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【世界選手権開幕直前!】フィギュアオタが見る、羽生結弦と「メディアを変えるアイドルパワー」の関係性

――女性向けメディアを中心に活躍するエッセイスト・高山真が、芸能報道を斬る。男とは、女とは、そしてメディアとは? 超刺激的カルチャー論。

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『羽生結弦 王者のメソッド 2008-2016』(文藝春秋)

 フィギュアスケートシーズンを締めくくる、もっとも重要な大会である世界選手権が、3月28日から開催されます。私は1980年のレークプラシッドオリンピックからのフィギュアファン。自分で言うのもなんですが、相当に年季が入っています。選手ごとにお気に入りのプログラムがあり、それを全部語ろうとしたら3日4日はかかってしまうほど。

 例えば、「伊藤みどりのショートプログラムなら、88年はオリンピックよりも世界選手権、90年の世界選手権と91年のNHK杯がベスト」みたいな感じです。もちろん、それぞれの演技の何がどう素晴らしかったか、までもガッツリ語りますので、心おきなく語ろうとしたら半日はかかります。で、「伊藤みどりのフリー」を語りだしたら、そこでまた半日。やっかいにもほどがあります。

 Youtubeが一般的でなかった2005年以前にそんな細かいことを言っても、周りでその感覚を共有してくれる人はマツコ・デラックスくらいのもので、寂しい思いを感じていました。そんな私にとって、昨今のフィギュアスケートブームは本当にありがたい。選手たちに対するリスペクトが大きくなったのも喜ばしいことです。ちなみに私は、個人的に推す選手はもちろんいますが、「ほかの選手をディスる」タイプのファンではなく、アスリート全般をリスペクトしている観客です。

 私がフィギュアスケートにハマった1980年から本田武史が出てくるまで、日本のフィギュアスケートは女子選手を中心に回っていましたが、ここ10年ほどの男子の隆盛っぷりにも目を見張ります。もともと天才的なミュージカリティを持つ高橋大輔が、階段を3つ4つ一気に駆け上がる勢いで「化けた」最初の演技である2005年のスケートアメリカのフリー。「この演技がバンクーバーで出来ていたら…」と思わずにはいられない織田信成の2009年エリック・ボンパール杯のフリー。小塚崇彦の端正なスケーティングの魅力が、ジャンプノーミスによって「芸術」にまで高まった2011年の世界選手権フリー…。スペースの都合上ひとつずつしか挙げませんでしたが、それぞれの選手がそれぞれに素晴らしいパフォーマンスをいくつも披露してくれたのも、現在の隆盛の大きな原因であると思います。

 私はこの連載で「アイドル」を中心に語ってきましたが、もともと「フィギュアスケーター」と「アイドル」は非常になじみやすい、というか、ありようが似ている存在です。相当若いうちから、衣装を着て、音楽をバックに人前でパフォーマンスを披露すること。熱心なファンであればあるほど、その成長を段階的に感じ取ることができること。その「成長」に付随する「物語」も、ファンの求める大きな要素のひとつであること。加えて、強力な裏方の存在が、彼らの成長に不可欠であったこと…(私にとっての最初のアイドル・松田聖子を例に挙げるなら、「強力な裏方」は作詞家の松本隆になります。羽生結弦にとっての強力な裏方を挙げるなら…、本当は歴代のコーチにこちら側から順位をつけてはいけないのでしょうが、私は阿部奈々美氏とブライアン・オーサー氏を挙げたいと思います)。

 現在、男子フィギュアで真っ先に名前が挙がるのが羽生結弦であることに異論をはさむ人は少ないと思います。羽生結弦は超一級のアスリートであり、なんかもう「アイドル」と言うよりは「スター」と言ったほうがいいような気もしますが、それでも、2010年の世界ジュニア選手権のフリーで披露したラフマニノフの『パガニーニ』、2012年のシニアの世界選手権のフリーでの『ロミオとジュリエット』、そこから1年経たずに披露した2012年のスケートアメリカのショートプログラム『パリの散歩道』…と、節目節目で驚異的に成長する様子を目撃してきたわけです。「スケーター・羽生結弦のファン」として以上に「フィギュアスケート好き」として、血をたぎらせてきた、というか。

 今の羽生結弦は、なんかもう「進みすぎちゃってる」というか、一介の素人である私が「ここがいい!」とポイントポイントで指摘するのが野暮でさえあります。オリンピックや世界選手権の金メダリストたち、エフゲニー・プルシェンコやスコット・ハミルトン、タラ・リピンスキー、カート・ブラウニングなどによる絶賛のコメントや解説を参考した方が、はるかに有益でしょう(私としてはこのメンツの中に、金メダリストではないのですが、「ジョニ江」ことジョニー・ウィアーも入れたい)。それでもあえて、「私のツボ」を箇条書きにしてみると…。

◆ショートプログラム
●インサイドのイーグルを含むステップから直ちに4回転サルコウを跳び、すぐにアウトサイドのイーグル、そのまま滑らかにチェンジエッジしてインサイドのイーグルへとつなげる
●「トリプルアクセルの前にステップ必須」というルールはないのに、イナバウアーを含めた複雑なエッジワークを入れて跳び、バックアウトのエッジで着氷した後、着氷の流れのままにバックインのエッジを入れていく
●助走のための「漕ぎ」がプログラム全編にわたってほとんどない。ステップシークエンスの「1歩」の距離が異常

◆フリープログラム
●ショートプログラム同様、ほぼすべてのジャンプの前にコネクティングステップが入っている。で、助走にあたる「漕ぎ」も本当に少ない
●特に、「自分にとってのナチュラルな回転方向ではない」、時計回りのツイズルを入れてから(これ、地上で1回転しただけでバランスを崩します)、即、本来の回転方向である反時計回りのトリプルアクセルを跳び、そのままトリプルサルコウまでのコンビネーションにつなげるシークエンスは、何度見ても意味がわからないくらい驚く
●「アイドル」の文脈で扱ってはいけないくらいの高貴さというか、アンタッチャブルな存在感が出てきた

「好きなところを挙げるのに半日かかる」傾向をグッと抑えて、ポイントを挙げるとこんな感じでしょうか。

 今までの日本において、長期間にわたって「アイドル」「スター」であり続けるスポーツ選手は、野球選手とサッカー選手に限られていたようなところがあります。あと、年配の人にとってのゴルフ選手も、そこに加えていいと思います。

 そういった状況は、「スポーツメディアを仕切っているのが、ほとんどオヤジ」という部分とも大いに関係があると思っているのですが、体操の内村航平とか、テニスの錦織圭とか、そしてフィギュアスケートの選手たちの長期間にわたる活躍によって、メディア内の「野球・サッカー・ゴルフ」の独占市場が変わってきていることも、その3つのスポーツに非常にうとい私にとってはありがたい。

 スポーツの世界だけに限ったことではありませんが、メディアを変えるのは、活躍するアイドルたち、スターたちであり、彼ら・彼女たちを支えることで「数字」を残すファンたちなのです。

 3月28日からの世界選手権。羽生結弦はもちろんですが、宇野昌磨の、実年齢よりはるかに先に進んだ成熟した演技も楽しみですし、宮原知子の非常に精緻で洗練された演技も、本郷理華の「スポーツを観戦する」というワクワク感をいっぱいに味わわせてくれる、躍動感いっぱいの演技も待ちきれません。そして忘れてはいけない、ファンである私にとっては「第一線で競技を続けていること自体がありがたい」浅田真央も。ここでは挙げきれませんが、数々の海外選手にも大きな期待をしています。

 来週は仕事が遅れに遅れてしまうことでしょう。各社の担当編集者さんたち、ごめんなさい…。

高山真(たかやままこと)
男女に対する鋭い観察眼と考察を、愛情あふれる筆致で表現するエッセイスト。女性ファッション誌『Oggi』で10年以上にわたって読者からのお悩みに答える長寿連載が、『恋愛がらみ。 ~不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』(小学館)という題名で書籍化。人気コラムニスト、ジェーン・スー氏の「知的ゲイは悩める女の共有財産」との絶賛どおり、恋や人生に悩む多くの女性から熱烈な支持を集める。

「ブルーノ・マーズがアイドルをプロデュース」って本当? K-POP誇大宣伝から見る扇情的報道の弊害

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本人の意図せぬところで「夢の共演」となっている事実を、ブルーノ本人はどう思うか。

 去る2月23日に韓国でファースト・フル・アルバム『Press It』をリリースした人気アイドル・グループ〈シャイニー〉のメンバー、テミン。リリース後、韓国のアルバム販売量集計サイトの週間チャートで1位を獲得するなど、大きな反響を呼んでいる。その話題性を後押ししたのが、先日行われたアメリカの祭典「スーパーボウル」のハーフタイムショーにも登場したアーティスト、ブルーノ・マーズ【1】との“共演”という報道だった。アルバムに先駆けて公開された「Press Your Number」がその共演曲で、テミンのファンのみならず、ブルーノのファンまでも取り込み、韓国をはじめ、日本でも大々的に報道された。ネットでは「ブルーノがテミンの才能を認めるなんて!」といった称賛の嵐が巻き起こったが、ブルーノは自身のブランディングに異常なまでのこだわりを持つアーティストとして知られている。まずは、米国のブルーノのマネジメントに話を聞いてみた。

「『Press Your Number』は、ブルーノ・マーズ名義でお蔵入りとなっていた『Press It』を下敷きにした楽曲です。『Press It』は、ブルーノが(当時の)共作者であるステレオタイプスと6年ほど前に制作した楽曲であり、ブルーノは作曲を担当したまでで、テミンというアーティストのためにプロデュースしたという事実はありません」

 韓国のメディアはこぞって「夢の共演」などと囃し立てたが、真相はお蔵入りとなっていた楽曲を買い取り、使い回しただけだった。

 ちなみに、ブルーノはデビュー当初こそ、ステレオタイプスと共作をしていたが、後に袂を分かつことになる。つまり、テミンの「Press Your Number」は、「Press It」の原盤権を持っていたであろうステレオタイプスが、テミンの所属するSMエンタテインメントに売却しただけではないかと思われる。

「過去にブルーノとステレオタイプスは、アジア人ヒップホップ・グループのファー・イースト・ムーヴメントに『Rocketeer』(10年)という楽曲を提供しています。もともとはサビをブルーノが歌っていたのですが、『デモ用に歌っただけで、彼らの楽曲に参加するつもりで歌ったわけではない』という理由から、サビは違うボーカリストに差し替えられました。そのくらいブルーノは完璧主義者です」(音楽ライター)

 実際、旬のプロデューサーや海外アーティストとの共演がK-POPアーティストの躍進を後押しする例もあるが、今回のような強引な誇大報道は、ファンへの背信行為とも取られかねない。では、なぜSMエンタテインメントは、ここまでして話題作りに奔走したのだろうか?

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テミンに譲渡されたブルーノのお蔵入り「Press It (Slower Version)」は、YouTubeに複数アップされていたが、SMエンタテインメントの手早い動きによって削除。

「近年では、東方神起が分裂してできたグループ・JYJ(C-JeS エンターテインメント)がカニエ・ウェストと共演したり、ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムが2NE1(YGエンターテインメント)に惚れ込んで、自らプロデュースを買って出たり、4ミニッツ(キューブエンターテインメント)が欧米のダンスミュージック・シーンを牽引するプロデューサー、スクリレックスのプロデュース楽曲を発表しています」

 つまり、「競合する韓国のアーティスト/事務所に水をあけられた形になったからではないか」と前出の音楽ライターは話す。

 また、同じSMエンタテインメントに所属するBoAや少女時代の全米デビューに至っては、お世辞にも“大成功”とは言えない結果に終わったが、両者「アメリカ公演、満員御礼!」などと、空席が目立つ会場写真を加工してまでも“捏造”に必死であった。

過剰報道で生まれる音楽業界の由々しき問題

 そもそもこの大袈裟で過剰な誇大報道こそアジア諸国の悪しき音楽文化のひとつで、海外から足元を見られる原因を作っていると指摘するのは大手レコード会社のベテランディレクターだ。

「1999年、ジャネット・ジャクソンを育て上げた大御所プロデューサーのジャム&ルイスが宇多田ヒカルの『Addicted To You』を手がけたことが大きな話題となり、ダブルミリオンを記録した。しかし、あの曲はふたを開けてみたら、ジャネットが98年に発表した『Together Again』のリミックスの焼き直しといっても過言ではないものでした。『Addicted To You』は作詞・作曲が宇多田本人ということもあり、じっくり聞けば別曲として捉えられます。しかし、問題は『日本人をプロデュースすれば金になる!』【2】と海外に思わせてしまう、煽るアジアのメディアにあります。

 昨年、三代目J Soul Brothersがアフロジャックと共演した楽曲『Summer Madness』が多方面で話題になりましたが、あの曲に至っては、スティーブ青木とアフロジャックの共作『Afroki』に少々手を加えただけの代物と言っていいでしょう。ちなみに欧米でも、話題の共演などは事前にメディアが報道することもありますが、いわゆる今回のテミンや、日本国内のニュースサイトなどに顕著な『なんと、○○が××をプロデュース!』といった煽り方はしていません」

 音楽アーティストを多数抱える大手事務所のスタッフが続ける。

「日本の売れているアイドルやアーティストが、箔を付けるためにも海外の著名プロデューサー/アーティストとの共演を切望する気持ちはわかります。しかし、その提供してもらった楽曲に対し、アーティスト自身も事務所もレコード会社も、『もしかして、既発曲の焼き直しかもしれない』ということを疑うべきなんです。今でこそ値崩れしていますが、『日本はCDが売れている』と思い込んでいる海外プロデューサーらは、いまだに法外なプロデュース料を突きつけてきます」

 さて、今回のテミンの誇大宣伝以外にも、数々の過剰報道を行ってきた韓国メディア。知らぬ間に名前を使われたブルーノ・マーズは気の毒だが、事実を知らぬままに「ブルーノが僕のためにプロデュースしてくれた楽曲」としてテミンが心から歌っていたとしたら、それはさらに気の毒で仕方ない。

 ここから透けて見える「お金次第で大物との共演が可能」「トップアーティストの名前を出せば話題性抜群」と考えている音楽業界の浅はかな体質。売れるための手段を考えるのは必要不可欠なことだが、アーティストの意思やキャリアを無視してまで作る過剰な誇大宣伝に、本当の価値は付与されないだろう。

(田口瑠乙)

【1】ブルーノ・マーズ
日本でも高い人気を誇るハワイ出身のシンガー・ソングライター。「Just The Way You Are」や「Marry You」は、国内の結婚式の定番ソングとしても定着しているようだ。

【2】日本人をプロデュースすれば金になる!
本文で触れたように、これまでに数々の著名アーティストが海外のプロデューサーやアーティストとコラボを果たしている。その報酬額はピンキリだが、最低でも数百万円といわれ、もっとも高いものでは数千万円の例も。近年は国内の辣腕プロデューサーが、海外と比較しても遜色ない楽曲を制作しているが、報酬はベテラン勢でも100万を超えることは滅多にない。

覚せい剤報道が加熱するマスコミの裏側――清原逮捕で見えた!芸能人シャブ報道の功罪

――2月2日に逮捕された清原和博容疑者をはじめ、このところ芸能人の覚せい剤による逮捕報道が続く。そして、続いて出るのは、次に誰が捕まるのか? だ。こうした報道では、疑惑と称して実名で芸能人の名前が挙げられることもしばしばだが、それらは果たして人権侵害とならないのだろうか?今回は、清原逮捕をテキストにし、芸能人のシャブ逮捕報道はどのようにして作られるのか? を検証していこう。

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にこやかな笑顔を見せていた「番長」清原は今……。

「覚せい剤を使用したことに間違いありません」などと、ついにその容疑を認めたとされる元プロ野球選手でタレントの清原和博容疑者。清原は2016年2月2日に覚せい剤所持容疑で逮捕され、23日には覚せい剤使用容疑で再逮捕されている。

 その逮捕は、2年間で延べ300人を行動確認に投入した警視庁・組織犯罪対策5課が勝利した瞬間だった。実はここ数年、組織犯罪対策5課は中高年を中心に蔓延しているという覚せい剤撲滅キャンペーンに乗り出しているようだ。

「全体の覚せい剤事件の検挙者数は『第3次覚せい剤乱用期のピーク』と呼ばれた97年の約2万人の半分、約1万1000人。ところが、40代以上の検挙者が全体の約6割を占め、2割超程度だった97年の3倍近くに膨らんでいるのです。現在では、40代以上による覚せい剤購入が、暴力団の資金源になっている。組対5課としては中高年の有名人常習者を中心に検挙し、暴力団の資金源の根絶と、中高年の覚せい剤犯罪抑止効果を狙っているのです」(警視庁関係者)

 組対5課は、14年5月には歌手のASKAを逮捕(懲役3年、執行猶予4年の東京地裁判決が確定)。その薬物密売ルートでもあった「新宿の薬局」の異名を取る、東京・歌舞伎町に本部を持つ指定暴力団住吉会系大昇会の組幹部ら23人を覚せい剤取締法違反などの疑いで逮捕した。

 同課は、「新宿の薬局」ルートの壊滅作戦を展開し、2年弱に及ぶ捜査を経て、ほとんどの密売拠点を壊滅させるに至ったといわれるほどだ。

「組対5課がASKAと同時期に行動確認を進めていたのが清原でした。『新宿の薬局』の捜査の一方で、交友関係や入手ルートなどを把握し、覚せい剤を使用した直後に踏み込み、清原を現行犯逮捕することができたのです」(前出・警視庁関係者)

 時期は異なるものの、ASKAと清原の運転手は同一人物だったとされており、清原の逮捕はASKAルートとも重なっているとされているが、目下、マスコミと世間が注目するのは、清原の交友関係や入手ルートから芋づる式に摘発される中で、有名人の逮捕があるかどうかだろう。

「清原容疑者は携帯電話を4台持っていて、暴力団幹部や今回のシャブ入手ルートとされる群馬県内の通称『シャブばばあ』と呼ばれる大物女密売人などを電話番号登録している可能性がある。こうした人物やほかの有名人との通話履歴を組対5課が解析している」(芸能記者)

 現在、報道で実名が挙がっているのは、『週刊新潮』(新潮社)が『帝国ホテルのスイートルームに2人で籠ってシャブを決めていた』と報じる長渕剛のほか、元プロ野球選手として新庄剛志、橋本清、格闘家の秋山成勲、老舗洋食店たいめいけんシェフの茂出木浩司……。余談だが彼らに共通する点で興味深い指摘があった。それは「顔が黒く焼け、歯が真っ白」という点だという。

「『シャブ中になると、目の周りにくまができて、ドス黒くなる』と言われており、それをごまかすために日焼けサロンで体を焼くケースもあります。また、シャブの効果が切れかけているときにイライラして、通常の人間では出せないほどの力で歯を食いしばるため、歯が欠けてボロボロになることもある。だから、シャブ中の人間は差し歯にしたり、入れ歯にするために真っ白の歯になるというのです。逆に、見た目だけでそのように判断されているケースも否定できないので、こうした憶測に近い報道には注意が必要です」(芸能事務所社員)
 これらに加えて、インターネット上では、虚実ないまぜになった芸能人の名前が複数挙がっている。

「芋づる式摘発といえば、77年に俳優・岩城滉一の逮捕(覚せい剤取締法違反)を皮切りに、芋づる式で、研ナオコ、井上陽水、内田裕也(3人は大麻)らが摘発されたことがありました。以来、芸能マスコミは、有名人が薬物で逮捕されるたびに、次に芋づる式に摘発されるのは誰かと報道することがパターン化しているんです」(前出・芸能記者)

 覚せい剤を所持していたり、使用した人物よりも、次に誰が捕まるのかを求めるのは大衆心理なのかもしれない。そして、それが求められるのであれば、取材に乗り出すのがまた商魂たくましい芸能マスコミの仕事といえるだろう。

「シャブセックス=気持ちいい」ネットで拡散していく懸念

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3度の覚せい剤所持で、15年に実刑を受けた小向美奈子。思えば、シャブ使用発覚後からも、怒涛の人生を送っているが……。

 しかし最近は、こうした報道が少々過熱気味に思える節がある。

「それだけ、芸能界やスポーツ界には薬物が蔓延していることの証左といえるかもしれないが、警察関係者も薬物疑惑についてはメディアにリークしやすいようで、次々に名前が挙がる。しかし、実際に検挙するのにはシャブの所持・使用の現場を押さえることが絶対条件で、清原の件を見てもわかるように、少なくとも2年はかかるのです。“クロ”な有名人たちも清原逮捕後必死になってシャブ抜きをしているために、捕まるとはしばらくは考えにくいのです」(同)

 しかも、テリー伊藤が「本当にこれは暴力」と指摘したように、インターネットの普及でこうした有名人の名前が虚実ないまぜとなって広がり、人権上の問題ともなっている。警察も行きすぎた報道については痛し痒しな状態のようだ。

「覚せい剤報道は、犯罪抑止効果を狙って容認しているのですが、一方で有名人が逮捕されると、『あの有名人もやっていたなら』と影響を受けやすい一定の層がシャブに興味を持ち始めてしまう。清原の場合も『薬物をやっていたから3試合連続ホームランを打てた』という情報を聞けば、シャブにはそれくらいの効果があるのかと、ワーカホリックなビジネスマンなどが手を出しかねないのです。また、09年の酒井法子の逮捕後の週刊誌報道をきっかけに『シャブセックスが気持ちいい』という話が知れ渡ってしまった。そんなにも気持ちがいいのかと、ますます覚せい剤に背徳的な関心が高まってしまったことも事実で、こうした動きには署内でも懸念が広がっています」(警視庁関係者)

 15年10月にはアイドルで女優の高部あいが都内の自宅マンションでコカインを所持していたとして、麻薬取締法違反(所持)の疑いで逮捕されているが、その際にも「薬物セックス」の効果が大々的に報道された。その行き着く先が「シャブセックス」というわけだ。

 芸能マスコミにとっては格好のネタではあるのだが、その影響力は計り知れないというわけだ。

清原=番長を広めたマスコミの功罪

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念願の巨人に移籍した頃は、まださわやかな顔を見せていた清原。以降、番長と持ち上げられ、裏社会とのつながりが表沙汰になることも増えた。

「マスコミも、書き放題の姿勢を改めるべきでしょう。特に清原問題の一因には、そもそもスポーツマスコミが清原を『番長』とはやし立てて、彼をカン違いさせてきたことにあるのは事実。今回の逮捕でも清原容疑者は『子どもたちの夢の存在だった』などと報道しますが、現役時代の後期は、彼に子どものファンはほとんどいなかった。スポーツマンらしからぬ態度を持ち上げて乱闘などを礼賛してきたマスコミが、清原『番長』というイメージを増幅させてきたのです。それに応える形で、清原容疑者は刺青を入れ、チンピラ的な行動を取ってきた。本人は、本当の自分と虚飾にまみれた世間が期待する自分とのギャップに耐え切れなくなってシャブに手を出した、ともいわれています」(スポーツジャーナリスト)

 とはいえ週刊誌は、スポーツマスコミのように、礼賛報道一辺倒だったわけではない。週刊誌も清原とは穏やかならぬ因縁があった。

「清原といえば、『週刊ポスト』が00年に掲載した『やっぱり!“虎の穴”自主トレ清原が「金髪ストリップ通い」目撃』という記事をめぐり発行元の小学館を提訴。地裁で1000万円の損害賠償が認められた事件がある(高裁で600万円に減額)。その後の有名人に対する名誉毀損裁判の慰謝料高額化の一因となった事件としても知られている。コレを受けて清原をめぐる週刊誌報道が、トーンダウンしたのは間違いない」(週刊誌記者)

 一方、度重なるスキャンダル報道で清原との距離が縮まったのが『フライデー』だ。『フライデー』は80年代には西武ライオンズ時代の清原のモデルやクラブママとのスキャンダルを次々に報じて、険悪な仲だったが、97年に清原が読売ジャイアンツにFA移籍すると「おう、ワイや! キヨハラや」と勝手に語り口調で始まる不定期連載「番長日記」をスタート。清原本人は「ワイ」とは自称していないと否定したが、番長というニックネームとともにその呼称を定着させた。08年の引退後には『番長伝説』として一冊にまとめたほどだ。

「マスコミ関係者の誰もが疑っていた清原の薬物中毒を初めて大々的に報じたのは、『週刊文春』(文藝春秋)14年3月13日号の『清原和博緊急入院薬物でボロボロ』です。しかし、これを受けて清原が『「週刊文春」を訴えようと考えています』と独占告白したのが、これもまた『フライデー』14年3月28日・4月4日合併号『薬物疑惑の真相、全部しゃべったる!』だった。さらに15年10月30日号でも『わかった、もうゼンブしゃべる! 清原和博激白60分』と薬物逮捕情報から格闘家転向情報まで語りつくしている。ここまで同誌と良好関係になった有名人は、そうはいないだろう」(週刊誌記者)

 ともあれこれでは、マスコミも共犯なのではないか? そしてもちろん、そうした情報を求めるのは大衆心理。私たちが、芸能界とシャブという構図の端っこを背負っている可能性さえあるのだ。

 くれぐれも情報には踊らされずにありたい、ということで、ここではスポーツ界にまで蔓延するシャブの実態を知り、それを報じるメディアの裏側を追跡してみた。犯罪報道の功罪について、清原のシャブ逮捕を通じて考えていきたい。

(文/松井克明)

『NEWS23』キャスター就任もおじゃん! TBS・小林悠アナ、電撃退社の裏に“山本モナの呪い”アリ!?

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『TBSアナウンサーカレンダー2016』

 週刊ポストの熱愛デート報道から約1カ月、TBSをスピード退社することになった小林悠アナ。体調不良により依願退職する趣旨のファックスを出したのみで、突如表舞台から姿を消してしまった。ポストの報道直後から小林アナの不可解な行動も目撃されており、局内外で様々な憶測が飛び交っている。

「週刊ポストに記事が掲載されると知るやいなや、知人を介して編集部サイドに探りを入れるなど、かなり動揺していました。特に気にしていたのが写真の有無。後ろめたいことがあったのか、うろたえる姿が局内でも目撃されています。プライベートでも親しい同僚の加藤シルビアに相談しましたが、あまりの狼狽ぶりに加藤も驚いていたようです」(TBS関係者)

 これまでにも同僚ディレクターとの“路チュー”をフライデーに激写されるなど、スキャンダルへの免疫はあったはず。自身が担当するラジオ「たまむすび」では交際報道をイジられても、笑いで受け流す余裕を見せていただけに、退社の一報にスタッフも驚きを隠せなかったという。

「一部では既婚との報道もありましたが相手のITベンチャー企業を設立した起業家は既に離婚しています。ただどうも離婚のタイミングと小林との交際がスタートした時期が被っているという疑惑もあり、局の上層部から厳しく叱責され『NEWS23』降板が決まりました。しかも報道を機に起業家からの連絡が途絶えてしまったとか。看板番組のキャスターの座だけでなく、支えてくれるはずだった交際相手まで失いパニックになってしまったのが退社の理由のようです」(週刊誌記者) 

 またTBSがスキャンダルに神経質にならざえるをえない事情もあるようだ。

「『NEWS23』はもちろん、報道スタッフは山本モナのスキャンダルがトラウマになっており、女性キャスターの色恋沙汰はご法度。小林を抜擢した際には“身体検査”もしていたはずなんですが、脇が甘いと言わざるを得ません。これなら膳場を続投させたほうが良かった。“呪われた番組”と揶揄する局員も少なくありません」(前出TBS関係者)

 スタート前から前途多難なようだ。

“恋愛”よりも”絆”を求めて…嵐、Sexy Zoneと『君に届け』に見る「いま女子が本当に欲しいもの」

――女性向けメディアを中心に活躍するエッセイスト・高山真が、芸能報道を斬る。男とは、女とは、そしてメディアとは? 超刺激的カルチャー論。

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『アラシゴト』(集英社)

 芸能人、スターに何を求めるか。若い人たちは、アイドルという存在に、何を見ているのか。

 今まで飽きるくらいに繰り返し議論されてきたテーマです。それはすなわち、「答えが確定しないというより、時代時代によって変わるため、変わるたびにその議論が起こる」ということなのかもしれません。

 意識したり言語化できるほどには明確になっていないけれど、人々が熱烈に求めている『何か』。それが、アイドルを含む芸能人に投影される。だからこそ、一世を風靡した人に対して「時代に選ばれた」などという表現が使われてきたのでしょう。

 その意味で、80年代後半から90年代はじめまで、バブル経済と歩調を合わせるかのように、飛ぶ鳥を落としてバリバリと食ってしまう勢いだったユーミンこと松任谷由実が「美空ひばりさんが日本の復興の象徴なら、私は繁栄の象徴だと思う」「私が売れなくなるときが来るとしたら、都市銀行がつぶれるような時代になったとき」というコメントを残したのは、その嗅覚の鋭さも含めて感服するよりほかありません。

 グループ単位の男の子アイドルといえば、私がリアルタイムでその全盛期を知っているのはシブがき隊が最初になります(たのきんトリオは、「アイドルグループ」ではなく、田原俊彦、近藤真彦、野村義男の3人のアイドルをまとめた“総称”みたいな感じなので、「グループ」からは除外)。で、今の若い男の子グループで、かろうじて知っているのは、Kis-My-Ft2、Hey!Say!JUMPとSexy Zoneくらいになります。

 そりゃまあ、シブがき隊の時代からゆうに30年はたっていますので、今の若い方々が動画サイトでシブがき隊の昔の姿を見ても、「衣装がダサい」「曲がダサい」「振付がダサい」というご感想を持つくらいのものでしょう。まあ、「若い人たちに人気があるものの中には、時代が変わると急にダサく見えてしまうものがけっこうある」ものですが、オバちゃんの立場から、もうひとつ。私はリアルタイムで経験してきた者として、たのきんトリオやシブがき隊が「どういうふうにキャーキャー言われていたか」を知っています。当時と今とで変わったのは、ステージに立つ人たちの問題だけではありません。

 今のアイドルグループと、昔のグループの決定的な違いは、何か。それは、「メンバー同士の関係性」に萌えている人がいるか、いないか、ということだと思います。昔の男の子のアイドルグループは、「疑似恋人」としての役割がメイン(というか、役割のほぼすべて)でした。メンバーの中の誰か(シブがき隊ならヤックンとかモックン。フックンは…どうだったか…笑)にキャーキャー言うことはあっても、たとえば「ヤックンとフックンの関係性」に萌えたり「メンバー同士の仲の良さ」を愛でるポイントに挙げたり…ということはなかったのです。

 私の体感では、男の子のアイドルグループに「関係性萌え」を見出すファンが現れたのは、SMAPがガッツリ売れ始めた頃、あるいはKinKi KidsやV6がCDデビューをした頃、つまり90年代の中盤くらいから、と記憶しています。なので、当時は「過渡期」というか、たとえば「木村くん(←中居くんでも香取くんでもOK)がいるから、SMAPにお金を落としている」「とにかく光一(←剛でももちろんOK)が大好き!」という人もけっこうな数いましたが、いま、若い子の多くは、それぞれに「いちばん好きなメンバー」がいつつも、「嵐は、5人で嵐」「Sexy Zoneはやっぱり5人全員そろっていないと!」と感じている部分もかなり大きいのでは、と。その前提の中で「潤くんと相葉くんの関係性にキュンキュンしてる」とか「勝利と健人は、やっぱり鉄板のコンビ!」といった感じで、アイドルを楽しんでいる。ま、あくまで私の体感にすぎないのですが。

 その原因を「BL的なニュアンスが一般の人々の間でも消費されるようになった」とする人もけっこういるでしょうが、私は少々違った考えを持っています。先ほど言った、「意識したり言語化できるほどには明確になっていないけれど、人々が熱烈に求めている『何か』。それが、アイドルを含む芸能人に投影される」ということに当てはめれば…。

「若い方々にとっては、『疑似であっても恋人がほしい』ということ以上に切実な問題がある。それは『自分の人生に、強いつながりで結ばれた“他者”がいてほしい。その相手は“恋人”でなくてもかまわない』ということではないか」と思っているのです。

 男の子グループと並んで、若い女の子たちが熱烈に『何か』を投影するものと言えば、少女マンガです。この15年間ほどの少女マンガで、部数的にも圧倒的な数字を残した作品といえば、『NANA』(矢沢あい・作)と『君に届け』(椎名軽穂・作)を挙げたい私です。まだ完結していない両作品ですが、『NANA』の主題は明らかに「ナナとハチ、それぞれの恋」ではなく、「それぞれに恋をしていても、ゆるぎも薄くもならない、ナナとハチのつながり」ですし、『君に届け』は「主人公・爽子と風早翔太の恋」を描くだけでは、ここまでの人気作にならなかったでしょう。私が『君に届け』を読む限り、あの作品で最大瞬間風速が吹いたのは、第2巻です。「地味な世界に属する、爽子。そして、一見派手な世界に属する、ちづとあやね。その3人が確かなつながりで結ばれた」シーンが、『君に届け』をここまでの人気作にした、と確信しています。

 一般人にとっては「よくなっている」とは一瞬も感じられない景気のせいなのか、それ以外にも理由があるのか、それはわかりませんが、「かつて自分にも10代だった時期、20代のはじめだった時期があった」大人の立場で言わせていただくなら、いまの若い人たちを取り巻く環境の殺伐さを思うと、私の背すじはひんやりしてしまいます。「自分の中の一部を明かしても、ゆだねても、この人は、『私』という存在を拒否しない」と信じられる相手が周りにいない…。その苦しさは、自分のセクシャリティを周りの誰にも明かせなかった、かつての私自身の苦しさと重なります。「あの時期は私が成長するために必要だった」と今でこそ思えますが、「じゃあ、あの時期をもう一度経験するか」と尋ねられたら、「絶対にいやだ」と即答できるほどに、苦しい時期。その苦しさを、現代の多くの若い人たちも抱えていると思うと、いい大人であるはずの私の胸が今でも痛くなるほどです。

その環境が、いますぐ劇的に変わる…という可能性は、残念ながら低いでしょう。ただ、そうならそうで、若い人たちが抱える「何か」にこたえる仕事をしている人(表舞台に立つアイドルだけでなく、アイドルを作っている制作側・裏方側を含みます)には、「関係性に切実な希望を見出すたくさんの人たちが、自分たちの仕事を支えている」ということは頭に入れておいていただきたい。その希望が「目に見える状態になっている」ことで、現実の社会そのものが変わっていく可能性もあるはずです。

高山真(たかやままこと)
男女に対する鋭い観察眼と考察を、愛情あふれる筆致で表現するエッセイスト。女性ファッション誌『Oggi』で10年以上にわたって読者からのお悩みに答える長寿連載が、『恋愛がらみ。 ~不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』(小学館)という題名で書籍化。人気コラムニスト、ジェーン・スー氏の「知的ゲイは悩める女の共有財産」との絶賛どおり、恋や人生に悩む多くの女性から熱烈な支持を集める。

EXILE・USAの熱愛報道に事務所も無関心…本当に大物女性芸能人と交際しているのはEXILEのあのメンバー!?

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『NHKテレビ Eダンスアカデミー』

 EXILEのメンバー・USAと、女優でタレントの杉ありさの熱愛を3月1日発売の『FLASH』(光文社)が報じた。ネット上では相変わらず「EXILEの誰だか顔も浮かばない」との声が多く聞こえてくるが、しかし、どうやら今回の報道に対して、白けているのは世間だけではない様子。レコード会社関係者の話。

「いまLDHは、三代目 J Soul Brothersをはじめとした若手たちの新しい仕事が立て込んでいるとかで、事務所内でもUSAのニュースは話題にもなっていないらしい。問い合わせの電話もほとんどないと聞きましたよ(笑)それこそ稼ぎ頭である三代目メンバーの熱愛報道だったら、火消しに躍起になっていたと思いますが」

 さらに”熱愛”に関しては、別のEXILEメンバーにまつわるこんな噂が聞こえてくる。

「無名のタレントとEXILEの一メンバーじゃ世間の関心を煽ることはできないでしょう。そんなことより、EXILEの熱愛を追うならAKIRAを狙うべきです。以前には、長澤まさみとの交際報道もありましたが、ここ1~2年の間で新たな大物女性芸能人と交際しているという噂があって……これが明るみに出れば、USAの熱愛よりは盛り上がるんじゃないですかね(笑)」(前出・レコード会社関係者)

 俳優としての活動も盛んで、女優との共演も多いAKIRAのお相手は一体ダレなのか。EXILEが本当の意味で芸能ニュースを賑わす日も遠くないかもしれない。

妻の妊娠中、ダブル不倫に走った夫は殺された――遺された女たちがテレビカメラの前で相まみえる!

――犯罪大国アメリカにおいて、罪の内実を詳らかにする「トゥルー・クライム(実録犯罪物)」は人気コンテンツのひとつ。犯罪者の顔も声もばんばんメディアに登場し、裁判の一部始終すら報道され、人々はそれらをどう思ったか、井戸端会議で口端に上らせる。いったい何がそこまで関心を集めているのか? アメリカ在住のTVディレクターが、凄惨すぎる事件からおマヌケ事件まで、アメリカの茶の間を賑わせたトゥルー・クライムの中身から、彼の国のもうひとつの顔を案内する。

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「私は、あなたに謝ってほしくて来たのではありません。私がどんな思いだったかを知ってほしくて来たんです」

 昨年4月、アメリカの人気番組『Dr.Phil』(カリスマ心理学者のフィル・マックグロウが、相談者の悩みに耳を傾け、解決まで導くトーク番組)に出演したアシュリー・バークは、涙をこらえながらそう呟いた。5人の子どもを持つ主婦である彼女がこの日スタジオで対峙したのは、かつて自分の夫と不倫関係にあった女性。番組観覧客の前で不倫討論を繰り広げる彼女に、全米の視聴者が釘付けとなった。しかし、アシュリーが抱えた傷は夫の不倫だけではなかった。問題の夫は、不倫の末に殺害されていたのだ。

交際6カ月で結婚、若い二人が築いた幸福な家庭

 アシュリーが夫のエメットと出会ったのは、今から13年前。当時20歳だった彼女が、大学のジムでアルバイトをしていた時だった。彼女はジムを訪れたエメットに一目ぼれ、急速に距離を縮めていった。

 やがて2人は交際を開始。デートを重ね、将来の夢を語り合った2人は次第にお互いの運命を感じ始めていた。交際から6カ月後のある雪の日、アシュリーは、エメットの生まれ育った町に掛かる橋の上でプロポーズを受ける。しんしんと雪が降る中、エメットはひざまづいて指輪を差し出す。2人は永遠の愛を誓い合った。

 交際開始から6カ月でスピード婚を果たした2人。間もなくして、アシュリーのお腹に新しい命が宿る。初めての妊娠ということもあり、期待と不安を抱える中、エメットは彼女との時間に最善を尽くした。出産時には、陣痛で苦しむ彼女の手を握りしめ続けた。若い夫婦にとって初めての子どもは、双子の女の子だった。

 その後も男の子・女の子と家族が増える中、2人は良き父と母であるよう務めた。夏は湖の畔でキャンプをし、冬はスキーを楽しみ、家族の思い出は増えていった。

 2010年、エメットは、長年の夢であった法律事務所をアイダホ州の小さな町に設立した。少ないながら社員も抱え、まさに順風満帆の生活が始まった。さらに2人にとって、何よりも嬉しい知らせが飛び込んでくる。アシュリーのお腹に5人目の命が宿ったのだ。エメットは家族のために一層仕事へ情熱を燃やし、アシュリーは毎日指輪をはめて仕事に向かう夫の姿に、家族の絆を深く感じていた。

 仕事も軌道に乗り始め、更なる飛躍を目指すエメットは、新しいアシスタントを募集する。彼が雇ったのは、カリフォルニア州から夫と2人の娘と引っ越してきたカンディ・ホールだった。理想的な家族像に見えたエメット一家の運命は、2人よりも10歳以上年上であるカンディの存在によって少しずつ変わり始めることとなる。

年上の女性アシスタントと妻の勘

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 アシュリーは、カンディに対して初めから良い印象を持っていなかった。なぜなら彼女を雇うことに対して、エメットがあまりに親身になっていたからだ。夫が彼女に注ぐ熱意に、直感的に嫌な予感を持ち始めていた。やがて、そのアシュリーの予感は現実のものになってゆく。

 カンディがアシスタントとして働くようになった頃、妊娠中のアシュリーは、エメットに連絡を入れずに事務所に立ち寄ったことがある。まず違和感を持ったのは、駐車場に車を止めたとき。エメットの車の後ろに、寄り添うようにカンディの車が止まっていた。アシュリーが事務所に入ると、彼女の姿を見るなりスタッフの動きが止まる。バツが悪そうにアシュリーを見る彼らにさらなる違和感を持ちながら、奥にあるエメットの部屋のドアを開けたとき、彼女が見たのは、親密そうに笑いながら話をする2人の姿だった。

 アシュリーの違和感は的中していた。この時、すでに2人は上司と部下を越える“関係”を持ち始めていたからだ。しかし、当時28歳だったアシュリーは、一回りも年上の女性にエメットの心が動くはずがないと信じ込んでいた。
 
 カンディが働き始めて数カ月が経つと、エメットは家族との時間を避けるように帰宅時間が遅くなっていった。夫婦の会話も減り、2人の間では口論が頻繁に起きるようになる。4人の子どもを抱え、さらに妊娠中のアシュリーは、家族の絆を取り戻すため、エメットにカウンセリングを受けようと提案。だが彼はそれを避け続けた。

 そして、2011年3月11日。2人にとって5人目の子どもが生まれて6週間目の出来事だった。久しぶりに家族団らんの時間を過ごすために、アシュリーは1日かけてエメットの好物の料理を用意し、子どもたちもドレスアップさせ、夫の帰りを待っていた。しかし、この日もエメットはなかなか帰らない。ディナーの時間を過ぎてしばらく経った頃ようやく帰ってきた夫に、アシュリーはキスをしようと近寄った。だが彼は顔を背け、それを拒む。アシュリーはとうとう意を決して、2人の間にできてしまった溝を修復するための話し合いの時間を設けようとした。だがそれは結局口論へと発展してしまう。

 そのとき突然、エメットの携帯電話が鳴った。誰かと連絡を取った後、彼は外出する準備を始める。アシュリーは「今日だけは家族と一緒の時間を過ごしてほしい」と泣きついたが、エメットは「俺に指図するな」と言い残し、家を出て行ってしまう。残されたテーブルの上の料理は、まるで2人の関係のように、冷めきっていた。

ダブル不倫の発覚――そして駐車場で惨劇は起こった

 エメットの電話の相手はもちろんカンディだった。ドラッグストアの駐車場で待っていた彼女は、エメットが到着すると、彼の車に乗り込み、場所を移した。いつも通り、不貞を犯す2人。しかし、2人の密会は最悪の結末を迎えることとなる。この時、偶然にも同じドラッグストアを訪れていたカンディの娘が、駐車場にある彼女の車を発見していた。周囲を見渡しても母親の姿が見当たらないことを不審に思った娘は、父親に電話をしたのだ。カンディの夫もアシュリー同様、直感的に妻の不貞に気づいていた。嫉妬心に燃えたまま拳銃を持ち出し、ドラッグストア内を徘徊して、カンディとエメットを探しまわった。そして、駐車場に戻ってきた彼らと遭遇したのだ。

 まさかの修羅場にエメットは開き直り、カンディの夫は怒り狂う。男たちの口論を背に、カンディがひとりその場を離れようとしたその時、銃声が鳴りに響く。振り返ると、エメットは血だらけになり地面に倒れ、カンディの夫はその返り血を浴びていた。

 何も知らないアシュリーは、夫の帰りを待っていた。しかし日付をまたいだ頃、彼女のもとに現れたのは夫でなく警察だった。そこで彼女が知らされたのは夫が犯した不貞と、彼が殺害されたという事実だった。

ついに直接対決!カメラの前で対峙する女2人

 事件から2年9カ月後、カンディの夫は殺人罪で有罪となり、懲役30年を言い渡された。

 アシュリーは、自らの経験を書いた手記を出版した。妊娠中に夫に不倫をされ、殺害までされてしまうというセンセーショナルな内容に、手記はたちまち話題となった。しかし、その手記に納得のいかなかったのはカンディだった。手記では当然、夫と不倫をしたカンディについても言及されていたからだ。

 その後も2人の関係はたびたびメディアで報道されることとなり、昨年4月、ついにアシュリーとカンディは、全米人気のテレビ番組で直接対峙する。観覧席に娘を座らせ、スタジオ入りしたカンディは、アシュリーの出版物への非難を始める。「もう、私の名前を書くのを止めてほしいわ」とカンディが言えば、「私は、あなたが夫と寝るのを止めてほしかった」と応戦するアシュリー。白熱する討論に、観覧客からの拍手が鳴り続けた。番組の最後には、アメリカのカリスマ心理学者であり、名物司会者のフィル・マックグロウが2人の間に入り、「あなたは、ここにいる2人の子どもたちを大切にしなさい。そして、自分自身と向き合いなさい」とカンディを諭し、番組は全米で大変な話題になることとなった。

 アシュリーは手記を出版した後も、自らの経験をブログに書き続けている。夫を亡くした彼女の経験と、それでも立ち上がる彼女の姿勢を示したブログは、全米の悩める女性達に勇気を与え続けている。彼女のブログはその後、悩める女性たちがお互いの経験を告白しあう社交上へと発展している。

 現在、アシュリーはエメットの死後に出会った男性と再婚を果たし、新しい家族と共に笑顔を取り戻しているという。

井川智太(いかわ・ともた)
1980年生まれ。育英工業高等専門学校卒業。印刷会社勤務を経て、テレビ制作会社に転職。アシスタント・ディレクターを経てディレクターとなり、2011年よりニューヨークの日系テレビ局でディレクターとして勤務。また、その傍らフリーのライターとしてウェブを中心に執筆中。

テロのイメージばかり先行するけど本当のイスラムってどんなとこ? 1400年の歴史を追う!

――イスラム過激派組織などの伸長により、混迷を極める中東情勢。民族問題、宗教問題が複雑に絡み合うこの地の政治的“見取り図”を正確に把握するのは至難の業。ではあるが、日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究理事である保坂修司氏のインタビューを中心に、この地の歴史の概観を眺めてみたい。

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 IS、タリバン、ボコハラムなど、イスラム過激派によるテロが世界の人々の生活を脅かし続けている。2015年11月、約130人が死亡したフランス・パリ同時多発テロは、世界中の人々に大きな衝撃を与えた。今年に入ってからも、血なまぐさい惨劇はやむ気配がない。1月31にはシリアの首都ダマスカスで、1月7日と2月1日にはアフガニスタンのカブールで、また1月14日はインドネシア・ジャカルタで、イスラム過激派による自爆テロが相次いで発生している。

 内戦が続く中東、アフリカ情勢は、現地難民の流出にも拍車をかけている。シリアからの難民は15年8月時点で410万人、当地の全人口の約2割を占めるほどに膨れ上がった。難民受け入れの是非をめぐり、欧州は人道的立場とテロリスト流入という現実の間で揺れている。欧州各国の国内世論は真っ二つに割れており、難民に厳しい措置を取る極右やタカ派の台頭も著しい。また最近では難民と欧州各国国民の対立も深刻だ。今年1月25日、スウェーデンでは難民受け入れ施設で働いていた女性が、難民少年に殺害されるという痛ましい事件が起きた。同29日には、その事件の報復と称し、覆面姿の極右グループが首都ストックホルムで難民や移民を襲撃、逮捕されている。欧州以外の先進国にとっても、イスラム過激派や難民問題は対岸の火事ではない。各国ではテロを警戒した警備体制が強化され、開戦前夜を彷彿とさせるような殺伐とした風景が広がっている。

 しかし、ここで我々はこう問いたい。

「イスラムとは何か? イスラム世界とは何か?」

 全世界でムスリム(イスラム教の信者)は16億人ともいわれる。そのうちのほとんどが、イスラム過激派を支持する狂信的な信者などではないのは、賢明な読者なら先刻承知であろう。しかし、先述したような世界情勢の中、いまや「イスラム世界」のイメージは、暴力や残虐性と結び付けられることが多い。しかし、大部分のムスリムは、我々と同じような、ごく普通の一般人ではなかろうか……?

 そこで今回サイゾーでは、「中東・イスラム世界 新文化論」と銘打った特集を企画する。中東・イスラム世界の最新動向に目を配りながらも、かの地で生きる普通の人々が日々楽しんでいるであろうようなファッション、スポーツ、音楽、映画、その他のエンターテインメントから、一部の退廃的享楽までを、お届けしたいと思う。なぜならそのほうが、かの地の人々の“本質”を知ることができると考えるからだ。

 とはいえ、そのためにもまずは、かの地の歴史を概観しておくことは大切だろう。そこで巻頭企画たる本稿では、日本エネルギー経済研究所中東研究センターで研究理事を務める中東専門家・保坂修司氏に話を聞きながら、イスラム世界の歴史をたどるにあたってキーとなる書籍を交えつつ、解説を加えてもらうこととした。

(文/河 鐘基)

【徹底研究】ベッキーをオトしたゲスの極み乙女。だけじゃない! “前髪重い系バンド”はなぜモテるのか!?

――“ベッキー騒動”でやおら世間の注目を集めているゲスの極み乙女。なるバンド。そういえば最近、似たイメージのバンド、多くないだろうか? そこで本企画では、そっち系のバンドを「前髪重い系バンド」と勝手に命名。そのスリートップとして、くだんのゲスの極み乙女。、そしてサカナクション、SEKAI NO OWARIを措定し、大人気の彼らの、その“モテ”の秘密に迫る!

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多くの雑誌の表紙を飾る三大“前髪重い系”バンドたち。バンド全員でのカットが多いゲス極やセカオワに比べ、サカナクションは単独カットが多い。

 2016年1月7日発売の「週刊文春」報道に端を発する、タレント・ベッキーと人気バンド「ゲスの極み乙女。」のボーカル&ギター・川谷絵音の不倫報道。その記事──「ベッキー31歳禁断愛 お相手は紅白初出場歌手」──が掲載された同誌の発売前日、急遽記者会見を開いて謝罪したベッキーだが、その翌々週21日発売の「週刊文春」には、会見前の赤裸々なLINEの内容が再び掲載。「不倫でも略奪でもない」「オフィシャルになるだけ」など、謝罪どころか開き直りにも見えるやり取りが暴露され、結果的に彼女は、CMやレギュラー番組をすべて降板、長期休業を余儀なくされるという異常事態に陥った。

 ミュージシャンがモテるのは、今も昔も変わらない。噂話の類ならば星の数ほどあり、実際結婚まで至った最近の例でも、りょうとブラフマンのTOSHI-LOW、長谷川京子とポルノグラフィティの新藤晴一、蛯原友里とリップスライムのILMARIなど、大物女性芸能人と男性ミュージシャンのカップリングは、特に珍しいことではない。

 しかし、今回の一連の騒動で、決して音楽に詳しくはない一般人をも驚かせた要因のひとつは、相手のバンドマンが既婚者だったこと──ではなく、その「見た目」ではなかっただろうか? 好みは別として、ベッキーはまごうことなき美人ハーフタレントである。対する川谷は、お世辞にもイケメンとは言いがたい、ナヨっとした風貌……。かつてのバンドマンのイメージとは大きく異なるそのルックス。昨今の若者事情はよくわからないけど、これがイマドキのモテるバンドマン像なの? そもそも「ゲスの極み乙女。」(以下、ゲス極)というバンド名はアリなの? そんな疑問が頭の中を駆け巡った方も多かったのではなかろうか。

 そこで音楽業界を見渡してみれば、確かにここ数年、川谷と似た風貌のボーカリストをフロントマンに据え、全体として似た雰囲気を醸し出しているバンドが少なくはないことに気づく。ベッキーと川谷の愛のキューピッドとも噂されるラッドウィンプスの野田洋次郎、本誌14年9月号「人気“厨二病”バンド セカオワとは何者か?」でも触れたSEKAI NO OWARI(以下、セカオワ)のFukase、5人組バンド、サカナクションの山口一郎、4人組バンドKANA-BOONの谷口鮪、4人組バンド、クリープハイプの尾崎世界観……。

 彼らを眺めていて、ふと気づくことがある。それは、こちら側からフロントマンの目が視認できない、もしくは視認しにくいこと……つまり、前髪が長いのである。これにはきっと、意味があるに違いない。

 というわけで本稿では、ベッキーをオトした川谷率いるゲス極をはじめとする一群のバンドを「前髪重い系」と勝手に命名し、彼らの音楽性、その人気の秘密、そしてどうしてベッキーのような高好感度のタレントと付き合うかことができたのかについてまで、(半ば強引に)分析を加えてみたい、と思うのである。

イカついことがイケていた90年代

 たとえば90年代、人気のロックバンドといえば、ブランキージェットシティやミッシェルガンエレファント、イエローモンキーなどが、すぐに思い浮かぶ。長身痩躯の体型と、不良性をまとった雰囲気。そして何よりも、そこから立ちのぼる男の“色気”のようなもの。そんなロックバンドのボーカルがモテるのは、男の目からもある意味納得のいくところである。その背景には、「ゼロ年代以降の音楽シーンにおける、ある大きな変化があった」と語るのは、長らくバンドシーンをウォッチし続けている音楽評論家のA氏だ。

「90年代は、スタイルとしてのカッコよさを突き詰めているロックバンドが人気でした。ブランキーやミッシェル、イエモンなどが、その典型です。その一方で、グレイやラルク アン シエル、ルナシーなど、ヴィジュアル系と呼ばれていた一連のバンドも、確かに人気があった。まさに“ヴィジュアル系”という言葉が象徴的なように、それらのバンドには、誰が見ても一発でわかる見た目の美があり、それが何よりの魅力だったのです」

 反骨の精神や不良性など、いかにもロック的な「カッコよさ」を持ったバンドマン。あるいは、化粧をした美しきヴィジュアル系のバンドマン。確かに90年代は、ヴィジュアルからして明らかにスタイリッシュなミュージシャンたちが邦楽ロックの中心にいたし、女性人気も高かったのである。

 ところが、ゼロ年代に入ったあたりから、それらのバンドとは異なる風体を持ったバンドが続々と音楽シーンに現れるようになる。そのひとつの分水嶺となったのが、バンプ・オブ・チキン(以下、バンプ)であるとA氏は語る。00年にメジャーデビューし、01年のシングル「天体観測」の大ヒットで一気にお茶の間レベルで認知されるようになったバンプ。90年代に人気を博したロックバンドたちが、ある種特徴的な「外見」を持ったスタイリッシュなロックバンドであったのに対し、彼らは外見以上にその「内面」──特に、その繊細な内面性を表現した「歌詞」に大きな特徴があった。そう語るのは、インディーズを中心としたCDショップで働くB氏だ。

「彼らは、スタイリッシュなもの──クラスでも目立っていたような人たちとは、真逆の場所から出てきたバンドです。あくまでも等身大の目線で、生身の心情を吐露するような歌詞。『痛みや切なさを胸に、それでも前へ進もうとする意思』といったものが、バンプの歌詞には込められていたわけです」

 かつてのロックバンドとは異なり、若者たちの内面を繊細な歌詞で描き出してみせたバンプ。インディーズ時代に彼らがリリースしたアルバムが『THE LIVING DEAD』(生ける屍)と名付けられていたのは、なんとも象徴的な話である。わかりやすい意味での「ロックスター」ではないけれど、それでも鳴らせる音楽がある。それでも生きる意味がある──。そんな彼らのメッセージは、当時悩める思春期を迎えていた少年少女のハートを見事に射抜いたのだった。AKB48の渡辺麻友、元SKE48の松井玲奈など、自身が芸能界に入る以前からバンプを愛聴していたと語る女性タレントは数多い。そんな夢見る女子たちの精神的支柱となったのが、バンプだったのである。

 そのバンプを筆頭に、アートスクール、シロップ16gなど、内省的な歌詞を特徴とする、下北沢発のロックバンドが人気だったゼロ年代初頭。そして、彼らの大きな特徴として挙げられるのが、ゲス極・川谷にも通じる例のアレ──前髪の重さなのだ。彼らはいずれも前髪を長く伸ばし、眉毛はもちろん、目元すら見えない髪型をしている。それは単なる偶然なのか? あるいはそこに何がしかの意味や効果があったのか? タレントやミュージシャンなどのヘアメイクを長らく担当してきたベテランヘアメイクであるC氏は言う。

「前髪を長くして眉を隠すと、男だか女だかわからない、中性的な感じが出るんですよね。あと、眉毛が見えないので、表情がわかりにくくなる。ヘアメイクとしての経験上、シャイな人ほど、前髪の長さにこだわる傾向があるように思いますね」

 シャイな自分を守るための、“武装”としての前髪! 彼らに続いたラッドウィンプスもこの系譜に連なるバンドのひとつだが、彼ら新世紀のロックバンドたちは、いずれもテレビに出ることを極力抑え、ライブを中心にファンとの濃密な関係を取り結んでいたことも、忘れてはならない特徴のひとつだ。誰もが知る「外見」のわかりやすいイメージよりも、私しか知らない彼の「内面性」。そのひとつの象徴として、彼らの前髪はあったのである。

“男”ではありたくない 意思表示としての前髪

「前髪重い系」のバンドが優勢になったバンドシーンに、やがてある変化が訪れる。冒頭に掲げた三大“前髪重い系バンド”のひとつ、サカナクションの登場だ。07年にメジャーデビューし、10年に発表したシングル「アルクアラウンド」、アルバム『kikUUiki』がいずれもオリコン初登場3位を記録、13年にはNHK紅白歌合戦に出場するなど、お茶の間レベルで大きな存在感を示すようになったサカナクション。そのフロントマンであるボーカル&ギター・山口一郎の前髪もまた、確かに重めだし、〈アイデンティティがない〉と歌う「アイデンティティ」という曲が典型であるように、その歌詞世界も内省的なものではあった。しかし、彼らはそれ以前のバンドと、決定的に異なっていたと前出のA氏は続ける。

「それまでの、ギターバンドと称されていた一群のバンドに比べて、彼らは自分たちがやっていることに対して、最初から相当確信的だったし、明確な戦略を持ちながらバンドを運営していました」

 日本でもすっかりロックフェスティバルがお馴染みとなり、音楽ビジネスの中心が、CDなどのパッケージ販売からライブエンタテインメントへと移行しつつあった当時、彼らが何よりも重要視したのはライブ演出だった。映像や照明、音響にこだわりながら、ときに楽器を離れ、メンバー全員がパソコンを操作するなど、バンドを「脱構築」するようなライブパフォーマンスを展開したサカナクション。彼らは、それまでのバンドが避けていたテレビというメディアも積極的に活用しながら、自分たちの魅力を広く世にアピールしていく。ちなみに、14年末に放送されたフジテレビのドキュメンタリー番組『ライナーノーツ』には、サカナクションの熱烈なファンとして、妻夫木聡、水川あさみ、神田沙也加ら著名人が10名登場。サカナクションの魅力について異口同音に熱く語っている。ブログやツイッターなどの普及で芸能人が特定のアーティストのファンであることを公言するのが当たり前になった一方で、アーティスト側からしても、折からの予算削減などで宣伝費も削られる中、著名芸能人によるファンアピールは、むしろ願ったりかなったりという時代が到来してくるのである。

 さらに、サカナクションのもうひとつの新しさとして、大手メジャーレコード会社で働くD氏は次の点を指摘する。

「サカナクションの場合、女性メンバーが2人いるというのも大きいでしょうね。もう見た目からして、いわゆる“男っぽさ”を前面に押し出したバンドではない。そこがイマドキだったのかもしれないですよね」

 前出のヘアメイクC氏も、これに同調するように、こう語る。

「バンプ・オブ・チキンのフロントマン、藤原基央さんまでの前髪は、あくまでもナチュラル、ぶっきらぼうに伸びた前髪でした。対してサカナクション山口さんの前髪は、知的に見えるようにきれいに切り揃えられているんです。女性的というか、少なくとも荒々しい男っぽさをアピールする前髪とは対極のところにありますよね」

 バンドに女性といえば、紅一点のボーカルか女性のみのガールズ・バンド、というのがこれまでの常道だろうが、女性2名を擁するサカナクションのフロントは、あくまでも男性の山口。そして、それ以前のバンドのような男性的なぶっきらぼうさとは真逆のところにある切り揃えられた前髪。前髪重い系バンドはこうして、女性性を獲得したのである。

ファンタジー世界を希求する“物語”としての前髪

 そうした流れのなかで、象徴的なバンドがまた登場する。セカオワだ。11年にメジャーデビューし、同年には武道館単独ライブを成功、13年には3日間で約6万人を集めた野外企画「炎と森のカーニバル」を開催。14年末には紅白歌合戦に出場するなど、この5年間でメキメキと頭角を現してきたこのセカオワ。そのフロントマンであるFukaseの前髪も、やはり重い。そして、キーボードに女性を擁する男女混成バンドでもある。さらに、サカナクション同様、視覚イメージを含めた総合エンターテインメントを標榜している。だが、セカオワの魅力の中心には、サカナクションにはなかったものがあると前出のA氏は語る。それは「物語性」だ。

「かつて精神を病んでいた時期があると公言するなど、かなり危なっかしい存在であるFukaseをメンバー全員が取り囲んで守る、というのがセカオワの物語の基本構造です。さらに、Fukaseのことを幼稚園時代から知る女性メンバーSaoriの存在、メンバー全員での共同生活など、彼らはこれまでのバンドとは違う物語性を持っています。いわゆるロック的な物語というよりも、まるで少女マンガのような物語。若い子たちがセカオワにハマるひとつの魅力が、そこにあるのでしょう」

 サカナクションが、比較的年齢層の高いファンからの熱烈な支持、あるいはファッション関係などクリエイターたちからの高い人気を得ていたのに対し、セカオワ人気を支えているのは、もっと若い層、下手をすればまだ10代そこそこの子どもといってもいい年齢のファンたち。そこには、彼らが持つ「少女マンガ」のような物語性が関係しているというのだ。そのことは、前髪からも見て取れると前出のヘアメイクC氏は語る。

「Dragon Night」のときの赤っぽく染めた髪のイメージが強いFukaseさんですが、実は曲ごとにかなり頻繁にヘアスタイルを変えています。また、そのたびに毎回ウェーブを入れているのが彼の前髪の特徴。セカオワの物語に合わせて変幻自在なのかもしれませんね」

 サカナクションで女性性を獲得した前髪重い系バンドの前髪は、ここにきて物語性、しかもキラキラしたファンタジーのような幻想性を獲得する。同じくファンタジー世界を生き、ヘアスタイルのみならずコスチュームも背景となる歌詞世界も、ついでにいえばお顔のほうもビミョーに変化するきゃりーぱみゅぱみゅとFukaseの相性が良かったのは、ある意味において当然だったのである。

自然に見えて作為的 コメディとしての前髪

 そして、ゲス極である。ライブシーンでの盛り上がりを受けて、14年にメジャーデビュー。同年のシングル「猟奇的なキスを私にして」のリリース・タイミングで、いきなり『ミュージックステーション』(テレビ朝日)に出演。以降、バラエティ番組にも積極的に出演し、14年末には紅白歌合戦に出場するなど、瞬く間にお茶の間レベルで知られるようになったのは周知の通り。マッシュルームカットで眉を隠したフロントマン・川谷絵音のルックスは、明らかに「前髪重い系」の系譜を継いでいる。そして、ドラムとキーボードが女性という男女混成バンドであるところも、サカナクション以降のバンドのあり方を踏襲。だが、そこに彼らは、さらに新しい要素を持ち込んだと前出のA氏は指摘するのだ。

「“お笑い”の要素です。そもそも“ゲスの極み乙女。”というバンド名からして、ふざけていますよね(笑)。川谷君が書く歌詞は、意味深なものが多いけど、それに対して彼は特に責任を持ちません。なぜなら、そこに歌い手の内面性が投影されているわけではないから。それはインタビューなどで本人も認めています。そういう意味でゲス極の歌詞は、電気グルーヴなどに近いのではないでしょうか。意味があるようでない、言葉の響きを希求したナンセンスの面白さというか。そこが、ロックバンドとして新しいところです」

 それ以外にも、ベースの休日課長がドラムのほな・いこかに片想いをしているという“設定”や、その設定を生かしたライブ中のコント的なやりとりなど、従来のロック・バンドとは異なる「笑い」の要素を混ぜ込んだ、独特なライブを披露しているゲス極。そこには、川谷自身が自らの音楽性を追求する別ユニット、indigo la Endとしての活動を並行して行っていることも大きいようだ。ロック・バンドとしてのまっとうな活動は、indigo la Endで。しかし、その余技として始めたゲスの極み乙女。のほうが先に人気が出てしまったのは、皮肉な現実ではある。

「お笑いができるということは、イタい“自意識”からは外れているということを意味します。自分たちのことを、自分たちで笑うことができるのですから。そこがバンドの親しみやすさにもつながっている。もともと音楽とお笑いというのは、エンターテインメントの二軸であり、その両方を極める人たちが国民的な人気を獲得していくのは芸能界の常。クレージーキャッツ、ドリフターズ、タモリなどがいい例でしょう。ひょっとすると、そこへの揺り戻しや原点回帰的なことが、音楽業界の側で起こっているのかもしれないのです」

 対する前出のヘアメイクC氏の言はこうだ。

「彼のヘアスタイルは『ブサイクを隠しているだけ』などとよく揶揄されていますが、実は非常に計算されています。目にかかるギリギリのところでのカット、ナチュラルなように見えて片方の耳だけチラ見せする、さらに雑誌グラビアではきれいにファンデも塗り、黒目のカラコンも入れている。そういう意味では、“あざとい”のかもしれません」

 バンドにお笑いという要素を取り入れるそのセンス、計算され尽くしたヘアメイク。そこには、音楽とお笑いを制した芸能界の国民的スターたちの風格さえ漂う、のかもしれない。彼が、国民的大スターと道ならぬ恋をし、それが発覚して国民的大注目を浴びるのは、ある意味において必然だったのだ。彼の前髪が、そのことを雄弁に物語っている……。

 以上で、前髪重い系バンドの人気の秘密の一端が、賢明なる読者諸氏には十分ご理解いただけたことかと思われる。

 明日以降は、本誌連載「川崎」でもお馴染みの音楽ライター・磯部涼氏の「前髪重い系バンド分析」をはさみ、音楽業界関係者が語る「覆面座談会」にて、彼ら前髪重い系バンドのビジネス展開やその裏側について眺めていこう。前髪をかき上げて、両のまなこでじっくりと読んでいただきたい。

(文/オカタトオル)

【徹底研究】ベッキーをオトしたゲスの極み乙女。だけじゃない! “前髪重い系バンド”はなぜモテるのか!?

――“ベッキー騒動”でやおら世間の注目を集めているゲスの極み乙女。なるバンド。そういえば最近、似たイメージのバンド、多くないだろうか? そこで本企画では、そっち系のバンドを「前髪重い系バンド」と勝手に命名。そのスリートップとして、くだんのゲスの極み乙女。、そしてサカナクション、SEKAI NO OWARIを措定し、大人気の彼らの、その“モテ”の秘密に迫る!

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多くの雑誌の表紙を飾る三大“前髪重い系”バンドたち。バンド全員でのカットが多いゲス極やセカオワに比べ、サカナクションは単独カットが多い。

 2016年1月7日発売の「週刊文春」報道に端を発する、タレント・ベッキーと人気バンド「ゲスの極み乙女。」のボーカル&ギター・川谷絵音の不倫報道。その記事──「ベッキー31歳禁断愛 お相手は紅白初出場歌手」──が掲載された同誌の発売前日、急遽記者会見を開いて謝罪したベッキーだが、その翌々週21日発売の「週刊文春」には、会見前の赤裸々なLINEの内容が再び掲載。「不倫でも略奪でもない」「オフィシャルになるだけ」など、謝罪どころか開き直りにも見えるやり取りが暴露され、結果的に彼女は、CMやレギュラー番組をすべて降板、長期休業を余儀なくされるという異常事態に陥った。

 ミュージシャンがモテるのは、今も昔も変わらない。噂話の類ならば星の数ほどあり、実際結婚まで至った最近の例でも、りょうとブラフマンのTOSHI-LOW、長谷川京子とポルノグラフィティの新藤晴一、蛯原友里とリップスライムのILMARIなど、大物女性芸能人と男性ミュージシャンのカップリングは、特に珍しいことではない。

 しかし、今回の一連の騒動で、決して音楽に詳しくはない一般人をも驚かせた要因のひとつは、相手のバンドマンが既婚者だったこと──ではなく、その「見た目」ではなかっただろうか? 好みは別として、ベッキーはまごうことなき美人ハーフタレントである。対する川谷は、お世辞にもイケメンとは言いがたい、ナヨっとした風貌……。かつてのバンドマンのイメージとは大きく異なるそのルックス。昨今の若者事情はよくわからないけど、これがイマドキのモテるバンドマン像なの? そもそも「ゲスの極み乙女。」(以下、ゲス極)というバンド名はアリなの? そんな疑問が頭の中を駆け巡った方も多かったのではなかろうか。

 そこで音楽業界を見渡してみれば、確かにここ数年、川谷と似た風貌のボーカリストをフロントマンに据え、全体として似た雰囲気を醸し出しているバンドが少なくはないことに気づく。ベッキーと川谷の愛のキューピッドとも噂されるラッドウィンプスの野田洋次郎、本誌14年9月号「人気“厨二病”バンド セカオワとは何者か?」でも触れたSEKAI NO OWARI(以下、セカオワ)のFukase、5人組バンド、サカナクションの山口一郎、4人組バンドKANA-BOONの谷口鮪、4人組バンド、クリープハイプの尾崎世界観……。

 彼らを眺めていて、ふと気づくことがある。それは、こちら側からフロントマンの目が視認できない、もしくは視認しにくいこと……つまり、前髪が長いのである。これにはきっと、意味があるに違いない。

 というわけで本稿では、ベッキーをオトした川谷率いるゲス極をはじめとする一群のバンドを「前髪重い系」と勝手に命名し、彼らの音楽性、その人気の秘密、そしてどうしてベッキーのような高好感度のタレントと付き合うかことができたのかについてまで、(半ば強引に)分析を加えてみたい、と思うのである。

イカついことがイケていた90年代

 たとえば90年代、人気のロックバンドといえば、ブランキージェットシティやミッシェルガンエレファント、イエローモンキーなどが、すぐに思い浮かぶ。長身痩躯の体型と、不良性をまとった雰囲気。そして何よりも、そこから立ちのぼる男の“色気”のようなもの。そんなロックバンドのボーカルがモテるのは、男の目からもある意味納得のいくところである。その背景には、「ゼロ年代以降の音楽シーンにおける、ある大きな変化があった」と語るのは、長らくバンドシーンをウォッチし続けている音楽評論家のA氏だ。

「90年代は、スタイルとしてのカッコよさを突き詰めているロックバンドが人気でした。ブランキーやミッシェル、イエモンなどが、その典型です。その一方で、グレイやラルク アン シエル、ルナシーなど、ヴィジュアル系と呼ばれていた一連のバンドも、確かに人気があった。まさに“ヴィジュアル系”という言葉が象徴的なように、それらのバンドには、誰が見ても一発でわかる見た目の美があり、それが何よりの魅力だったのです」

 反骨の精神や不良性など、いかにもロック的な「カッコよさ」を持ったバンドマン。あるいは、化粧をした美しきヴィジュアル系のバンドマン。確かに90年代は、ヴィジュアルからして明らかにスタイリッシュなミュージシャンたちが邦楽ロックの中心にいたし、女性人気も高かったのである。

 ところが、ゼロ年代に入ったあたりから、それらのバンドとは異なる風体を持ったバンドが続々と音楽シーンに現れるようになる。そのひとつの分水嶺となったのが、バンプ・オブ・チキン(以下、バンプ)であるとA氏は語る。00年にメジャーデビューし、01年のシングル「天体観測」の大ヒットで一気にお茶の間レベルで認知されるようになったバンプ。90年代に人気を博したロックバンドたちが、ある種特徴的な「外見」を持ったスタイリッシュなロックバンドであったのに対し、彼らは外見以上にその「内面」──特に、その繊細な内面性を表現した「歌詞」に大きな特徴があった。そう語るのは、インディーズを中心としたCDショップで働くB氏だ。

「彼らは、スタイリッシュなもの──クラスでも目立っていたような人たちとは、真逆の場所から出てきたバンドです。あくまでも等身大の目線で、生身の心情を吐露するような歌詞。『痛みや切なさを胸に、それでも前へ進もうとする意思』といったものが、バンプの歌詞には込められていたわけです」

 かつてのロックバンドとは異なり、若者たちの内面を繊細な歌詞で描き出してみせたバンプ。インディーズ時代に彼らがリリースしたアルバムが『THE LIVING DEAD』(生ける屍)と名付けられていたのは、なんとも象徴的な話である。わかりやすい意味での「ロックスター」ではないけれど、それでも鳴らせる音楽がある。それでも生きる意味がある──。そんな彼らのメッセージは、当時悩める思春期を迎えていた少年少女のハートを見事に射抜いたのだった。AKB48の渡辺麻友、元SKE48の松井玲奈など、自身が芸能界に入る以前からバンプを愛聴していたと語る女性タレントは数多い。そんな夢見る女子たちの精神的支柱となったのが、バンプだったのである。

 そのバンプを筆頭に、アートスクール、シロップ16gなど、内省的な歌詞を特徴とする、下北沢発のロックバンドが人気だったゼロ年代初頭。そして、彼らの大きな特徴として挙げられるのが、ゲス極・川谷にも通じる例のアレ──前髪の重さなのだ。彼らはいずれも前髪を長く伸ばし、眉毛はもちろん、目元すら見えない髪型をしている。それは単なる偶然なのか? あるいはそこに何がしかの意味や効果があったのか? タレントやミュージシャンなどのヘアメイクを長らく担当してきたベテランヘアメイクであるC氏は言う。

「前髪を長くして眉を隠すと、男だか女だかわからない、中性的な感じが出るんですよね。あと、眉毛が見えないので、表情がわかりにくくなる。ヘアメイクとしての経験上、シャイな人ほど、前髪の長さにこだわる傾向があるように思いますね」

 シャイな自分を守るための、“武装”としての前髪! 彼らに続いたラッドウィンプスもこの系譜に連なるバンドのひとつだが、彼ら新世紀のロックバンドたちは、いずれもテレビに出ることを極力抑え、ライブを中心にファンとの濃密な関係を取り結んでいたことも、忘れてはならない特徴のひとつだ。誰もが知る「外見」のわかりやすいイメージよりも、私しか知らない彼の「内面性」。そのひとつの象徴として、彼らの前髪はあったのである。

“男”ではありたくない 意思表示としての前髪

「前髪重い系」のバンドが優勢になったバンドシーンに、やがてある変化が訪れる。冒頭に掲げた三大“前髪重い系バンド”のひとつ、サカナクションの登場だ。07年にメジャーデビューし、10年に発表したシングル「アルクアラウンド」、アルバム『kikUUiki』がいずれもオリコン初登場3位を記録、13年にはNHK紅白歌合戦に出場するなど、お茶の間レベルで大きな存在感を示すようになったサカナクション。そのフロントマンであるボーカル&ギター・山口一郎の前髪もまた、確かに重めだし、〈アイデンティティがない〉と歌う「アイデンティティ」という曲が典型であるように、その歌詞世界も内省的なものではあった。しかし、彼らはそれ以前のバンドと、決定的に異なっていたと前出のA氏は続ける。

「それまでの、ギターバンドと称されていた一群のバンドに比べて、彼らは自分たちがやっていることに対して、最初から相当確信的だったし、明確な戦略を持ちながらバンドを運営していました」

 日本でもすっかりロックフェスティバルがお馴染みとなり、音楽ビジネスの中心が、CDなどのパッケージ販売からライブエンタテインメントへと移行しつつあった当時、彼らが何よりも重要視したのはライブ演出だった。映像や照明、音響にこだわりながら、ときに楽器を離れ、メンバー全員がパソコンを操作するなど、バンドを「脱構築」するようなライブパフォーマンスを展開したサカナクション。彼らは、それまでのバンドが避けていたテレビというメディアも積極的に活用しながら、自分たちの魅力を広く世にアピールしていく。ちなみに、14年末に放送されたフジテレビのドキュメンタリー番組『ライナーノーツ』には、サカナクションの熱烈なファンとして、妻夫木聡、水川あさみ、神田沙也加ら著名人が10名登場。サカナクションの魅力について異口同音に熱く語っている。ブログやツイッターなどの普及で芸能人が特定のアーティストのファンであることを公言するのが当たり前になった一方で、アーティスト側からしても、折からの予算削減などで宣伝費も削られる中、著名芸能人によるファンアピールは、むしろ願ったりかなったりという時代が到来してくるのである。

 さらに、サカナクションのもうひとつの新しさとして、大手メジャーレコード会社で働くD氏は次の点を指摘する。

「サカナクションの場合、女性メンバーが2人いるというのも大きいでしょうね。もう見た目からして、いわゆる“男っぽさ”を前面に押し出したバンドではない。そこがイマドキだったのかもしれないですよね」

 前出のヘアメイクC氏も、これに同調するように、こう語る。

「バンプ・オブ・チキンのフロントマン、藤原基央さんまでの前髪は、あくまでもナチュラル、ぶっきらぼうに伸びた前髪でした。対してサカナクション山口さんの前髪は、知的に見えるようにきれいに切り揃えられているんです。女性的というか、少なくとも荒々しい男っぽさをアピールする前髪とは対極のところにありますよね」

 バンドに女性といえば、紅一点のボーカルか女性のみのガールズ・バンド、というのがこれまでの常道だろうが、女性2名を擁するサカナクションのフロントは、あくまでも男性の山口。そして、それ以前のバンドのような男性的なぶっきらぼうさとは真逆のところにある切り揃えられた前髪。前髪重い系バンドはこうして、女性性を獲得したのである。

ファンタジー世界を希求する“物語”としての前髪

 そうした流れのなかで、象徴的なバンドがまた登場する。セカオワだ。11年にメジャーデビューし、同年には武道館単独ライブを成功、13年には3日間で約6万人を集めた野外企画「炎と森のカーニバル」を開催。14年末には紅白歌合戦に出場するなど、この5年間でメキメキと頭角を現してきたこのセカオワ。そのフロントマンであるFukaseの前髪も、やはり重い。そして、キーボードに女性を擁する男女混成バンドでもある。さらに、サカナクション同様、視覚イメージを含めた総合エンターテインメントを標榜している。だが、セカオワの魅力の中心には、サカナクションにはなかったものがあると前出のA氏は語る。それは「物語性」だ。

「かつて精神を病んでいた時期があると公言するなど、かなり危なっかしい存在であるFukaseをメンバー全員が取り囲んで守る、というのがセカオワの物語の基本構造です。さらに、Fukaseのことを幼稚園時代から知る女性メンバーSaoriの存在、メンバー全員での共同生活など、彼らはこれまでのバンドとは違う物語性を持っています。いわゆるロック的な物語というよりも、まるで少女マンガのような物語。若い子たちがセカオワにハマるひとつの魅力が、そこにあるのでしょう」

 サカナクションが、比較的年齢層の高いファンからの熱烈な支持、あるいはファッション関係などクリエイターたちからの高い人気を得ていたのに対し、セカオワ人気を支えているのは、もっと若い層、下手をすればまだ10代そこそこの子どもといってもいい年齢のファンたち。そこには、彼らが持つ「少女マンガ」のような物語性が関係しているというのだ。そのことは、前髪からも見て取れると前出のヘアメイクC氏は語る。

「Dragon Night」のときの赤っぽく染めた髪のイメージが強いFukaseさんですが、実は曲ごとにかなり頻繁にヘアスタイルを変えています。また、そのたびに毎回ウェーブを入れているのが彼の前髪の特徴。セカオワの物語に合わせて変幻自在なのかもしれませんね」

 サカナクションで女性性を獲得した前髪重い系バンドの前髪は、ここにきて物語性、しかもキラキラしたファンタジーのような幻想性を獲得する。同じくファンタジー世界を生き、ヘアスタイルのみならずコスチュームも背景となる歌詞世界も、ついでにいえばお顔のほうもビミョーに変化するきゃりーぱみゅぱみゅとFukaseの相性が良かったのは、ある意味において当然だったのである。

自然に見えて作為的 コメディとしての前髪

 そして、ゲス極である。ライブシーンでの盛り上がりを受けて、14年にメジャーデビュー。同年のシングル「猟奇的なキスを私にして」のリリース・タイミングで、いきなり『ミュージックステーション』(テレビ朝日)に出演。以降、バラエティ番組にも積極的に出演し、14年末には紅白歌合戦に出場するなど、瞬く間にお茶の間レベルで知られるようになったのは周知の通り。マッシュルームカットで眉を隠したフロントマン・川谷絵音のルックスは、明らかに「前髪重い系」の系譜を継いでいる。そして、ドラムとキーボードが女性という男女混成バンドであるところも、サカナクション以降のバンドのあり方を踏襲。だが、そこに彼らは、さらに新しい要素を持ち込んだと前出のA氏は指摘するのだ。

「“お笑い”の要素です。そもそも“ゲスの極み乙女。”というバンド名からして、ふざけていますよね(笑)。川谷君が書く歌詞は、意味深なものが多いけど、それに対して彼は特に責任を持ちません。なぜなら、そこに歌い手の内面性が投影されているわけではないから。それはインタビューなどで本人も認めています。そういう意味でゲス極の歌詞は、電気グルーヴなどに近いのではないでしょうか。意味があるようでない、言葉の響きを希求したナンセンスの面白さというか。そこが、ロックバンドとして新しいところです」

 それ以外にも、ベースの休日課長がドラムのほな・いこかに片想いをしているという“設定”や、その設定を生かしたライブ中のコント的なやりとりなど、従来のロック・バンドとは異なる「笑い」の要素を混ぜ込んだ、独特なライブを披露しているゲス極。そこには、川谷自身が自らの音楽性を追求する別ユニット、indigo la Endとしての活動を並行して行っていることも大きいようだ。ロック・バンドとしてのまっとうな活動は、indigo la Endで。しかし、その余技として始めたゲスの極み乙女。のほうが先に人気が出てしまったのは、皮肉な現実ではある。

「お笑いができるということは、イタい“自意識”からは外れているということを意味します。自分たちのことを、自分たちで笑うことができるのですから。そこがバンドの親しみやすさにもつながっている。もともと音楽とお笑いというのは、エンターテインメントの二軸であり、その両方を極める人たちが国民的な人気を獲得していくのは芸能界の常。クレージーキャッツ、ドリフターズ、タモリなどがいい例でしょう。ひょっとすると、そこへの揺り戻しや原点回帰的なことが、音楽業界の側で起こっているのかもしれないのです」

 対する前出のヘアメイクC氏の言はこうだ。

「彼のヘアスタイルは『ブサイクを隠しているだけ』などとよく揶揄されていますが、実は非常に計算されています。目にかかるギリギリのところでのカット、ナチュラルなように見えて片方の耳だけチラ見せする、さらに雑誌グラビアではきれいにファンデも塗り、黒目のカラコンも入れている。そういう意味では、“あざとい”のかもしれません」

 バンドにお笑いという要素を取り入れるそのセンス、計算され尽くしたヘアメイク。そこには、音楽とお笑いを制した芸能界の国民的スターたちの風格さえ漂う、のかもしれない。彼が、国民的大スターと道ならぬ恋をし、それが発覚して国民的大注目を浴びるのは、ある意味において必然だったのだ。彼の前髪が、そのことを雄弁に物語っている……。

 以上で、前髪重い系バンドの人気の秘密の一端が、賢明なる読者諸氏には十分ご理解いただけたことかと思われる。

 明日以降は、本誌連載「川崎」でもお馴染みの音楽ライター・磯部涼氏の「前髪重い系バンド分析」をはさみ、音楽業界関係者が語る「覆面座談会」にて、彼ら前髪重い系バンドのビジネス展開やその裏側について眺めていこう。前髪をかき上げて、両のまなこでじっくりと読んでいただきたい。

(文/オカタトオル)

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