慶弔休暇のない就業規則は違法じゃない 「ブラック企業!」と叫ぶ前に知っておきたい休暇の話
こんにちは! ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。
近頃、特に意識をしなくても、長過ぎる労働時間や休暇が取れないといった問題をニュースや新聞でよく見かけるようになったと思いませんか? 少なくとも「ブラック企業」という言葉を知らない人はいないのではないでしょうか。
私も先日4カ月間休みが無かったというアルバイト大学生を紹介している番組を見て、一個人として、また、労働関連の専門家である社会保険労務士として時代の変化を感じました。
若いアルバイトの人と会社側が休暇で揉めることはひと昔前には非常に珍しいことでした。でも今は、「休暇」など自分の労働条件に疑問や不満を持ち、行動を起こそうと考える人も増えてきているようです。
そこで今回は、最近は給料よりも重視する人もいると言われている「休暇」について、そして就業規則の超基本を解説したいと思います。
「就業規則」とは?
会社の「就業規則」を見たことはありますか? 就業規則には、会社が守るべきルールと従業員が守るべきルールなどが書かれています。これは自分が働いている会社の法律みたいなものです。
たとえ「これはひどい!」と反感を覚えるようなことが書かれていても、なんと、その就業規則は有効です。法律では、就業規則に従業員の同意までは求めていないので、たとえ従業員から反対意見があったとしてもそのルールは「有り」なのです。
でも、安心してください。あまりに酷すぎることが書かれていた場合は、自動的に労働基準法の内容となります。例えば就業規則に「労働時間は1日12時間」と書かれていたとしても、法律に違反しているので、一部の例外を除いて自動的に労働基準法が定める通り「1日の労働時間は8時間まで」となります。
つまり会社は、労働基準法に違反しない範囲で勝手にルールを決めて就業規則を作ることができるということです。従業員が10人以上であれば就業規則があるはずですし、いつでも自由に読むことができるようになっていなくてはなりません。
就業規則で確認すべきは慶弔休暇よりも有給休暇
「会社と闘う!」といった目的もなしに就業規則を開いても、小難しい文章が何十ページにも渡って書かれているので、すぐに読む気が失せる人が大半だと思います。ページをペラペラめくって、ぼんやり眺めるくらいになってしまうでしょう。
ただし、多くの人は慶弔休暇(結婚。出産、死などお祝いや不幸)の部分になると、わりとゆっくり読みます。そして「親が死んでしまったら○日休めるのか!」「結婚では○日? 旅行とか無理じゃない!」「え? お金がもらえるんだ!」「でも、無給だって!」などと心のなかで小さく盛り上がります。
中には慶弔休暇が書かれていない就業規則も存在します。そのことに気付くと「ブラック企業だ!」などという声を挙げたくなるかもしれません……が、実は労働基準法には慶弔休暇を定める義務が一切ありません。つまり就業規則に慶弔休暇が書かれていなくても、その会社は違法な「ブラック企業」ではないのです。結婚や身内の不幸などで休んではいけないというわけでもありません。
就業規則で慶弔休暇が定められていない場合、そして結婚・出産、不幸とは関係なく休みを取りたい場合に使えるものが「有給休暇」です。有給休暇は原則として理由を問わずに使えるものですから、就業規則ではまず有給休暇を確認すべきでしょう。なにせ、「有給」は読んで字のごとくお金をもらえるお休みです。慶弔休暇は無給の場合も多いです。
法律では、働きはじめてから6カ月が経過し、その間に全労働日の8割以上出勤した場合、10日分の有給休暇を取ることができるようになっています。その後も勤続期間に応じて増えていき、勤続6年半以上だと1年に20日分の有給休暇が取得できます。これ以下の基準は法律上NGですが、これよりも多いことはあり得ますし、勤続6カ月が経過していない従業員にも有給休暇を与える会社もあります。
なにより覚えておきたいのは、パートであっても有給休暇はあるということ。社内での呼び方が「パート」であるかどうかは関係ありません。週の決まった労働時間が30時間未満であれば有給休暇を取得できる条件に当てはまる可能性があります。例えば、週1回の勤務で年間48日働くという契約をしている方でしたら、働きはじめてから6カ月が経過し、その間に全労働日の8割以上出勤していれば、1日の有給休暇が発生します。
このケース、有給休暇が与えられる中でもっとも労働日の少ない例です。最低ラインとしてぜひ覚えておいてください。これ以上働いている方は有給休暇の権利があるかもしれません。せっかくの休暇ですから、さっそく就業規則を確認してみることをおすすめします。
まとめ
その他、通常の就業規則には、有給休暇を取得する際の手続き、有給休暇が余った場合の繰り越し(法律では2年で時効)についても書かれています。
就業規則は、「あれ?」と思った時にとても重要なものです。残業や休日出勤について、副業について、病気やケガによる休職についてなど、会社に対して疑問を感じた場合は、まず確認してみましょう。
特に従業員という立場では、法律上当然の権利と同時に、人間関係、コミュニケーションも重要になります。会社を辞めることなく円滑に働いていくためには、ふたつのバランスを取り続けなければいけません。バランスを崩した場合、時には会社を辞めなくてはならない事態に陥り、自分の人生が崩れてしまうこともあるでしょう。会社がどういう規則を設けているのかを、「闘うタイプのアクション」を起こす前に知っておくことが大切です。その上で、会社と上手に交渉するなり、あるいは転職の準備をするなどの対策をとるほうがよいと思います。
「働くこと」はお金に関係する重要な要素の1つです。自営業ではなく、お給料をもらって働くという方法を選んだ場合、会社での立場、会社との関係を心地よくキープしていくために、正しい権利を知ることと同時に、人間関係などバランスよく保っていけるよう、自ら備えておくようにしましょう。