ドラマ化できないなら……フジテレビが“ミステリー作家の登竜門”『江戸川乱歩賞』後援撤退か

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「江戸川乱歩賞」の後援から、フジテレビが撤退するかもしれないというウワサがささやかれている。9月9日、帝国ホテルで行われた第62回の贈呈式で、壇上で挨拶したフジテレビの亀井千広社長が渋い顔をしていたからだ。

「年々、受賞作が映像化しにくい作品になっておりまして。今年の受賞作も帯に『私の家族は全員、猟奇殺人鬼』とあります。テレビでは絶対できません」

 一見、ジョークのようにも聞こえたが、亀山社長はそのまま誰と歓談することもなく、受賞者と記念写真を撮るや、そそくさと会場を後にしていて、現場にいたフジ社員が「ドラマ化できないようなモノばかりなら、後援なんかしないぞっていう圧力みたいなもの」と言っていたのだ。

 同賞は1955年から日本推理作家協会が主催、池井戸潤、森村誠一、野沢尚らを生んだ「売れっ子ミステリー作家」輩出の文学賞で、フジは92年から後援。これは実のところ「ドラマ原作」を獲得するためのものだとされ、実際に受賞作では95年の『テロリストのパラソル』(藤原伊織)、96年の『左手に告げるなかれ』(渡辺容子)、98年の『果つる底なき』(池井戸潤)、2002年の『滅びのモノクローム』(三浦明博)、10年の『再会』(横関大)などがフジでテレビドラマ化。同賞は副賞として1,000万円が設定されているが、これにはフジテレビによる3年間の独占映像化権への対価も含まれている。

 しかし、近年の受賞作では13年、残酷な連続殺人が描かれた『襲名犯』(竹吉優輔)や、14年、盲目の主人公による『闇に香る嘘』(下村敦史)など、映像化しにくい作品が目立っているのは確かで、ドラマ化は激減している。今年の受賞作も、やはり凄惨なシーンが連続する一家全員が殺戮者の物語、『QJKJQ』(佐藤究)だった。

「選考委員がどう考えているかはわかりませんが、傾向としてはレベルの高さを維持したいというところがあって、いかにもテレビドラマにしやすいような話を選ぶ他賞と別格にしようという感じはあります」と出版関係者。

 ただ、やはりテレビ局後援だからか、受賞者は吉本興業で警備員をしていたという経歴で、会場内では「中身じゃなくて、人脈としてテレビにすり寄った」という陰口も聞かれた。

 実際、亀山社長は挨拶でも「佐藤さんはよしもとの芸人と顔を合わせているでしょうから、映像化の際にはキャスティングプロデューサーとしてもご協力いただければ」と露骨な一言。しかし、実際にフジテレビに「今年の江戸川乱歩賞の『QJKJQ』のドラマ化はありますか?」と聞いてみたが「今のところそのような話はありません」とのことだった。

 フジテレビはゴールデンプライム枠の年間視聴率で民法4位に転落しており、そのイラ立ちが贈呈式に当てられたようにも見えたが、それに反して古い業界人の出席者からは「ドラマ化を意識しすぎた文学賞は低レベルになっていくので、本来はドラマ化を頂点とするべきではない。テレビのプロなら映像化しにくいものの映像化に挑戦しろ」という声も聞かれた。
(文=李銀珠)

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