編集者)

 まかり間違って、ステマアカウントの運営者がスタイルブックを出してしまう日も来るのかもしれない。

(文/斎藤 岬)

ブラック企業で働くと、なぜ「死ぬくらいなら会社を辞める」ができなくなるのか

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『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由』(あさ出版)

 昨年発覚した電通の新入社員の過労死事件により、過労や長時間労働の暗部があらためてクローズアップされた。日本では過労死が年々増加傾向にあり、厚生労働省によると2015年に過労死・過労自殺した人の数は482人に上るという。一方で、こうした事件が明るみになるたびに、しばしば聞かれるのが、「死ぬくらいなら、会社辞めればいいのに」という声だ。

 なぜ、過労自殺をする人は、会社を辞める、仕事を辞めることを選択しないのか。そのような意見に対する回答として、とあるマンガがTwitter上に投稿され、30万リツイートされ、話題になったのは記憶に新しい。筆者は、このマンガが『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由』として、単行本化されるにあたり、監修・執筆協力を務めたのだが、過労でうつにおちいる人の気持ちを非常にわかりやすく表現している1冊だ。


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 過労自殺をする人は、「会社を辞める、仕事を辞めることを選択しない」のではなく、判断力がなくなることによって、「選択できない」状態になるのである。

 心理学の有名な概念に「学習性無力感」と呼ばれるものがある。これは長期間、人間や動物がストレスを受け続けると、その状況から逃げ出そうとする努力すら行わなくなるという現象だ。よく引き合いに出されるのが、「サーカスの象」の例。サーカスの象は足首に紐をくくられ、地面にさした杭とつながれている。象は力が強いから、杭ごと引っこ抜いて逃げ出すことができる。

 しかし、サーカスの象はおとなしく、暴れたり逃げ出そうとしたりしない。サーカスの象は、小さいころから足に紐をくくられ杭につながれて育つわけで、小さい象の力では当然杭は抜けない。つまり、小さいうちに、「抵抗してもムダ」ということをインプットしてしまうため、大きくなれば簡単に杭を抜いて逃げることができるのに、小さいころの「ムダだ」という無力感を学習したことで、「逃げる」という発想がなくなってしまうのだ。


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 これは人間にも当てはまる。人生にはたくさんの選択肢が存在するが、ずっと杭につながれていた象が杭を抜いて逃げ出そうとしないように、人間も過度のストレスを受け続けると、逃げ出すという選択肢が見えなくなってしまうのだ。

 選択肢が見えていたとしても、「辞める」という決断ができない人もいる。「辞める」決断ができない人の話を聞いていると、その大きな理由のひとつに、「辞めた後の生活が想像つかない」というのがあがってくる。

 人は、新しい環境、つまり未知の世界に不安を抱く。学生のとき、「転校」や「進学」のタイミングで、たくさんの不安や心配が湧き上がってきたのと同じように、「辞める」決断をして、新たな環境を選んだとしても、その新たな環境が必ず「より良い環境」とは限らないわけだ。そんな決断をした先に不安があるからこそ、「辞める」という決断がしづらくなるのだ。


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 このように「辞める」選択肢が自分の中にあっても、不安があることで決断できずにいる人が、過度のストレスによりどんどん追いつめられ、選択肢があったことすらわからなくなり、「もう何もできないから、死ぬしかない」と考えてしまうこともあり得るわけだ。

 だが、もしも「辞める」勇気が出ないのなら、「まずは休んでみる」のも選択肢ではないだろうか。メンタルクリニックで、うつの診断テストを受けてみたり、話を聞いてもらったりしてみるのもひとつの方法だ。

 そして、休むことができたら、そのときに、新たな環境になりそうな職場について調べてみるといいだろう。たとえば、エージェントに登録してみるのもありだ。そして「あぁ、こんな職場なら、楽しいかも」「こんな仕事やってみたかった」と思うことができれば、「職場が変わることへの不安」も解消されるはずである。また休んでいるあいだに、会社が職務内容や環境を調整してくれて、その結果、今の職場で働きやすくなるケースもある。


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 環境を変えることで初めて気づくこと、見えてくるものがある。異動願いを出して運よく仕事を変わることができればいいのだが、そうした可能性が低そうだったり、そもそも会社そのものがブラックであったりする場合も少なくないだろう。そのようなときは「休む」や「辞める」の選択肢が見えているうちに、誰のためでもなく、自分自身のために行動をしてみてほしいと思う。

(文/精神科医・ゆうきゆう)
(画像はすべて、『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由』より)

今回の離婚で、男性人気は格段に上がったのではないだろうか――【小倉優子】は二度産む

人妻であろうとも2人目までは不安定、そんな仮説を補強。【小倉優子】は二度産むの画像1

 人妻であろうとも、子どもが3人できるまでは、恋愛対象になりうる――。

 恋多き哲学者ジャン=ポール・サルトルが、そんなことを言ったかどうかは知らないが、40代未婚の私がたどり着いた境地である。

 もちろん不倫を推奨しているわけではない。離婚・再婚が、焼肉でいうところの「牛角」並みにハードルが下がってきた現代。もはや好きな人や未練のある人が「結婚してしまった」ぐらいであれば、まだワンチャンあるかもしれない、と期待できるほどに、離婚が増えたように感じるのだ。

 かくいう私も、恋愛対象が「人妻子持ち」がデフォルトになりつつある。だからといって、相手の家庭を壊すという暴挙に出るつもりはない。ただひたすら、ひそかに待つのである。そして長年、私が人様の幸せを指をくわえて見てきた経験則で言うならば「小さい子どもが2人」という夫婦は、その絆の強さにおいて若干の不安定さを感じることが多い。要は離婚もありえるという話である。

 こんなことを言うと怒られそうだが、子どもが3人目ともなると、さすがにあきらめもつく。初めて、静かに身を引くことができるというものだ。ちなみに、子どもが1~2人だった場合でも、上の子が中学生になって何もなければ、あきらめたほうが良いということも付け加えておきたい。

 この「子どもが3人できるまで」の法則を立証してくれたのが、3月6日に離婚を発表した小倉優子である。発端は、2016年8月、「週刊文春」(文藝春秋)によって報じられた夫の不倫だ。折しも小倉優子が第2子を妊娠中というドンピシャなタイミング。これをみるだけでも、昨今の夫婦間では何が起こるかわかったものではないということがわかる。

 そして、今回の離婚で、小倉優子の男性人気は格段に上がったのではないだろうか。まず第一に夫の不倫が発覚後、すぐ離婚しなかったというところに好感がもてる。何に対しても「YES・NO」をハッキリと主張するアメリカナイズされた女性が増えてきている中、彼女の対応は、妊娠というエマージェンシーな状況において、とりあえずの問題は一旦先延ばしにしたいという日本人的な思考が見えてきて妙な親近感を覚えた。「ゆうこりんも普通の女の子なんだな」と。「こりん星人じゃなかったんだな」と。

 また、離婚後の心境を初めて語った日本テレビ『行列のできる法律相談所』のインタビューでは、世の中年独身男性たちをモヤモヤさせるパンチラインを放ちまくった。なんでも元夫は、2人の交際記念日が10日だったということもあり、毎月10日に花をプレゼントしてくれていたそうである。そのため「毎月10日になると、ちょっと寂しい気持ちになるかも」とのこと。

 これはもうあれだ。次に付き合う男は、9日に告白して「俺がその寂しさ消してやるよ」とか言って毎月9日に花をプレゼントするか、11日に告白して「俺がその寂しさ受け止めてやるよ」とか言って、毎月11日に花をプレゼントするとかすれば、イチコロではなかろうか。妄想は膨らむばかりである。

 極めつきは「今後再婚をするなら?」という質問に対する「ほかの人に対して浮かれた気持ちを持たない人」という回答だ。再婚に対してやる気まんまんなのである。普通、これだけヘビーな状況を経れば「しばらく結婚は……」とか「今は子どものためだけに……」とか言いそうなものであるが、ゆうこりんはめげない。その吉田照美も裸足で逃げ出すほどのやる気MANMAN! ぶりには、頼もしさすら感じられる。

 思えば 「子どもが3人できるまで」の法則に当てはめてみると、山口もえしかり紗栄子しかりである。そして、まだ離婚はしていないものの、グラドル全盛期に青春を謳歌した筆者としては、熊田曜子にも思わず期待してしまう。安田美沙子にいたっては、第1子を妊娠中なのに、すでに夫の不倫が発覚しているとのことなので、まだまだヒヨっこ。私に言わせれば“幼い”部類である。万が一、安田美沙子とそういう関係になりそうになった場合、勘違いしすぎて「あれ、淫行条例大丈夫だっけ?」と間違った野生の勘が働きそうなぐらいである。

 話がそれたが、ともあれ、これからの小倉優子の活躍ぶりには期待したいところである。現在は各メディアで離婚の真相や心境を語っている彼女ではあるが、私としては10年ほど前にハヤテのように現れて、ハヤテのように消えていったチェーン店「焼肉小倉優子」の詳細についても語っていただきたいと思っている。

西国分寺哀(にしこくぶんじ・あい)
元夫の不倫相手をほのかりんと勘違いしていた40代独身男性。「ゆうこりん」に「ほのかりん」で「りん」がつく人が好きなのかと思っていた。

ジャニーズが「女子アナとの交際禁止令」を発令した裏事情とは?

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小川彩佳 番組公式ブログより

 このところジャニーズと女子アナの熱愛が世間を騒がせている。

 Hey! Say! JUMPの伊野尾慧はTBSの宇垣美里アナ、フジテレビの三上真奈アナとの二股交際疑惑が発覚。関ジャニ∞・横山裕も日本テレビの水ト麻美アナとフリーアナ・田中みな実との三角関係が噂されている。さらには、国民的アイドル嵐までもが、二宮和也はフリーアナの伊藤綾子と、櫻井翔はテレビ朝日の小川彩佳アナと立て続けに交際報道が飛び出した。

 櫻井と小川アナには真剣交際のイメージがついているものの、多くはジャニーズのイメージダウンにつながっている模様。そのため、最近になってジャニーズ事務所から所属タレントたちに「女子アナとの交際禁止令」が発令されたという。スポーツ紙デスクが解説する。

「女子アナという肩書は女性からすればモデルやアイドル、CAより“格上”の、いわば勝ち組の象徴。女子アナとの交際は基本、女性ファンからは応援されません。逆にジャニーズのタレントたちからすれば、そういう才色兼備な女性と付き合うのはステータスとなり、ジャニーズ内でも一目置かれるといいます。また、ジャニーズ事務所としても、他の芸能プロに所属しているタレントなら圧力をかけて潰すこともできる。しかし、女子アナはあくまでも会社員で、テレビ局に守られている立場。それだけに万が一妊娠でもさせようものならコントロールが効かず、そのままデキ婚となりかねません。それを懸念して、ジャニーズ上層部は必死に『女子アナとは接触しないように』と注意喚起しているといいます」

 名前が挙がった女子アナの面々はいずれも妙齢なだけに、はたして「交際禁止令」を強行突破する人が現れるのか見物だ。

「NO DRUG, NO LIFE!」『ブレイキング・バッド』のようなドラッグ職人の末路

――犯罪大国アメリカにおいて、罪の内実を詳らかにする「トゥルー・クライム(実録犯罪物)」は人気コンテンツのひとつ。犯罪者の顔も声もばんばんメディアに登場し、裁判の一部始終すら報道され、人々はそれらをどう思ったか、井戸端会議で口端に上らせる。いったい何がそこまで関心を集めているのか? アメリカ在住のTVディレクターが、凄惨すぎる事件からおマヌケ事件まで、アメリカの茶の間を賑わせたトゥルー・クライムの中身から、彼の国のもうひとつの顔を案内する。

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 2000年代初頭、テネシー州マディソンヴィルは荒んでいた。中でもホワイト・トラッシュと呼ばれる低所得層の白人達が暮らすトレーラー・パークではドラッグが蔓延し、無法地帯と化していた。

 ジェリー・ライト(当時33歳)も、荒廃したトレーラー・パークの住人であった。だが彼は妻と子どものためにドラッグには手を出さず、毎月の家賃と生活費を稼ぐべくトラックドライバーとして真面目に働いていた。

「俺は、何よりも家族が第一優先なんだ」

 稼ぎは少なく、長期間家に帰ることもできない仕事であったが、働きもせず昼間からドラッグに入り浸る周囲の住人達とは違う生活を送っている。そう思うだけで、ジェリーは一家の主として誇りを感じていた。だが、そう思っていたのは彼だけだった。

 2003年6月、いつも通り長旅を終えて家に帰ると、そこに妻の姿はなかった。自分が仕事で家を空けている間、 母親のもとをたびたび訪れる妻の行動を知っていた彼は、特に気に留めなかった。ところが、この日友人から聞かされたのは、妻が近所の男と頻繁に密会しているという事実。自分が家族のために働いている間、妻はほかの男とよろしくやっていたのだ。妻の情事を知り、ジェリーは怒り狂った。勢いに任せて浮気相手のトレーラーに乗り込むが、真面目が取り柄のジェリーはボコボコにされてしまう。さらに、その姿を蔑むように妻は子供を連れて彼の元を去って行ってしまったのだ。

 この事件以降、ジェリーの生活は一変した。ショックのあまり、仕事もせずアルコールに頼る毎日を送り続け、それでも心の傷が癒えない彼は、友人から勧められたメタンフェタミン――通称クリスタル・メスに手を出してしまう。

家族思いの真面目な男、メス職人へ変貌

 暗い部屋で毎日のようにキメまくり、なくなればまた売人から買う。負のサイクルに陥った彼は、いつしか出口の見えないトレーラー・パークの住人そのものになっていた。だが、向上心だけは失わなかった彼は、いつもお世話になっている売人たちの羽振りの良さに、次第に心魅かれるようになる。

 そして、彼は地元でメスを密造するカリスマ職人に弟子入りを志願する。ジェリーの情熱に心を動かされた密造人は、必要な道具と材料を揃えさせ、一からメスのレシピを教えた。やがて、メスの密造方法を習得したジェリーは、師匠からありがたいアドバイスをもらう。

「信用できるパートナーを雇え」

 独り立ちしたジェリーはこの教えを守り、地元に住むアーロン・ブラッドリーという男をパートナーとして迎えた。自分のメス工房を作った彼は、パートナーと夜から朝方に掛けて毎日メスの密造に励み、少しずつ金を手に稼ぐようになる。やがてメス職人として軌道に乗ると、彼は調子に乗ってさらなるビジネスの拡大を目論み始める。その計画とは、工房をもうひとつ作ってアーロンと手分けして作ることでさらなる収益を得るというものだった。アーロンにはビジネスパートナーとして、メス作りに必要な材料と道具を投資し、成功したあかつきには極上のメスか大金を返してもらうという、ざっくりした契約を交わした。

 師匠からのアドバイスを無視して、再びひとりでメスを作るようになったジェリーは、少しずつ狂っていった。味見のつもりでメスをキメながら作業を続けていた彼は、周囲の密造人達が警察に摘発され始めたのを知り、疑心暗鬼に陥ったのだ。

 そこでジェリーは再び名案を思いついた。それは、警察の捜査を撹乱するために移動式の工房を作るということ。行動派の彼は新しく雇ったパートナーと共に、キャンピングカーを盗み、山奥へと場所を変えて新しい工房を作ったのだ。

 人里離れた山奥で新パートナーとメスを作り続けた彼には、大金が舞い込んだ。だが、増え続ける札束と比例して、使用するメスの量も増え続けた。彼は、密造したメスの半分を売りさばく一方で、半分をパートナーと楽しむのに当てるようになっていた。

 2004年3月5日、調子に乗った2人は家にも帰らず、20日間連続でメスを作り続けた。だが、あまりにもハイになりすぎて判断の利かなくなったパートナーは、重大なミスを犯す。材料のひとつである大量の赤リンを前にして、 タバコを吸うための火を付けたのだ。火は簡単に引火し、ジェリーの工房は大爆発を起こす。何とか生還したジェリーとパートナーであったが、すべてを失ってしまったのだ。

殺害手段はチョークスリーパー!?

 爆発事故によって、メスの密造ができなくなってしまったジェリーは途方に暮れていた。そこで以前アーロンに投資していたことを思い出した彼は、「今こそ恩返しをしてもらう」と彼に連絡をした。

 爆発から2日後、アーロンと約束をしたジェリーは、一発キメてから待ち合わせ場所の農場へと向かった。だが、時間に遅れて来たアーロンもハイな状態で現れ、ジェリーが期待していたような見返りは一切用意していなかった。アーロンがジェリーに渡したのは、売り物にもならない、出来損ないのメス。あまりにも恩知らずなアーロンに激高したジェリーは、掴みかかった。やがて、取っ組み合いの喧嘩へとエスカレートし、ジェリーはアーロンにヘッドロックをお見舞いする。アーロンはもちろん抵抗し、ジェリーの腕は彼の首元へと下がって行った。チョークスリーパーで力いっぱい締め上げると、アーロンはそのまま窒息死。予想もしていなかったアーロンの死に驚いたジェリーは、パニックに陥った。

 動かなくなったアーロンの体を林の中へと運び、穴を掘って埋め、その場を離れたジェリー。トレーラーに戻った後は、人を殺めた罪悪感と、逮捕への恐怖に駆られ、メスをキメずにはいられなかった。2週間後、抱えきれなくなった苦しみから、彼は妹にすべてを白状する。

 2004年3月23日、ジェリーは妹の通報によって逮捕された。

命がけの脱走、だがその先にあったのは…

 刑務所での生活は、ジェリーにとって耐えがたいものだった。まず、塀の中にはメスが無い。単調な刑務所生活の中で、次第に脱走の計画を立て始めた彼にチャンスがやって来たのは、逮捕から7カ月後だった。

 2004年10月31日。ジェリーが運動のために囚人グループと共に庭に出ると、一行をスコールが襲う。囚人たちは慌てて室内に戻るが、この時、看守が囚人の数を数えていないのを見ていた彼は建物の陰に隠れた。ジェリーを置いてドアが閉まると、囚人服を脱ぎ捨て、普段からその下に着ていたカジュアル・ウェアを露わにし、金網をよじ登る。金網に括り付けてあるレーザーワイアーで血だらけになりながら、彼は脱走に成功したのだ。

 ジェリーは血だらけのまま走った。無我夢中で走った。息も切れ、足が痙攣しても走り続けた。刑務所から3キロメートルほどの場所にある友人宅に押しかけると、事情を説明して車でオハイオ州にある母親の家に送ってもらうことになった。すでにハイな状態であった友人が運転する横で、彼は精神を落ち着かせるためにマリファナを吸い続けた。だが、ようやく母親の家に着くも、そこにはすでに警察の車が何台も止まっていた。夜も更け、友人と別れたジェリーは母親の家を諦め、地元に住む新たな友人宅を訪れた。そして、すり減った精神状態を癒すように、友人から貰ったメスをキメまくった。

 翌日、親切な友人はジェリーの潜伏先として、廃墟となったトレーラーをあてがい、暖房のない部屋で少しでも暖をとれるよう、ブランケットとウィスキー、そして大量のマリファナを与える。しかし、トレーラーの中はとにかく寒かった。さらに、廃墟となってしばらく経つ室内の環境は地獄のようなありさまだった。

「これなら刑務所のほうがマシじゃないか……」

 廃墟の中で過ごすことに限界を感じたジェリーは、母親に電話をかけて匿ってほしいと頼むが、母親は連日受けていた警察からのプレッシャーに耐えきれず、息子の頼みを断らざるを得ない状態にあった。

すべては家族のために… メスとは手を切る!

 潜伏生活を送るジェリーは、極寒のトレーラー内で自問自答していた。ここでの生活に限界を感じていたし、何より自分が逃げれば逃げるほど、家族が警察からのプレッシャーに苛まれるのが耐えられなかった。こんなことになっても相変わらず家族第一優先の精神を持ち合わせていた彼は、出頭を決意する。

 自分が刑務所に入れば家族も解放されるし、この絶望的な生活を終わらせられる。それは、彼にとっても望ましいことだった。だが、「出頭の際、武装した警察官に撃たれたらどうしよう」という新たな悩みを抱えることとなる。そこで、彼が思いついたアイデアは、地元テレビ局に電話をして、「脱走犯が出頭する瞬間を撮影しないか?」と企画を売り込むことだった。さすがにカメラの前では撃ち殺されないだろうと計算したのだ。彼から電話を受けたテレビ局のプロデューサーは、滅多に撮れないシーンを撮影できるとあって大喜び。かくして、ジェリーの出頭はテレビカメラが密着するという、前代未聞のものとなった。

 2004年11月4日正午。覚悟を決めたジェリーは警察署に向かって歩いた。テレビ局から連絡を受けていた警察は、不測の事態に備えてスワットチームを用意してジェリーの出頭を待ち構えていた。警察署の正面玄関に近づくと、屋上に配備されたスナイパーが、彼を狙っているのに気が付いた。自分の胸元に、レイザーサイトから放たれる赤い点がいくつも光っていたからだ。もう、ジェリーは怖くて仕方なかった。叫ぶように指示する警察に従い、両手を挙げて跪く。その後の裁判で、彼には懲役22年の刑が下された。

 妻に裏切られてメスに走り、すべてを失ったジェリー。彼の母親は、2012年に放送されたテレビ番組の中で、「出所後は生き別れになっている子どもと過ごすことで、生きる喜びを知って欲しい」と、家族を大切にし、立ち直ってほしいというメッセージを送った。それは、これまで何よりも家族を優先してきた彼の行いを知る母親からの言葉だった。

 だが、獄中インタビューを受けたジェリーは、不安そうな顔でこう答えている。

「出所したら、真面目に生きたいと思ってます。もうドラッグから離れた生活をしたいんだ。もし、できるなら……」

 彼の心の傷が癒える日は来るのだろうか?

井川智太(いかわ・ともた)
1980年、東京生まれ。印刷会社勤務を経て、テレビ制作会社に転職。2011年よりニューヨークに移住し日系テレビ局でディレクターとして勤務。その傍らライターとしてアメリカの犯罪やインディペンデント・カルチャーを中心に多数執筆中。

兄ちゃんリスペクト!フロリダをひっかき回した悪童兄弟、その固い絆

――犯罪大国アメリカにおいて、罪の内実を詳らかにする「トゥルー・クライム(実録犯罪物)」は人気コンテンツのひとつ。犯罪者の顔も声もばんばんメディアに登場し、裁判の一部始終すら報道され、人々はそれらをどう思ったか、井戸端会議で口端に上らせる。いったい何がそこまで関心を集めているのか? アメリカ在住のTVディレクターが、凄惨すぎる事件からおマヌケ事件まで、アメリカの茶の間を賑わせたトゥルー・クライムの中身から、彼の国のもうひとつの顔を案内する。

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 2008年6月、住宅街に逃げ込んだマーヴィリック・マーヘルは焦っていた。何せ上空には彼を追うヘリコプターが飛んでおり、警察官が町中を徘徊している状態であったからだ。窃盗の常習犯であった彼は、逮捕へのカウントダウンの中、一つだけ気がかりなことがあった。それは、いつも傍にいてくれた兄の存在だった。

兄への尊敬から、不良の道へ

 1999年、フロリダ州パームビーチ郡郊外で暮らしていたマーヴィリック(当時17歳)は兄のことが大好きだった。地元で有名な不良少年であった4歳年上の兄マークは、10代の頃から少年院の常連であり、その反抗的な姿勢は親も愛想を尽かすほど。だがマーヴィリックは、面倒見が良くていろいろなことを教えてくれた兄を、誰よりも信頼していた。

 マーヴィリックが兄と夜遊びをするようになって特に好きだったのは、夜中の小学校に忍び込むことだった。静まり返った校庭でバカ騒ぎをし、持参した銃で校舎の窓を割りまくるのだ。

「兄ちゃんはインテリジェントで洗練された男だぜ」

 退屈な町で過ごすマーヴィリックにとって、少しだけエキサイティングな瞬間を見せてくれる兄は、本気で尊敬する存在だった。 

 やがて、兄弟の“危険な遊び”はエスカレート。ビールとマリファナでいい気分になると、目先の金を求めて留守宅や車などを狙って窃盗を繰り返すようになる。見かねた母親は、悪さばかりする2人を引き離そうと試みたが、兄弟の絆は固く、決して離れることはなかった。社会からのはみ出し者だったマークにとっても、唯一の理解者であった弟の存在は大きく、彼の暴走を助長する特別な燃料となっていた。 そんな“混ぜるな危険状態”の2人は、これまでにない大きな窃盗をすることとなる。

 同年6月、いつも通り車で町を流していると、2人は軍の物資を積んだバンを発見。バンの中にはありとあらゆる武器が積んであった。以前から軍隊への憧れを口にしていたマークにとって、それは宝の山だった。バンをこじ開けると、車内に積んであった武器を手あたり次第盗み始めたのだ。

マーク軍結成! 窃盗犯育成ブートキャンプ

 大量の武器を盗むことに成功した2人は、高揚感に満ちていた。マークは地元の若い不良少年達を集め、自らの軍隊を結成。人里離れた森の中にキャンプを作って射撃の練習や体力作りに励み、独自のサバイバル術を猛特訓した。集まった不良少年たちは、現実離れしたこのブートキャンプを大いに楽しんだが、マークとマーヴィリックはマジだった。2人は、不良少年を厳しい訓練にさらし、マーク軍を作り上げる。すべては窃盗のためなのだが……。

 彼らは本物の軍隊が所有するライフル銃で武装し、留守宅を襲いまくる。盗んだ品は彼らのアジトに持ち帰り、祝杯を挙げては次のターゲットを決める作戦会議を開いた。

 だが、さすがに派手すぎる彼らの犯行に警察も黙ってはいなかった。捜査に乗り出した警察の動きを野生の勘で察知したマークとマーヴィリックは、仲間の家を転々とする逃亡生活を開始。しかし、彼らをよく思わない密告者の通報によって、あっけなく逮捕されてしまう。警察の捜査では、約30件の窃盗事件に関与していたという2人。主犯格のマークに対しては、長期刑が課される可能性もあり、とうとう兄弟の悪事も終わりかと思われた。しかし2人には作戦があった。まだ17歳であったマーヴィリックは、成人であった兄の為にほとんどの罪を被ったのだ。これにより、マーヴィリックは懲役3年6カ月、マークは1年にも満たない刑となる。兄へのリスペクトを忘れないマーヴィリック。兄弟愛は確固たるものだったのだ。

弟への恩返しは脱走の手引き

 翌年、弟の粋な計らいによって先に出所したマークは、弟への恩返しを考えていた。すでに警備の甘い矯正施設へと移送されていたマーヴィリックもまた、その機会を待っていた。2人の希望は、脱走からの海外逃亡。この型破りな計画はすぐに実行された。マーヴィリックは違法に手に入れた携帯電話で兄と連絡を取り、脱走の準備を始める。

 4月1日、マーヴィリックは職員の隙を突き、堂々と表玄関から脱走。車で待っていた兄と合流し、まんまと脱走を成功させたのだ。職員がマーヴィリックの脱走に気が付いた時は時すでに遅し、彼のベッドには置手紙が残されていた。

「良いエイプリルフールを! 愛を込めて、マーヴィリックより」

 最高のブラックジョークも決まったところで、2人は仲間の家で祝杯をあげた。もし次に捕まったら長期刑は免れないという不安を抱えていた彼らは、一刻も早く海外逃亡を実行するための計画を考える。逃亡先はパナマかコスタリカに漠然と決定。その資金集めとして再び窃盗に手を染め始めた。

 路上に止めてある車や、留守宅からとにかく金目の物を盗みまくる2人。順調に逃走資金を稼ぎ始めた彼らだったが、脱走から6日後、思わぬ事態が発生する。いつも通り、住宅地に止めてある車から金目の物を盗んでいると、物音に気が付いた持ち主の男性が2人の前に現れたのだ。さらに運が悪いことに、男性は非番の警察官。兄弟を恐れることなく向かってくる男性に驚いたマークは、男性に向けて発砲。幸い弾は命中しなかったが、すぐに悪名高い2人の仕業だと気付いた警察は、この発砲事件を機に大捜索を実施した。

 さすがに落ち込んだ2人は森の中で野宿をしたり、再び仲間の家に身を隠す。 だが、結局のところ、2人の能天気さは底なしだった。発砲事件から2日後、ホームパーティーに招かれ、酒で気を大きくした2人は大胆な行動に出る。その場のノリでカセットテープに警察へのメッセージを吹き込み始めたのだ。

「お前らに捕まってたまるか! このテープをFBIでもCIAにでも送りやがれ! 俺らはめっちゃ武器を持ってるんだぞ!」

 そう吹き込むと、「カチャ、カチャ」と銃の操作音を録音し、武器自慢をする。テープを聴いた警察は、このあまりにふざけた危険人物をなんとしてでも捕まえようと、指名手配ポスターを町中に張り始めた。

 だが、マークとマーヴィリックはふざけているつもりなど毛頭なかった。2人はマジだった。彼らなりに、国外逃亡への計画を着々と進めていたのだ。3日後、2人はアメリカを離れる前に、最後に姉に会いに行こうとフロリダ州から約240キロメートル離れたアイオワ州を目指す。彼らなりに頭を働かせ、空路を避けて長距離バスに3日間揺られた。

 長旅で疲労した2人が姉の家を訪ねると、留守中の姉に代わって夫が歓迎してくれた。家族の絆を確認した2人は、姉が帰宅するまで地下室で待つことに決めた。

 しかし、勝手に歓迎ムードを感じていたのは2人だけだった。警察は2人の逮捕に向け、指名手配犯となっていることを家族にも伝えていたのだ。2人が地下室でくつろいでいる隙に、口実を作って外出した姉の夫は警察に通報。何も知らずに束の間の幸せに慕っていたマークは、祝杯のビールを買いに家の外に出ることにした。しかし、すでに家の周りには警察官が到着しており、驚く暇もなく、あっけなく逮捕されてしまう。一方、地下室で物音を聞いたマーヴィリックは、姉が帰宅したと勘違いし、玄関先に迎えに行こうとしたところで、取り押さえられてしまった。2人は、地面に押さえつけられ、手錠を掛けられるお互いの姿を、ただただ見届けるしかなかった。のちの裁判で、マーヴィリックは懲役7年、マークには懲役8年の刑を言い渡された。

悪童兄弟に訪れた別れの日

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 2007年、刑を全うし、晴れて釈放されたマーヴィリックは真面目に働こうと思った。地元に戻り、タトゥーショップで職を得た彼は、警察沙汰になるようなトラブルは一切起こさず、まじめに働き、ささやかな幸せを見つけ始めた。しかし彼にとって、兄が特別な存在であったことは変わらなかった。翌年出所するマークに会うことが、楽しみで仕方なかった。

 2008年4月、マークが出所すると、マーヴィリックは彼と再会してしまう。更生したマーヴィリックとは違い、マークに反省の様子などは見られなかった。少年時代から社会の反逆児として存在感を示していた兄に会うことは、マーヴィリックにとってあまりに危険だった。そしてマークの出所から2カ月後、マーヴィリックは兄と共に再び町へと繰り出すこととなる。

 昔を思い出して、留守宅を狙って窃盗を開始し始めた2人。だが、兄弟の運はもう尽きていた。盗みを働く2人を発見した家主に通報されてしまい、慌てて逃げる2人。追ってきた警察と猛スピードでカーチェイスを繰り広げ、住宅街で車を捨て二手に分かれて逃走劇を開始する。上空には2人を探すヘリコプターが飛んでいた。そこら中を警察官が探し回っている。住宅の庭に身を隠したマーヴィリックは、焦っていた。マークはそこから数キロ先の住宅の庭に設置されたプールの中に身を潜め、ただただ時が過ぎるのを待った。だが逃走から数時間後、警察はあっけなく2人を逮捕。今度こそ、本当に終わりだった。

それでも今でもお兄ちゃんが大好き!

 マークには懲役25年が下され、マーヴィリックには11年6カ月の懲役刑が下された。さらに2人にとって最も辛かった量刑ーーそれは今後一切の接見禁止だった。もう決して混ざり合うことのない兄弟は、現在別々の刑務所に収監されている。

 2012年5月9日にテレビ放送されたクライム系テレビ番組『I (Almost) Got Away With It」』に獄中インタビューとして登場したマーヴィリックは、時折笑みを見せながら、現在の心境を語った。

「僕は牢屋に入ったって、過去を振り返って後悔なんてしないんだ。今の状況に満足しているし、自分と向き合えて幸せだよ」

 そして、兄に翻弄され、それでも兄を信頼し続けた彼は、カメラ目線でこう答えている。

「確かに兄ちゃんは不良かもしれない。でも兄ちゃんは死ぬまで裏切らない信用できる男なんだ」

 マーヴィリックは、今でも兄ちゃんリスペクトなのだ!

井川智太(いかわ・ともた)
1980年、東京生まれ。印刷会社勤務を経て、テレビ制作会社に転職。2011年よりニューヨークに移住し日系テレビ局でディレクターとして勤務。その傍らライターとしてアメリカの犯罪やインディペンデント・カルチャーを中心に多数執筆中。

【6代目日ペンの美子ちゃん・服部昇大先生】パロディが公式に!気鋭のマンガ家“6代目爆誕”秘話!!!

――2017年、約45年の歴史を持つ「日ペンの美子ちゃん」に大変革が起きた。「日ペン……? 美子ちゃん?」――記憶の片隅に残る、あのペン習字訴求マンガに、いったい何が!?

【6代目日ペンの美子ちゃん・服部昇大先生】パロディが公式に!気鋭のマンガ家6代目爆誕秘話!!!の画像1
日ペンの美子ちゃん【公式】ツイッター〈@nippen_mikochan

 2014年4月号から本誌にて「流行解明3分間」を連載していたマンガ家・服部昇大先生。本業では『魔法の料理 かおすキッチン』をはじめ、『テラフォーマーズ』のスピンオフ作品『今日のテラフォーマーズはお休みです。』(共に集英社)といった人気マンガを手がけている氏が、今年1月「日ペンの美子ちゃん」6代目作者に就任したことは、ご存じだろうか? 「美子ちゃん……? ああ、少女マンガ雑誌に掲載されていた広告マンガか」と記憶の片隅に残っている本誌読者も多いことだろう。日ペンの美子ちゃんは、学文社が実施しているボールペン習字通信講座の広告マンガとして、1972年に誕生(ちなみに彼女は設定上、永遠の17歳)。これまで歴代5人のマンガ家たちによって描き続けられてきたが、彼らが学文社からの由緒正しき依頼を受けていたのに対し、服部先生が就任した背景は少々異なる。

 そもそも事の発端となったのは、服部先生が同人誌で描いた「日ポン語ラップの美ー子(びーこ)ちゃん」という、“美子ちゃんオマージュ作品”だ。同作は15年、日本語ラップ・ブームの波を受けて、「その聴き方、間違ってるわ!」「もっと文化を掘り下げなさい!」などと、日本語ラップが間違った解釈で世に浸透せぬよう、正しい聴き方を指南するマンガとしてカルト的な人気を誇った。「なぜ、美子ちゃんを主役にサンプリングしたのか?」――それは、本家・美子ちゃんがペン習字講座教育の広告マンガでありながら、「字が汚いと、人格すら疑われちゃう!」というド直球な思考のもと「是正する」スタイルでリンクした点。また、服部先生自身が、熱狂的なまでの日本語ラップ・リスナーであることも巧みに作用したからである。

「少女マンガ雑誌に掲載されていた広告マンガという印象に加えて、あの手この手を使ってペン字を習わせようとする強引さも記憶にすり込まれていました。単行本も出ず、アニメ化もされていないのに、その記憶だけが残っていて、日本語ラップを描くマンガのアイデアを考えたときに、そんな美子ちゃんの強引で、ヒップホップ精神に通じるマインドが適任だと思ったんです」

 そんな半ば強引な親和性の高さが功を奏し、「美子ちゃん、懐かしい」と思いながら美ー子ちゃんを読む層がいれば、まったくの新しいキャラとして受け入れた若い世代も獲得。同人誌の販売も扱う、とあるレコードショップの売れ筋ランキングでは、ジャネット・ジャクソンの新作に次ぐチャートインを果たすなど、美ー子ちゃん人気はたちまち加速度を増す。

 しかし、「出る杭は打たれる」のが世の常。美子ちゃんの著作権を持つ学文社が、美ー子ちゃんの存在に気づくのだ。美子ちゃんと共に年を重ねてきた株式会社学文社の美子ちゃん担当、営業部課長・浅川貴文氏に話を聞く。

「実は広告マンガとしての美子ちゃんは99年に撤退、約10年前から美子ちゃん自体に動きもなかったんですが、昨年5月に再始動プロジェクトをスタートさせました。コンセプトは“懐かしくも、新しい美子ちゃん”で、当初はプロアマ問わず、6代目の描き手を公募する案で動いていました。そんなとき、社員のひとりが、インターネットで『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』を発見したんです」

 学文社という、社名からして頭がお堅い社員の皆々様ばかりが勤務していそうな企業は、有無を言わさず「著作権侵害で法的措置を取る!」となりそうなところだが、浅川氏は「このマンガ家の方は、どういった意図で美子ちゃんを扱おうとしたのか?」という疑問を解消すべく、服部先生のブログに記載されていたメールアドレスから連絡を試みたという。服部先生は、そのメールの件名を見て、「終わった……。僕は訴えられて、多額の損害賠償により、この家のすべてが差し押さえに……」と頭が真っ白になったそうだが、文面を読み進めるにしたがい、前向きなヴァイブスが感じ取れたと話す。

「メールは無視されると思っていたのですが、服部先生から丁寧なお返事をいただき、『この人は、金儲けだけを考える悪人ではない』と判断しました。美子ちゃん起用の理由もわかり、さらに美子ちゃんに対するリスペクトも感じられたので、6代目は公募ではなく、服部先生にお願いしようという気持ちが固まりました。社内上層部には、美ー子ちゃんが営利目的で販売されていたことからネガティブに受け止める者もいましたが、私はそれ以上に、服部先生となら新しい美子ちゃんを生み出せるのではないかと思い、正式に依頼いたしました」(浅川氏)

 パロディが公式作品に――。昨今、こうした事例はめずらしくなくなった。例えば、手塚治虫の不朽の名作「ブラック・ジャック」のパロディをツイッターなどで発表していたマンガ家・つのがい氏の「#こんなブラック・ジャックはイヤだ」(小学館)も、手塚氏の実娘である手塚るみ子氏に認められ、単行本まで発売。しかし、すべてのパロディが公式に起用されるチャンスがあるかといったら、話は別。美子ちゃんにもブラック・ジャックにも共通するのは、「オリジナルへの敬意」だ。

 服部先生のマンガは「言葉選びのセンスが巧み」という評価に加え、「現代的な画力の高さではなく、昭和の良き時代を想起させる絵のタッチが、懐かしくも斬新」などの高い評価も得ている。懐かしくも斬新――まさに、これが美子ちゃんと美ー子ちゃん、学文社と服部昇大が結びつく運命的なファクターとなったのだ。

【6代目日ペンの美子ちゃん・服部昇大先生】パロディが公式に!気鋭のマンガ家6代目爆誕秘話!!!の画像2
シンペイちゃんに対する愛ゆえ、今では考えられない発禁用語すらマンガの中で口走ってしまう、この初代美子ちゃんのすがすがしい表情!

「正式なオファーを受け、学文社に行って歴代のマンガ家先生たちが描いてきた美子ちゃんを丹念に読みました。するとどうでしょう、もうパンチラインの雨あられ。例えば、美子ちゃんが憧れのタレントにサインをしてもらうんですが、『まあ!! なにこのへたくそな字 げんめつね』とか、デート相手に『あんたの字ってヘビがのたくってるみたいにへたくそなのね』とか、字が汚い人をこてんぱんにこき下ろしてるんです。ペン字を習わせる強引さどころか、明確な理由はあれど、その人の人格を否定するようなセリフがたくさんあって、その辛辣さはサイゾーに近いものを感じたくらいです」

 本誌がこうして記事にしたのも、「服部先生、6代目就任おめでとう記念」だけではない。そうした美子ちゃんのタブーに挑む歯に衣着せぬ物言いが、本誌の精神ともリンクしたから。6代目就任以降、週1ペースでツイッターに新作をアップし、「4月までに5000人くらいのフォロワーを獲得できれば」と話していた美子ちゃん(の中の人)だったが、アカウント開設から1週間も満たぬうちに目標の5000人を突破し、現在は約1万3000人のフォロワーが、美子ちゃんの新作を待ち望む。ペン字学習だけに、ピコ太郎の「ペンパイナッポーアッポーペン」をサンプリングして「誰がミコ太郎よ~!」と言い放ったり、ブラック企業に勤めるサラリーマンを題材にし、「社畜ね! でも、こんな下手な字の辞表じゃ辞められないんじゃないかしら?」といった暴言も放つ。これらのアイデアは、すべて服部先生が考案し、学文社の了承を得て描いているという。「たまにNGも出ます」と苦笑する服部先生だが、前出の浅川氏は「強引に日ペンを勧めるマンガとしてスタートしましたが、今後はまったく違う場所に登場させたり、他企業とコラボしたり、上層部から叱られない程度に、いろいろな試みに挑戦して、美子ちゃんを成長させたい」と続ける。

 今号が発売される頃には、出家騒動に揺れる千眼美子をテーマに、「よぉ~し、ペン字降霊術よ! ……こんにちわ、日ペン美子です」といった作品がアップされているかもしれない。サイゾーは、そんなチャレンジ精神を忘れぬ、日ペンの美子ちゃんを応援していきます!

服部昇大(はっとり・しょうた)
マンガ家/照英ウォッチャー/プリキュアヲタ/日本語ラップヲタ。本業はマンガ家でありながら、あらゆる分野で活躍するハイパーマルチ・アーティスト。〈服部昇大先生〉と書かれると「はっとり・のぼる・だいせんせい」と勘違いされることが多いという。

歴代【美子ちゃん図鑑】

錚々たる顔ぶれが描いてきた“ザ・少女マンガタッチ”の美子ちゃんたち

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【初代】矢吹れい子先生
1972~1984年


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【2代目】森里真美先生
1984年


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【3代目】まつもとみな先生
1984~1987年


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【4代目】ひろかずみ先生
1988~1999年


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【5代目】梅村ひろみ先生
2007~2016年


日本語ラップに限らず、少女マンガも愛し、絵のタッチも“懐かしくも新しい少女マンガ”的な服部先生の6代目就任は、もはや運命。今後、6代目がどこまで攻めるか、期待しましょう。

〈美子ちゃん初の原画展開催!〉6人の作家によって描き続けられてきた美子ちゃんの秘蔵原画が展示される原画展の開催が決定。●日程:5月16日(火)~30日(火)●時間:12:00~20:00●場所:墓場の画廊 ●http://hakaba-gallery.jp ※詳細は美子ちゃんツイッターで!

新聞記者らが語る森友学園問題の裏側と「日本会議の陰謀」

異様な幼児教育と疑惑報道の数々

傘下の幼稚園でなされていた幼児教育の異様さ――「教育勅語暗唱」「中国や韓国を批判する選手宣誓」等々――もあいまって、一気に盛り上がりを見せている、学校法人・森友学園にまつわる疑惑報道の数々。一連の報道の裏には何があり、現場の新聞記者らはそれに対して何を思うのか……。数人の現役記者に集まってもらい、話を聞いた。

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学校法人塚本幼稚園幼児教育学園HPより。

A:全国紙ベテラン記者
B:全国紙中堅記者
C:全国紙中堅記者

A 大阪市の学校法人「森友学園」による国有地取得問題に注目が集まっているね。これまでスキャンダルが少なかった安倍晋三首相が絡む話だし、学園の籠池泰典理事長は次々と関連本が出版されている「日本会議」の関係者。鴻池祥肇・元防災担当相ら政治家の関与疑惑も次々判明し、一気に報道が過熱する政治案件になった。ネットでは最初、「メディアはわざと大きく報じていない」などと日本会議等の政治圧力をにおわせ、陰謀論的に語られていたね。

B 発端は、2月9日の朝日新聞に載ったスクープだったんですけどね。ただ、他メディアの反応が鈍かったことは確かに事実。同じく安倍政権に批判的な毎日新聞の場合、地元の豊中市議が、売却金額を非公表とした近畿財務局の決定取り消しを求めて提訴したことを同じ9日に書いたけど、大阪本社版に短い記事を載せただけ。問題をきちんと報道するまで数日かかり、毎日の編集幹部は怒り心頭だったとか。読売や産経に至っては、国会論戦が盛り上がってくるまでほぼ無視。各社の政治的なスタンスが浮き彫りになる形となりました。

C まあ、報道の遅れは新聞の制作体制にも原因があるんですよね。この問題、当初は大阪の社会部マターでしたから。全国紙は北海道、東京、中部、大阪、西部の5本社制を取っていて、それぞれで独自の紙面を作っている。東京発のニュースは他本社の紙面でもわりと取り上げられるけど、ローカル発のネタは他本社では使われにくい。今回の問題も、国会で取り上げられて「政治部マター」になってからやっと、全国的な問題としてヒートアップしましたよね。

A あと、調査報道は追いかけにくいという問題もあるんだよね。森友学園の問題はもともと、地元でオンブズマン活動をしている市議が「おかしい」と感じて調査を始め、知り合いの記者たちに声をかけたと聞いている。その中で朝日の記者だけが反応して、一緒に情報公開請求や関係者取材を進めたからスクープできたけど、役所が発表している案件ではないから、他社が追いかけようとしても、なかなか裏が取れない。

B 基本的に、新聞の調査報道は最近面白くないですよね。カネにも人にも余裕があって調査報道にも注力してきた朝日にしても、慰安婦報道【1】吉田調書問題【2】でたたかれまくって、社内ではコンプライアンスばかりが言われている。

C それで最近は、「もっと自由に書きたい」と会社を辞めてしまう記者が増えてますよね。2月に注目を集めた早稲田大学ジャーナリズム研究所の調査報道メディア「ワセダクロニクル」の編集長は元朝日新聞記者で、名物連載「プロメテウスの罠」【3】などを担当した渡辺周氏でした。

A ワセダクロニクルの最初のシリーズは、「買われた記事」【4】。製薬会社から依頼を受けた電通側が抗凝固薬を宣伝する記事を共同通信に配信させ、子会社を通して金が流れたとする内容だった。中身を読むと確かに、当事者を見つけ出してよく書いたなあと思う。新聞だと、どんなに取材しても行数を絞らないといけない。でもネットメディアでは書きたいように書けるし、動画でインタビューも載せられるしね。

B ただ、この問題を捕まえてまたもやネットでは、「こんなの“氷山の一角”なんでしょ」なんて意見をよく見かけるけど……いやいや、これは本当にレアケース、あっちゃいけないことですよね。

C まあ、ステマまがいの記事は確かにありますけどね。社の広告部門からの依頼で、日頃から広告で“世話になっている”企業のCSR活動を取り上げるとか、あるいは販売店からの依頼で、地域の話題を取り上げるとか。ただそれにしたって、記者が給料以外の報酬をもらえることはないし。

A この件に関していえば、問題となった共同通信が、非営利組織であるはずの社団法人だからこそ起こってしまったのかも。共同通信は子会社に営利部門の「株式会社共同通信」という会社があって、ここが企業の広報支援などをしている。しかも電通と共同は、もともと戦前は同じ会社だったという歴史もある。共同通信の記者が直接お金をもらうことはないだろうけど、裏ではどうしても、こういう癒着が発生しやすいのかも。

B いずれにせよ最近はワセダクロニクルに限らず、大手メディアを辞めてネットメディアに転身する人が目立ちますよね。元朝日でバズフィード編集長の古田大輔さん、東洋経済からニューズピックス編集長になった佐々木紀彦さんあたりのスター記者が有名だけど、それ以外の朝日や読売あたりでも結構辞めている。

A 最近はどこも人員削減を進めた結果、記者1人の仕事量も増えているし、自由にテーマも選びづらくなっていますからね。「働き方改革」と称して時間外手当を大幅に減らそうとしている某テレビ局のような例もあるし、「夜討ち朝駆け」なんて、要はただのサービス残業ですし……。

C 取材環境も悪くなってますよね。この2月27日から経済産業省が、全執務室を施錠して記者を閉め出し、取材を受けた役人には広報室に報告を義務づける制度を突然取り入れて問題になってます。まあこれは、日米首脳会談前にGPIF【5】が米国のインフラ投資を検討しているという情報が漏れて、激怒した世耕弘成・経産相が情報管理を強化したんだといわれていますが……。

A まあそもそも、これまで役所のセキュリティが甘すぎたという面も。中央官庁内をメディアの記者が自由にうろちょろできるなんて、おかしいといえばおかしい(笑)。防衛省とか原子力規制庁とか、機密を扱う省庁はこれまでも自由に取材はできなかったわけですしね。警察署も、20年前くらいまではデカ部屋と呼ばれる刑事課に記者が出入りして現場の刑事から捜査情報を取れたけど、今は副署長にしか会えなくなった。まあ時代の流れなんだろうね。ただ、機密を扱わない部署でもすべて施錠するのは、少々やり過ぎなところもあると思うけど。

B まあ、どんなに情報管理を強めても、結局は漏れちゃうんですけどね。経済同友会の小林喜光代表幹事が今回の経産省の対応について記者会見で、「私の感覚では、経産省が最も意図的に情報をリークしてきた実績がある」と皮肉ってました。その通り! リークでメディアコントロールをしてきた最たる例が経産省。結局今後も、官庁内の派閥争いや記者との人間関係の中で情報はリークされ続けるでしょう。その流れが生きている限り、我々オールドマスコミにも存在意義はあると思いますね。

(構成/編集部)

【1】慰安婦報道
1980年代以降朝日新聞が報道してきた、旧日本軍による朝鮮人強制連行に関する記事の一部に虚偽があったことが判明、同社は2014年9月に謝罪会見を行った。

【2】吉田調書問題
2014年5月、福島第一原発事故に関する朝日新聞の報道の中で、「原発所員の9割が所長命令を無視し逃げ出した」と報道、のちにこれが誤報であったことが判明した。

【3】「プロメテウスの罠」
2011年10月より朝日新聞にて連載が開始された、福島第一原発事故、および原発をテーマとした長期連載記事のこと。のちに書籍化もされた。

【4】「買われた記事」
2017年2月から3月にかけ、全4回に渡ってワセダクロニクルにて連載された記事を指す。大手広告代理店・電通が、製薬会社からの依頼に基づき、脳梗塞の予防に使用される薬に関する広告まがいの記事を、共同通信を通して全国配信させたというスクープであった。

【5】GPIF
公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人のこと。このGPIFによる米国インフラ事業への投資の可能性を、日本経済新聞が報じた。2月10日に行われた日米首脳会談に際しての“手みやげ”ではないかとの憶測がなされた。

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